第百十一話「ペガサス、空を飛ぶ」
昼休みの校庭にて。
「おいおいおい! ペガサス、今なんつった!?」
風紀委員のペガサスが胸を張って言い放った。
「空、飛べるに決まってるじゃん! 俺、ペガサスだよ? 伝説の天馬ってやつ!」
さそり座のスコルが鼻で笑う。
「おまえ、入学してから一度も飛んだところ見たことねーけどな」
「今日は特別! 風向きも良いし、スコル、おまえが地面に縛られてる間に俺は雲の上を走ってるって寸法さ!」
「こいつ……言うだけ言って飛ばねぇパターンのやつじゃん」
そこへ現れたのは、トキオ先生。
「おーい、体育館裏でジャンプ台を作ってるってほんとか? なんの部活だ?」
「いいえ、個人の夢です!」
ペガサスは堂々と答え、マントを翻す。
「風紀委員はね、夢も守らなきゃいけないのさ!」
「いや、風紀とは……?」
ツッコミが間に合わないトキオの背後で、いて座のアーチェが応援に来た。
「いけー! ペガサスー! 夢を射抜けー!」
「それおまえの専門だろ!!」
ふたご座のジェムとジェナがカメラを構える。
「映えポイントゲット!」
「飛んだ瞬間、スローモーションで編集ね!」
「校則違反やんけ!」とスコルが叫ぶが、すでにペガサスはジャンプ台に立っていた。
「いくぜ! ペガサス、ターイム!!」
ジャンプ!
……からの、
ズシャァァァ!!!
「飛んだーー!!」
「いや滑ったーーーーー!!!」
勢いよく突っ込んだ先には、昼寝中のうしかい座・ボウ。
「……夢の中で、飛んでた気がする」
「おまえの夢じゃない!」
結局、ペガサスは飛ばなかった。
でもその日の放送委員・キャプリの声は、なぜか熱く響いていた。
「本日、風紀委員による空中飛行は、未遂に終わりました。
が、その心意気は、確かに空へと向かっていました――以上!」
学園の空は今日も平和で、どこかしら騒がしい。




