第百九話「星と星の間にひそむもの」
午後の自由時間、図書室の窓辺では静かな空気が流れていた。
「……ふむ。星と星の“間”には、何があるのかしらね」
おとめ座のビリナがページをめくりながらつぶやく。
隣では図書委員の特権を使って、カニ座のセルナが特大クッションを抱えて座っていた。
「うーん……宇宙って“真空”でしょ? つまり何もない、ってことじゃないの?」
「そう思うでしょ。でも、完全な“無”じゃないのよ」
ビリナの語り口はいつも静かで、でも芯がある。
聞いていたヤギ座のキャプリも、そっとメモ帳を開いた。
「星と星の間には、“ダークマター”とか“星間物質”とかが存在してるの。
目に見えないけど、宇宙の重力バランスを保ってる、いわば“縁の下の力持ち”」
「ほえぇ〜……そういうの、私も育ててみたいなぁ……」とセルナ。
「それ、育つの?」「物質じゃなくて概念に近いわね」とツッコミの応酬が入り、図書室がほんのり笑いに包まれる。
そこに現れたのは、放課後の見回り中のルナ先生。
「ダークマターに興味があるなら、夜空を見上げるといいわ。闇の奥にある何かが、きっと語りかけてくるわよ」
「えっ、具体的にはどこを?」
「さあ、感じて。感じて、キャプリ」
……詩的なのか雑なのか、判断がつかない返しに、皆が苦笑する。
その日の図書室は静かで賢く、少しだけふしぎだった。
星たちは、自分たちが“光”であることに誇りを持っている。
けれど、“間”にある見えないものたちにも、確かな意味があるのだ。
「ねえ、ビリナ。こういう話、もっと聞かせてよ」
「いいわよ。次は、“星の死”について語ってあげるわ」
それはちょっと怖そうだったけれど、どこかワクワクもしていた。




