第十話 名前のこと、ちょっとだけ
昼下がりのヒカリ荘。
星たちが縁側に寝転んで、空を見ていた。
「ねえ兄ちゃん、オレたちってさ、なんで“ヒカル”“トキオ”“ミラ”って名前なんだろ」
唐突なトキオの問いに、長男ヒカルが腕を組んだ。
「え? それ、今さら?」
「だって人間界には“ベテルギウス”とか“アルタイル”とか、かっこいい名前の星もいるじゃん。オレたち、ちょっとカジュアルすぎない?」
「カジュアルも個性だよ」とミラがもごもご言いながらアイスを食べていた。
そこへ月がやってきた。
「あなたたちの名前、ちゃんと意味があるわよ。
“ヒカル”は光。“トキオ”は時間にちなんで。“ミラ”は未来の語源ね。どれも、星にふさわしい名前」
「おお……急に詩的だ!」
「さすが月先輩! 語彙力モンスター!!」
「ちなみに、“アルタイル”は“飛翔する鷲”。“ベテルギウス”はアラビア語で“巨人の肩”よ」
「肩!? そこなの!?」
星たちが盛大にずっこけていると、太陽が湯飲み片手にやってきた。
「俺の名前なんて、そのまんま“太陽”だぜ? 名は体を表しすぎてるっていうか」
「でも“サン”って響き、あったかいじゃない」とミラ。
「名前って、意味以上に“音”でも気持ちが伝わるもんよ」と月。
「たとえば“ヒカリ荘”もそうだね」とトキオが言う。
「うん、“ヒカリ”ってつくと、なんか安心する」
しばらく、みんなで静かに空を見上げた。
空にあるものたちは、いろんな名前を持っている。
それが誰につけられたものであっても、いつか誰かの記憶に残るなら――
その名前は、もう“意味のあるもの”になっている。




