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第百三話 蒼と翠の午後
ヒカリ荘の縁側に、やわらかな陽ざしが差し込んでいた。
蒼は、いつもの定位置で丸くなっていた。
縁側の角、いちばんあたたかい場所。
ぴくりと尻尾が揺れるたびに、春の風がそっと通り抜けていく。
その少し向こうで、翠がひとり遊びをしていた。
転がった小枝に前足を伸ばし、ひょいと跳ねて追いかける。
風に舞う葉っぱを、捕まえたり逃したり。
勢いあまってごろんと転がり、思わず蒼の近くまで転がり込む。
蒼はちらりと顔を上げたが、また目を閉じる。
翠は、少し照れたようにしっぽを揺らして、そっと隣に座った。
ふたりは、並んでしばらく無言のまま過ごした。
遠くで鳥が鳴く。風鈴がちりりと鳴る。
それでも、ふたりは動かない。
やがて翠が、ちいさく喉を鳴らした。
蒼はその音に応えるように、静かに尻尾を絡めた。
言葉なんていらない、そんな午後だった。




