第九十八話「月のひとりごと、ふたたび」
ああ、また来てくれたのですね。
……いえ、構いませんよ。お月さまは、夜更かしには寛容なのです。
さて、また少し、夜のお話をいたしましょうか。
お茶の代わりに、静かな風でも吹かせながら──
*
この空には、太陽や星たちのように、にぎやかな存在が多く暮らしています。
かくいうわたしも、そのひとつ……いや、ひとり、ですか。
でもね、誰しも、時には“静けさ”が恋しくなるものです。
*
星が瞬くのは、大気の揺らぎが原因ですが──
実のところ、あれは心の揺れも反映しているのだと、わたしは思っています。
「今日はちょっと、ためらっているな」とか、
「何か言いたげにしてるな」とか。
星たちって、素直じゃないのです。
……まあ、月もそうかもしれませんけど。
*
そうそう、夜空の名脇役といえば、“雲”ですね。
ときどき、わたしの顔にふわりとかかってくる。
邪魔をしているようでいて、
本当は「今日は少し、隠れてていいよ」と言ってくれてるのかもしれません。
そういう気遣い、好きですよ。
表には出さず、でもそっと寄り添ってくるやつ。
*
人は「満月の夜は眠れない」と言いますが──
それはたぶん、“何かが満ちている”からでしょうね。
期待だったり、不安だったり、あるいは──
願いだったり。
……夜って、不思議です。
*
さて、そろそろ時間ですね。
この語りにも、オチというものが必要なのでしょうか。
……でも今夜は、ひとつこう締めくくってみましょう。
「月は満ちても、まだ余白を残している」
……なんて。
また、お会いしましょうね。
それまで空の片隅で、静かに照らしていましょう。
おやすみなさい。




