第九十七話「太陽とさそり」
その日、ヒカリ荘の屋上にきらりと光が走った。
「来たな……今日もご苦労さん」
サンはまぶしそうに空を見上げた。
そこに降り立ったのは、黒と金のスーツに身を包んだ整った顔立ちの青年。
鋭い視線で地平線を切り裂くように言う。
「太陽。今宵も決着をつけに来たぞ。“恒星の王”をな!」
「はいはい、いつものね」
ルナがため息をつく。
「まただ……」
星三兄弟もすでにマニュアルを開きはじめた。
──現れたのは、太陽に性質がそっくりな恒星、18 Scorpii、「スコーピィ」。
何かと張り合ってくる、サンの長年のライバルである。
「じゃあトキオ、判定頼むな! 今日こそ“完全勝利”だ!」
「はいはい。どうせいつもの三番勝負なんだろ?」
トキオがあきれつつも、いつものスコアボードを取り出した。
*
「第一ラウンド! 恒星としての“輝き”対決!」
スコーピィがポーズをキメながら発光。きらりとスマートな輝きが走る。
「ふふ、精密観測データでは私の光度もなかなかのものだ」
「ハッ! 数字なんかに負けてられっかよ! 太陽拳!!」
バッ!!と全力のまばゆい光を放つサン。
「ああああ眩しい! カーテン閉めてカーテン!」
ルナが目を押さえながら叫ぶ。
*
「第二ラウンド! 人類への貢献アピール対決!」
スコーピィは、NASAの研究レポートを片手に語る。
「私のスペクトル型は太陽に酷似し、地球外生命の探査にも応用が──」
「固い! 長い! 伝わらない!」
サンは、まひろちゃんの描いた「たいようありがとう」の絵を差し出す。
「なにそれ、ズルい!!」
ルナが笑いながら肩をすくめ、星たちが拍手する。
*
「第三ラウンド! ダンスバトル!!」
雷がDJブースからビートを放つ。
スコーピィは優雅なステップでムーンウォーク。
対してサンは、勢いだけの“パッション盆踊り”。
「ワッショイ! エンヤコラ太陽節!」
「もはや恒星関係ないな……」トキオがつぶやいた。
*
勝負が終わった頃、ヒカリ荘にはすっかり夜が降りていた。
「今日は引き分け、だな」
「いや、今日“も”引き分けじゃない?」とミラ。
「……それでも、勝ち負けじゃないのさ。こうして張り合えるやつがいるってのが、いいのよ」
スコーピィはふっと笑い、背を向ける。
「次こそは勝つ。じゃあな、太陽」
「また来いよー! 今度は運動会形式にしよーぜ!」
ルナがぼそっと言った。
「……この勝負、たぶん一生終わらないわね」
けれど、そんな不毛さすら愛おしい──
そう思える空の夜だった。




