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第九十七話「太陽とさそり」

その日、ヒカリ荘の屋上にきらりと光が走った。


「来たな……今日もご苦労さん」


サンはまぶしそうに空を見上げた。


そこに降り立ったのは、黒と金のスーツに身を包んだ整った顔立ちの青年。

鋭い視線で地平線を切り裂くように言う。


「太陽。今宵も決着をつけに来たぞ。“恒星の王”をな!」


「はいはい、いつものね」

ルナがため息をつく。


「まただ……」

星三兄弟もすでにマニュアルを開きはじめた。


──現れたのは、太陽に性質がそっくりな恒星、18 Scorpii、「スコーピィ」。

何かと張り合ってくる、サンの長年のライバルである。


「じゃあトキオ、判定頼むな! 今日こそ“完全勝利”だ!」


「はいはい。どうせいつもの三番勝負なんだろ?」

トキオがあきれつつも、いつものスコアボードを取り出した。



「第一ラウンド! 恒星としての“輝き”対決!」


スコーピィがポーズをキメながら発光。きらりとスマートな輝きが走る。


「ふふ、精密観測データでは私の光度もなかなかのものだ」


「ハッ! 数字なんかに負けてられっかよ! 太陽拳!!」


バッ!!と全力のまばゆい光を放つサン。


「ああああ眩しい! カーテン閉めてカーテン!」

ルナが目を押さえながら叫ぶ。



「第二ラウンド! 人類への貢献アピール対決!」


スコーピィは、NASAの研究レポートを片手に語る。


「私のスペクトル型は太陽に酷似し、地球外生命の探査にも応用が──」


「固い! 長い! 伝わらない!」


サンは、まひろちゃんの描いた「たいようありがとう」の絵を差し出す。


「なにそれ、ズルい!!」


ルナが笑いながら肩をすくめ、星たちが拍手する。



「第三ラウンド! ダンスバトル!!」


雷がDJブースからビートを放つ。

スコーピィは優雅なステップでムーンウォーク。


対してサンは、勢いだけの“パッション盆踊り”。


「ワッショイ! エンヤコラ太陽節!」


「もはや恒星関係ないな……」トキオがつぶやいた。



勝負が終わった頃、ヒカリ荘にはすっかり夜が降りていた。


「今日は引き分け、だな」


「いや、今日“も”引き分けじゃない?」とミラ。


「……それでも、勝ち負けじゃないのさ。こうして張り合えるやつがいるってのが、いいのよ」


スコーピィはふっと笑い、背を向ける。


「次こそは勝つ。じゃあな、太陽」


「また来いよー! 今度は運動会形式にしよーぜ!」


ルナがぼそっと言った。


「……この勝負、たぶん一生終わらないわね」


けれど、そんな不毛さすら愛おしい──

そう思える空の夜だった。

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