表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第4話 調査まとめ、そして帰還へ

最終話です。よろしくお願いします。


 いつものように宇宙船の上部の箇所を開けて、船内の執務室で報告書をまとめるやよい(AI-841)。

 場所はこの「テラ005」で一番大きい陸地である、例のボルネオ島ほどの大きさの島の海岸近く。

 日中は気温40度を超えることしばしばで、湿度は一日中90パーセント近い。


「惑星全体で気温と湿度が高い。これを抑えるのは人工的な陸地を造り、且つ両極を冷やさなければならないので、技術的にはほぼ不可能と感じる……」


「島への植民は意味がないと思われる。先ず陸地が限られているので、各種食料供給と給排水とエネルギー施設に関するプラントの建設を考えれば、数百万人の植民が限度であろう……」


「この惑星を食料庫としての、海への地球由来の魚介類の放流は危険と断じる。以下の海水と海中の生物データを確認していただければ分かるが、プランクトンがかなりの有機水銀を保持し、確認されたクラゲのような生物の体内に至っては、マグロ類の水銀濃度を遥かに超えている……」


 地球のマグロ類やクジラ類。

 これら海洋の生態系の頂点の水産物には水銀量が多い。

 これは「生物濃縮」といって、食物連鎖の過程で海洋の頂点の生物ほど、より水銀が濃縮と蓄積されていることを意味する。


 もっとも、これらは毎日ドカ食いしなければ、大したことがない程度で、せいぜい妊婦がこれらの海産物を控えるように、と言われるくらいだ。


 だが、この「テラ005」の海の水銀状況は地球とは異なっている。


 ぶ~ん。


 やよいが上を向くと、空にはこの島特有の全長80センチメートルを超えるバッタやゴキブリを思わせる生き物が飛んでいる。


「もし、人間がこの地で植民するとしたら、あの子たちは研究用に一部は残され、全て駆除されちゃうんだよな」


 やよいは海底でのあの神秘的な何百万匹もの光るクラゲが回遊していた美しさにも思いを馳せる。


「地球由来の海産物をここに生簀として放流するとしたら、水銀除去の一環であれらも駆除の対象になっちゃうかも」


 報告書をまとめたやよいはある覚悟を決める。



「さて、冥王星基地へと帰るとしますか!」


 取得した各種の植生や生き物のデータを再度確認し、保存した海水のチェックをするやよい。


「海水の微生物ちゃんたちは連れて行っちゃうけどごめんね~」


 船内内部にこの「テラ005」の生き物がいないことを確認すると、上部の箇所を閉じる。

 密閉されたその空間は気温は40度、湿度も90パーセント近く。


 ロボットのやよいは呼吸をしない。

 彼女の人工皮膚も当然皮膚呼吸をしない。

 なので、船内の大気はこの気温と湿度で密閉されたまま。


 だが、痛覚を初め各種の感覚を備えたロボット。

 当然、暑さと湿気でやよいの人工神経系は悲鳴を上げている。


「こんな暑くてジメジメしたところなんて、行きたいと思う人間なんていないでしょ!」


 やよいは「テラ005」の大気を実際に冥王星基地へ持ち込むのだ。

 冥王星基地内部は気温16.5度、湿度35パーセントと固定されている。

 基地内部の人間が帰還したやよいの宇宙船に入ったら、暑さと湿度で仰天する筈だ。


「はぁ~、これを6年間も耐えなきゃならないのか……」


 宇宙船はふわふわと上昇して、成層圏を抜けると、一気に「テラ005」から飛び出した。


「さよなら、暑くてジメジメしてて美しい星。どうか他の知的生命体に見つからないで、その暑さとジメジメのままでいてね」



「あっつ……」


 宇宙省の勤務服を脱ぎ、操縦席の後に座り込み全裸でだらけるやよい。

 薄いボードのようなものを手に取って、パタパタと自身に扇ぐ。

 自動操縦中だ。

 そこへ船内からアラームが鳴る。


「周辺区域問題なし。これより90秒後に超光速航法(ワープ)に入ります」


 船内時間で西暦2331年7月16日の昼ごろ。

 第1回目の超光速航法を行なうアナウンスが船内に流れる。


「どうにか機器類はこの気温と湿度でも大丈夫みたいね。機械でダメなのは私だけか~」


 船内で動くロボットはもう一つあり、それは掃除ロボットなのだが、ヒューマノイド型ではなく船内の掃除に特化した形状である。

 やよいは「テラ005」を離れる前に、このロボットを船内の隅々まで動き回らせ、「テラ005」固有の生物や菌類などがいないかどうかのチェックに使っていた。

 この役目を終えたロボットは、今現在は船内の所定の位置に納まっている。


 勤務服に着替えたやよいはヨロヨロと操縦席に着き、各種のベルトを締める。


「うわーっ! もうっ、これがあと6年間も続くの~!」


 船外の音のしない宇宙空間にまで、まるで聞こえるようなやよいの叫び声が響くのであった。


第4話 調査まとめ、そして帰還へ 了


湿度90パーセントの楽園 完結

やよいちゃんの活躍、というかある種の拷問物語。

読んでくれてありがとうございます。


もし、これの関連作を書くとしたら、「テラ001」~「テラ003」の調査員の話になると思います。


年に1作はSFものをやりたいと思っているので、拙いながらも頑張ります。



【読んで下さった方へ】

・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。

・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■これらは発表済みの作品のリンクになります。お時間がありましたら、よろしくお願いいたします!

【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
「004」と違って至って平穏無事に終わった模様。 1個体がセンサー系のアラートを訴えてますが些細なことでしょうね。 しかし、その船内の空気、何故そのままにしとくんですかね? アンドロイド用だから空気…
∀・)少なくとも読者は楽しめるSF旅行記であると感じました。 ∀・)やよいさんの人間味ね、そこが光っていたような気もします。 ∀・)しいなさんの「梅雨のじめじめ企画」より。いでっちでした。
楽しい旅行記?をありがとうございました(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ぺこ 私もそこ、住みたくはないので、どうかそっとしておいてあげてください(*^^*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ