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第2話 調査開始

2話目です。よろしくお願いします。


 宇宙船を降りるときは、下部の鈍い銀色箇所から降りる。

 この下部の中には六輪の探査車両があるが、やよい(AI-841)は上部の白い部分を開放する。


 約12平方メートルの操縦席があるコックピット、16平方メートルの診察室兼充電室、8平方メートルの執務室、4平方メートルのエアシャワー室。


 白い巨大な蓋は開けられ後方にスライドし、これらの室内に「テラ005」の外気が存分に入り込む。


「ちょっと泳いでみるか」


 着陸した場所は海岸沿いで、宇宙省の勤務服を脱ぎ、全裸になったやよいは、開けられた2メートル30センチほどの高さの箇所に乗り、そこから地上へとジャンプして降りた。


 空はどこまでも青く、薄い雲がまばらにある。

 海は波静かで、遠くに目をやると空と海の水平線が溶け合う、青一色の世界。


 海へと走るやよい。

 砂浜が足裏に接る感触を感じる。


 彼女の全裸は全く人間の20代半ばの女性と変わらず、長い手足としなやかな肢体は、モデルよりではなく、どこかアスリートっぽさを感じさせる。


 ロボットの人工皮膚はこのように感触や暑さや湿気を、人間と同様に人工神経系と人工頭脳で感じ取る。

 唯一の違いは、例えば汗をかかないとか、仮に寒さなら凍傷にならないなどだ。


 ざばざばざば……。


 海中に入り、泳ぎを楽しむやよいであったが、ちゃんと任務は忘れていない。

 500mlの密閉容器をいくつか持ち、この「テラ005」の海水をサンプルとして持ち帰るためだ。


「うん。塩分濃度を初めほとんど海水の成分は地球と同じようね。ただ海水温は流石に高めか」


 ある程度まで泳ぐとダイバーの如く深く、100メートル、200メートル、300メートルと沈んで行く。


「海の生物は微生物やプランクトンだけ? かなりのプランクトンの量だけど、海中成分に無機水銀が多いから微生物によってメチル水銀にされ、これらをプランクトンが摂取して濃縮されている……」


 仮に「テラ005」を巨大生簀として、魚介類を放流しても、相当数が高濃度の有機水銀を濃縮する可能性が高い。


 本格的な海底調査は後で宇宙船でするとして、海水浴を終えたやよいは宇宙船の近くに戻る。

 事前に用意していた海水を淡水に変えた装置のシャワーを浴びる。

 そして、宇宙船内に入り、各水深の海水を入れた容器を所定の位置にしまい、続いてエアシャワー室に入り全身の細かい汚れを落とす。


「うわ~、それにしてもホント暑くてジメジメ」


 やよいは勤務服姿に戻る。

 白の長袖シャツとネイビーブルーのジャンバーと同色のスラックス、そして黒褐色のハーフブーツ。

 人間ならば、この気候では耐えられないコーディネートである。

 やよいの人工神経系も悲鳴を上げている。

 人間との違いは、繰り返しだが発汗をしないことと、熱中症や脱水症状を起こさないだけ。



 着陸した島の感じもボルネオ島に近い。

 熱帯雨林が密生して、中央部は山地で、一番高い山の標高は4000メートル近くある。


 但し、植生は地球で見たことがないものもあり、そして生物は……。


 ぶ~ん。


「うわっ!」


 全長80センチはあろうかというバッタを思わせる昆虫がまず目についた。


「ここは古生代後半なの!?」


 どうやら地上の生き物は様々な昆虫だけで、脊索動物、つまり爬虫類や両生類や哺乳類は確認されない。


「流石に虫を持ち帰るのはかわいそうね。スキャンして構成される細胞構成のデータを持ち帰ろう」


 やよいは上着の胸ポケットに付いた宇宙省の記章を軽くなぞる。

 すると、やよいの目の前に浮遊スクリーンが浮かび上がる。これは宇宙船内の機器と連動している端末だ。


 これを操作して、巨大バッタの撮影して、その構成される細胞データを取り込む。


「あとは、この辺りの植物のデータと、この島の山頂も調べたいな」


 山頂へ達すのには、宇宙船にするか船内の六輪の探査車両にするか、色々迷ったが結局登山にすることにした。



 宇宙船の開いたままの上部を密閉させ、やよいは登山をする。


「離れている間に大雨が来たら、船内がびしょ濡れになっちゃうからね。それより登山中に大雨が来ないかな?」


 またも端末を操作して、この辺りの気象図と二日後までの様子を早送りした予想図をやよいは見入る。


「うん。雨は定期的に来るけど、豪雨や台風は大丈夫みたい」


 不思議な形の巨大な葉っぱをかき分け、空中を飛ぶ巨大トンボや巨大ゴキブリのようなものを、「あっち行って」と手で振り払いながら、やよいはこの島の一番の頂を目指す。


 5メートル以上はある崖上へ跳躍して登り、500メートルの勾配をダッシュして1分ほどで登り上がる。


 約4000メートルのこの島の頂点に、やよいは半日であっさりと到達した。

 日が沈み、夜ではあるが、彼女の黒褐色の両目には、高精度の暗視機能が備わっている。


「ほとんど地面で、多少の草地。気温は16.3度。湿度は79.2パーセント」


 気温がやや低いが、湿度が高いので、霧が多少発生している。

 しかし、空に輝く星々ははっきりと確認できる。

 当然、地球からの場合と星座は異なっている。


 この場所での生物は確認されず、この高地での植生をやよいはスキャンして、データを取り込んだ。

 途上、菌類も多く、キノコのようなものも生えていて、それらもデータ取得済みである。


「後は、肝心の大半の海の調査ね。深海に潜れば何か生き物がいるかなぁ」


 やよいはそう言うと、崖下10メートルを平然と飛び降り、地上の宇宙船へと戻っていく。

 戻った時には夜が明け、朝日が昇り始めていたが、空は徐々に灰色雲に覆われ始める。

 

 ちょうど宇宙船近くにまで進むと、ぽつぽつと雨が降り出し、瞬く間に豪雨となる。


「なにこれ~! 天気予報当たってなーい!」


 やよいは急いで宇宙船の中に戻るのであった。


第2話 調査開始 了

続きます。

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【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
2話まで読んだ感想を1話めにつけてしまいましたm(_ _)m
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