第1話 到達、そして着陸
あらすじにも書いていますが、本作は私の作品「惑星への意志」(N8349IZ)の関連作です。
未読の方は順序として、この「惑星への意志」を読んでから、本作を読んでいただけるとうれしいです。
1
「これハズレでしょ。10%どころか、島が少しあるだけじゃない?」
そう操縦席に乗った女性が独り言ちる。
周りには誰も人がいない。
いや、厳密には誰も人はいない。
上部は白亜、下部は鈍い銀色をした宇宙船。
全長36m、最大全幅は10m、最大全高は12m。
形状は楕円形。
超光速航法機能を備えたそれは、人ならざる者によって操作される。
アンドロイド。
自分で思考可能な、完全なヒューマノイド型のロボットによってだ。
その理由の一つは、単純に危険だから。
もう一つは、ロボットなら、飲食物の保存スペースや給排水や酸素供給のシステムを、船内に造る必要が無いから。
人類が太陽系外へ行ける宇宙船はまだ開発されていない。
操縦する宇宙省の勤務服を着た女性に見えるロボットは、20代半ばの地球人の全女性の容姿を平均化した感じ。
全長は173センチメートルで、バランスの取れた長い手足と体つきの重量は5じゅう……(ムグッ!)。
「ロボットだからって、女のそれを言うかな~!」
失礼、これは機密事項のようである。
ベリーショートの髪は少し癖のある黒褐色。
同じく黒褐色の瞳。
肢体を包む肌は明るい褐色。
この肌。実際に人間の皮膚移植に使われる皮膚繊維を培養したもので、なぜそのような肌なのかというと、ロボットの人工頭脳と人工神経系に、痛覚や暑さや寒さを伝えるためである。
痛覚が無いと、故障個所を感じないので、自己修理が遅れ、最悪動作停止となる。
船内にはコックピットだけでなく、特殊な診断装置と簡易な修理機能を備えた充電室もある。
最後に彼女の名前を紹介しないといけない。
コードネーム「AI-841」。
「私のことは『やよい』って呼んでね~」
とのことである。
2
さて、やよいが冥王星基地より出発したのは、西暦2325年6月18日23時10分(世界暦125年)。
現在の船内時間は、2331年の6月22日10時過ぎ。
時刻は協定世界時(UTC)である。
つまり、約6年かけて目的とする惑星を至近とする位置まで到着した。
この惑星系はほぼ太陽系と同じ構成で、第三惑星が地球と似た環境であることが判明したのだが、太陽系からは600光年離れている。
つまり、超光速航法機能を備えたこの宇宙船は、1年で100光年の距離を航行することが可能なのだ。
この宇宙船には、様々な慣性や重力や位相の制御がされているので、船内時間は地球の時間と一致している。
なので目的を果たして帰還しても、12年後の地球時間のはずである。
「そうだといいんだけどね~」
やよいが調査する予定の第三惑星は「terra-005」と発見時に命名されたので、今後は「テラ005」と呼ばせていただく。
察しの通り、005なので、それ以前に001から004までの地球型惑星が発見されていた。
「004の調査は、確か『AI-810』先輩だったね。まっ、彼なら上手く今ごろ帰還の途についてるでしょ」
通常航行で「テラ005」に近づくと、やよいは呆れた声を発する。
「ホント小さな島がいくつかあるだけ! 10%が陸地ってどんな精度なの!?」
やよいは金星の軌道上に設置された、太陽からの光エネルギーを利用している、天の川銀河を隅々まで見渡せる巨大宇宙望遠鏡に毒づく。
「一番大きそうなのがボルネオ島くらいね。あとはその周りに20000平方キロメートル(四国が約18300平方キロメートル)以下の島がいくつか点在しているだけか」
つまりこの「テラ005」は文字通りの水の惑星のようだ。
3
「地球と合っているのは、直径、自転周期、重力、そして大気成分みたいね。少し酸素が多めかな。太陽の大きさと質量と活動状況、及び太陽に対しての距離もほぼ1au(astronomical unit、地球と太陽との平均距離の単位)か。まぁ、これだけ合っていれば上出来でしょ」
なので、「テラ005」の公転周期も凡そ370日前後だ。
水。つまり海とその上空の雲に覆われたこの惑星が、やよいの肉眼でも確認できる位置にまで宇宙船は迫る。
ちなみに船内のコックピットは、楕円形の上部に当たる白い箇所の内部にある。
コックピット内の天井や壁や床は、そのまま外部を映すモニターに切り替えることが可能で、現在やよいはそうしている。
さながら座した操縦席で宇宙空間を浮遊している感覚を覚える。
「よしっ! あのボルネオ島に着陸しよう!」
勝手に着陸すべき場所を名付けたやよいは、「テラ005」の大気圏に突入して、抜けるとゆっくりと着陸すべく操縦する。
「うわ~、台風やら豪雨やらむちゃくちゃ。ボルネオ島は今は晴れのようね」
実際のボルネオ島と同じく、この島の位置もほぼ緯度が0度と赤道付近。
地軸は地球ほどないが少し傾いている。
だが、恐らくこの惑星全体が熱帯雨林気候だろう。
両極には氷の存在が確認されなかった。
着陸し、まずやよいは外の温度と湿度を調べた。
「温度38.4度。湿度88.1パーセント。台風や豪雨が多いみたいだし、これはリゾート地としてはイマイチね」
やよいは宇宙船外に出て、この「テラ005」の調査の準備をする。
第1話 到達、そして着陸 了
おまけ:このやよいが乗っている宇宙船のイメージイラストです。
続きます。