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第23話 ガラスの花束を君に

 後日、今度こそ美紗ちゃんの面会ができるようになりそうだとマネージャーの黒田さんから連絡が来た。


 僕はそれからスマホで色々なガラス作品を見ていて、ある日、「これだ」と思うものを見つけた。



 工房の片隅では、じいちゃんが古いスケッチブックをめくっている。

 夕方の静かな時間、体験客も帰り、掃除も終わった後だ。


 僕はしばらく迷った末、決心したようにじいちゃんに近づいた。


「じいちゃん、ちょっといい?」

「ん? どうした」

 じいちゃんは老眼鏡の上から僕を見上げた。


「あのさ――ガラスで花束を作りたいんだけど」

 言葉が出るとともに、頬が熱くなるのを感じた。

「花束?」

 じいちゃんは眉を上げ、スケッチブックを閉じた。


「美紗ちゃんに面会ができるから、プレゼントにしたくて」

「ほう」

 じいちゃんの口元に、微かな笑みが浮かぶ。


「でも、体験のレクチャーはできるようになったけど、 自分で何かを0から作るのは初めてで」

 僕は言葉を詰まらせた。

「どうすればいいのか、わからなくて」


 じいちゃんはゆっくり立ち上がり、作業台に向かった。

「まず、どんな花を作りたいんだ?」

「勿忘草……青い小さな花」

「デザインは?」

「ここに」

 僕はスマホの画面に保存した写真と、

 自分で描いた下手な絵を見せた。


 じいちゃんは黙って見つめ、しばらくして頷いた。


「花びらは何枚だ?」

「五枚。五輪の花を作りたい」

「なるほど」


 じいちゃんは引き出しから古い図面を取り出した。


「花びらの作り方は二通りある。板ガラスを熱で曲げる方法と、溶かしたガラスを型に流し込む方法だ」

 じいちゃんの指が、図面の上をなぞる。


「どっちがいいんだろう?」

「お前が美紗ちゃんに渡すなら、一枚一枚、手で形を作る方がいいだろうな」

 じいちゃんの目が、優しく僕を見つめていた。


「でも、難しそう」

「そりゃ難しいさ。だが、その分、心が伝わる」

 じいちゃんは工具箱から細いピンセットを取り出した。


「まず、ガラスの厚さと色を決めよう。青一色か? それともグラデーションにするか?」

「グラデーションがいいな。青から紫にとか、できる?」

「いい選択だ」


 じいちゃんは色見本を広げた。


「花びらの厚さは? 薄すぎると壊れやすいが、厚すぎるとやぼったいし重くなる」

「薄い方が、本物の花みたいでいいな」

「なら、こうしよう」

 じいちゃんは紙に簡単な工程表を書き始めた。


「一日に一枚ずつ作る。それなら焦らずに済む。最初の数枚は失敗するだろうから、全部で三十枚は作るつもりで始めろ」

「三十枚も!?」

「あぁ。芸術はな、量産だ。いいものを作りたいならまず数をこなすのが絶対条件だ」

 じいちゃんが笑った。

「じゃあ、明日から始めるよ」

「ああ。朝早く工房に来い。客が来る前に教えてやる」

 じいちゃんは僕の肩を叩いた。


「じいちゃん。ありがとう」

「礼を言うのは、花束が完成してからだな」

 じいちゃんはそう言って、再びスケッチブックを開いた。


 工房の窓から見える夕焼けが、まるで僕が作りたいガラスの花のように空いっぱいにキラキラと広がっていた。


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