第15話 壊れたら、おしまい
ガラスは壊れやすいけど、美しい?
そうだとしても。
壊れたら、おしまいなんだよ。
それまで築いてきた人間関係と同じように。
この日は体験の申し込みが多くて、後片付けをすることも躊躇われた。
壊れたままの美紗ちゃんのガラス作品――いや、それはもはや美紗ちゃんの破片だと感じていたもの――は、工房の端っこに寄せられた。
昼過ぎ、マネージャーが現れた。
黒いスーツに、落ち着いた雰囲気の――それは、どう見ても年上の男だった。
「こんにちは。美紗がお世話になりました。マネージャーの黒田です」
彼は丁寧に名刺を差し出した。
この間とは、まるで雰囲気が違う。
「あの、この間は、ご無礼を失礼いたしました。そして――」
僕は頭を深く下げた。
「申し訳ありません。美紗さんの作品なのですが、さっき誤って割れてしまいました」
声が震えるのが自分でも分かった。
「えっ」と一瞬驚いたのち、「まぁ、ガラスですもんね……」と黒田さんは呟いた。
「本当に申し訳ありません……。ご足労もいただいたのに。必ず、1週間以内に作品を修復して、お送りいたします」
男は僕を見つめたまま、何も言わなかった。
僕は不安になって、「あ、あの?」と様子を伺う。
「美紗から色々聞きました。この間は、失礼な態度をとってしまい申し訳なかった。怒られました」
と頭を下げた。意外な行動に、僕は心底驚いた。
「いえ、いえいえいえ。僕こそ、お兄さんのこと追跡なんてしてしまって……探偵でもないのに……」とただひたすらに、ぺこぺこ頭を下げた。
「せっかく来たからなぁ。じゃあ、君の作ったものを見せて」
「え?! あ、自分は手伝いをする程度で……」
「そうなの? 美紗から、物作りが好きって聞いたんだけど。なにもないの?」
「あ、えっと……じゃあ、あと最近作ったものは」
なにかガラス体験で作ったものを見せようと思い、スマホを取り出した。が、一番に、動画が出てきた。
「あ」と思ったのはもう遅かった。動画が再生される。
ダッサイ動画。
どう見ても。恥ずかしかった。顔から火が出そうだった。
「へぇ。動画も作るんだ。味があっていっていいね」
もう、何を言われてもお世辞だと思った。
その後黒田さんは少し考えて、こう言った。
「――美紗の作品は壊れてなくなってしまった。それなら、代わりに何かを用意してってオーダーしても、バチは当たらないかな?」
「は、はい?」いまいち理解がおいついていないまま、黒田さんを見る。
「せっかくなら、ただ直すんじゃなくて。割れた美紗の作品にプラス、君のセンスも入れた作品にしてやってください」と付け足した。
「……必ず、納得いただけるようなものをお渡しします」
僕はもう一度、深く頭を下げた。
男は「楽しみにしています。なにか美紗に、言いたいことや聞きたいことはありますか。あれば伝えるけれど」と言った。
僕は迷って、でも頭に浮かんできた疑問がひとつあった。
美紗ちゃんは、人魚なのかな?
ありえないメルヘンな考えだけど、あながち嘘じゃなく、僕はどこか本気でそう思っていた。
「美紗ちゃんは人魚じゃないですよね? ……海のほうに住んでいるんですか?」
あぁ、なんてアホなんだろう。




