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第13話 壊すということ

 ふいに、そんな衝動が僕を支配した。

 ガラスの作品を振りかぶり、

 思いきり床に叩きつけようとしたその瞬間――


「やめろ」

 じいちゃんの低い声が、背後から響いた。


 振り返ると、じいちゃんがじっと僕を見つめていた。


 その目は、炎のように静かで、けれどどこか優しかった。


「壊すのは簡単だが、創るのは難しい」


 じいちゃんはゆっくりと歩み寄り、僕の手からそっとガラスの器を受け取った。


「お前がどんな気持ちでこれを作ったか、わしにはよくわかる。自分から壊したらだめだ」


 僕は、じいちゃんの手の中で震えるガラスを見つめた。


「でも……約束を破られたんだ。僕、信じてたのに。いつもそうだ。信じたら、裏切られる」


 声が震えた。

 じいちゃんは、静かに首を振った。


「人はな、時に約束を守れんこともある。

 だが、それでお前まで自分を壊してどうする」


 じいちゃんはガラスを机の上にそっと置き、

 僕の肩に手を置いた。


「お前がこれを壊したら、

 お前自身の心も、きっと割れてしまう」


 じいちゃんの手が、僕の背中をぽんと叩いた。

 僕は、何も言えなかった。

 喉の奥が熱くなり、涙がこぼれそうになる。


「……どうして、みんな僕を裏切るんだろう」


 小さな声で呟くと、じいちゃんは少しだけ笑った。


「お前が誰も信じてないだけじゃないのか?」


 その言葉が、胸の奥に深く刺さった。



 ふと、視線に先にあるオルゴールが目に留まった。

 彼女が指先でそっと撫でる様子を思い出させる。


 僕は想像してしまう。

 もし美紗ちゃんが本当に“海からきた人魚”だったとしたら――


 夜の海面に、静かに顔を出して、

 遠い星空をじっと見上げているのだろうか。

 波間に揺れる長い髪、

 水面に映る星の光。

 誰にも気づかれず、

 ひとりで小さな願いごとを呟いているのかもしれない。


“ねえ、もし願いがひとつだけ叶うなら、何をお願いする?“


 そう聞く美紗ちゃんの声が頭の中で再生される。

 美紗ちゃんの願いは、どんなものだったんだろう。


 オルゴールが、静かに回り続けていた。


 願いごと、叶うといいな。


 僕の知らない、どこかで。


 その音色は、まるで夜の海に響く波のように、

 僕の心の奥まで、優しく染み込んでいった。


 どうせ、僕のいないところで。

 幸せになってください。

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