表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネオス・パンゲア怪異ファイル  作者: 芦田メガネ
第1章 悠久なる東洋
9/46

束の間の休息

 窫窳(あつゆ)の死骸を回収用ボックスに入れて、地べたに垂れた血を掃除する作業に取りかかる。

「俺はいつもみたいに縄で血を拭き取るから、廻原はペットボトルで水汲んで来て」

「OK牧場。何本くらい?」

「そうだな、今回はそんなに汚れてないから5本で足りるかも」

「あいよ。ちょい待ち」


 廻原は近くの川まで行き、水を汲んで戻って来た。廻原は持っていた一本のペットボトルを近くの岩の上に置くと、その瞬間、ペットボトルは5本に増えていた。

「おいおい、既にさっきの戦闘で能力使ってたのに、こんなことで能力使って良かったのか?めちゃくちゃ疲れるんだろ、アレ」

「まーね。でも、結局、5回水を汲みに行くのと労力は変わらんからな。それプラスで能力発動による体力消耗くらい。それなら、早く作業を終わらせた方がいいだろ?」

「そうか、お前ばかりに負担かけちまって悪いな」

「良いってことよ。その代わり、後で飯作ってくれ。腹が減った!」

「わかったわかった。すぐ終わらせるから待っててな」


 廻原が汲んできた水を少しずつ流しながら血を拭っていく。廻原の手際と技術が良かったおかげか、はたまた妖刀の特性なのか、血はそこまで多く流れなかった。掃除はものの数分で終わった。

「よし、じゃあ飯にしよう。俺の部屋でいいな?」

「もちのろんよ。頼むぜ」




 俺はストレージ付き腕時計から簡易休憩室を取り出す。一見するとただの潜水艦のハッチのような見た目だ。だが、地面に設置して数秒待って「チーン」という電子レンジのような音とともに蓋が開くと、中にはアパートの一室のような空間が広がっていた。早速、俺たちはハシゴを降りて中に入る。手洗いとうがいをして、廻原はリビングのソファーでくつろぎはじめ、俺はキッチンで晩飯の支度をする。


 冷蔵庫を開け、どんな食材が残っているか確認する。少し前に持ちこんだ市販の醤油焼きそばセットと、豚肉と、野菜炒め用パックが入っていたので、今日は醤油焼きそばを作ることにした。それだけでは足りないので、棚からパックご飯も取り出した。



 まずは、焼きそばセットの指示通りに野菜と肉を炒めて一度取り出す。次に麺をほぐして蒸し焼きする。そのときに、料理酒も少し加えた。最後に、野菜と肉を戻し、味付けをしていく。この醤油焼きそばはそのままでも充分美味いが、俺にはちょっとしたこだわりがある。それは、隠し味として花椒粉(ホアジャオフェン)を入れることだ。これを入れるだけで、風味が抜群に良くなり、味も締まる。花椒粉を少し振り炒めると、まるで本格的な中華料理屋のような匂いが部屋中に広がった。最後に、盛り付けて鰹節をトッピングして完成だ。




 リビングに焼きそばとご飯を持って行くと、廻原は俺が持ち込んだ昭和の時代の生放送型コント番組のDVDを見て大爆笑していた。やはり、この男は昭和のお笑いが妙に刺さるらしい。まぁ、俺もこの番組は大好きだけどね。

「お楽しみのところ悪いが、飯ができたぞ」

「おー、ありがとな。お!醤油やきそばか!お前の焼きそばホントに美味いからなー」

「褒めてもこれ以上なんも出ねぇぞ。冷めねぇうちに食うべ」


 焼きそばとご飯を配膳し、麦茶を注ぐ。

「「いただきます」」

 自分で言うのもアレだが、かなり美味い。やはり花椒粉が良い仕事をしている。入れすぎると舌が痺れて食えたもんじゃないが、適量だと良いアクセントになる。


「コースケ、やっぱお前ホントに料理上手いな。プロの中華の味だぜ、これ。店に出しても良いレベルだぞ。」

「そりゃどうも」

「これ食ってると思い出すよな。俺たちの師匠もお前の焼きそばをいつも美味そーに食ってた。ビールを片手に本当に幸せそーに」

「そうだな、懐かしいな。今度また作ってやりてぇな」



 師匠はまだ健在だが、怪防隊の幹部として出世したため、今は中々会えずいる。またいつか、焼きそばを作って、3人でちゃぶ台を囲って食べたいものだ。俺たちはアルコールが苦手だから師匠と一緒に酔えないのが残念だが、師匠の飲みっぷりを見るのは大好きだ。


 そんな、昔のことを思い出しながら焼きそばを食べ進め、完食する頃には満腹になっていた。

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした。じゃあ、俺は皿洗いとかするから、お前はもう自分の部屋に帰りな」

「りょーかい。明日は何時起き?」

「そうだな、明るいうちに職場に帰りたいから6時でいいんじゃねぇか?」

「OK牧場。おやすみ」

「はい、おやすみ」



 廻原が自分の部屋へ行った後、後片付けを一通り終わらせ風呂に入った。そして、少しだけ持ち込んだゲームで遊んだ後、午後11時頃に布団に潜る。思えば、まともな睡眠を休暇明け以降全く取っていなかった。弥三郎婆(やさぶろうばさ)との戦闘の後は掃除をしていたため睡眠時間を確保出来ず、そのまま中国エリアにやってきて任務をしてきた。今はなんとも思わないが、新人の頃はこんなことに耐えられなかった。人間の慣れは恐ろしい。そんなことを考えてるうちに眠りについた。




 翌朝、簡単な食事をとった後、俺と廻原は電車でニイガタ支部へ向かった。午後3時頃、事務所に到着し、早川上官に任務の成果を報告する。

「ご苦労だったね、2人とも。そして、武縄、連日の任務、大変だったな。今日は2人とも帰っていいぞ。今は特に君らが適任の任務は来てないからな。明日、また来てくれ。」

「了解しました。失礼します」

「りょーかいです。では」


 束の間の休息だ。数日しか家を空けてないが、とんでもなく長い時間留守にしていたような気がする。今日はもう、飯を作る気にもならなかったので、テイクアウトの牛丼で腹を満たし、身支度を調えて就寝した。


・・・布団に入ってから気付いた。そういえば部屋の掃除をしていなかったな。でも、まぁ、良いことにしよう。どうせまたすぐ長期間家を留守にすることになりそうだから。

 

今回もお読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

以下、解説パートです。


簡易休憩室

見た目はただのハッチ。地面に設置すると異空間が呼び出され、中に入れる。間取りは風呂トイレ別の1LDK。布団や調理器具、非常食、テレビや冷蔵庫のような家電など必要最低限のモノが怪防隊により最初から備えられている。Wi-Fiも使える。それ以外の食材やゲームや漫画などは各個人が持ち込む。部屋のテレビで外の様子を見ることができる。ストレージ付き腕時計の6番に収納されている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ