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ネオス・パンゲア怪異ファイル  作者: 芦田メガネ
第1章 悠久なる東洋
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墜ちた神

「さっきネットニュースでだいたいの事件のあらましは知りましたけど、今回のターゲットなどんな奴なんです?」

 俺は抱いていた疑問を吐き出した。あの記事には現地民の証言から犯人は怪物であることが示唆されていたが、詳細な正体までは記されていなかったからだ。



上官は口を開く。

「それなら話が早くて助かるよ。今回のターゲットはおそらく、窫窳(あつゆ)という奴のようだ。断定は証拠が少なくて出来ないが、現地民が口をそろえて窫窳だと証言しているから、ほぼ確実だろう」



 窫窳、か。聞いたことがない名前だ。隣にいる廻原も首をかしげていることから、相当マイナーなのだろう。そして、俺はもう1つ疑問に思っていたことを尋ねた。

「もう1つ教えてください。なぜ我々が適任者として選ばれたのですか?」

「そうだな、それを話さなければならないよな。それは、廻原、お前に1番大きな理由がある」


 廻原は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。

「え、俺なんすか!?」

「そうだ、お前だ。厳密に言えばお前が所持している『妖刀』に用事がある。窫窳を討伐するにはお前の妖刀のような特別な武器が必要となる。だが、現在出動可能な隊員でそのような武器を所持しているのはお前だけだった。そして、武縄、お前は廻原のことを1番よく知っているはずだ。廻原の超能力、そして刀についても。お前ら2人の力でなければ現状、窫窳を討伐することは不可能ということだ。」


 窫窳とやらはそんなに厄介なやつなのか。廻原の妖刀レベルの代物が必須の任務なんて今まで受けたことがない。もっとも、その妖刀自体はほぼ毎回使ってはいるが、普通の刀でも問題無く切り伏せることができる相手ばかりだった。


 早川上官は続ける。

「今から現地に向かい窫窳を討伐してきてくれ。資料はこちらで用意してあるから確認しておくこと。以上だ。健闘を祈る」




 俺たちはすぐに駅に向かい、「ネオス・パンゲア大陸横断鉄道 特別急行」に乗り込む。この特急電車は各地方の重要地区を結ぶようにして開通されたもので、いわば大陸の大動脈だ。縦断特急もあり、この2つの鉄道からいくつものローカル線が毛細血管のように伸びており、大陸の交通を支えている。


 今回はニイガタ行政区から乗り込み、中国エリア西部のシセン行政区のセイト地区の駅で途中下車し、電車を乗り換えて現場であるチンハイ地区へと向かう。そして、いつものように電車に揺られながら渡された資料を確認する。




窫窳(あつゆ)、中国に伝わる伝説の神、そして怪物。紀元前4世紀から紀元前3世紀ごろに書かれたとされる中国の地理書『山海経(さんがいきょう)』にその存在が記されている。もともとは蛇の身体に人面を持つ天神だったが、別の神に殺されてしまった。その後、同じく伝説上の皇帝である黄帝(こうてい)崑崙山(こんろんさん)で蘇生して貰ったものの、何を思ったか川に身を投げて怪物になってしまったという。


 怪物となった窫窳の姿には諸説あるが、山海経では赤い牛のような身体に人面で、足は馬のようになっていて赤ん坊の声で鳴くとされている。人を襲って喰らう凶悪な怪物で、弓の名手によって討伐された。






 墜ちた神が転じて人食いの化け物になってしまった、ということか。

「なぁ、廻原。この怪物、お前はどう思う?」

「そーだな、まー強いだろうよ。もとが神ならな。それに、伝説で窫窳を倒した弓の名手、羿(げい)って奴も天からやってきた神様らしいじゃねーか。ってことは、神に匹敵する力じゃないと窫窳はぶっ殺せねーってわけだ。俺の愛刀、村正『一胴七度(いちのどうしちど)』に白羽の矢が立ったのも納得だな。まー、倒せるさ、お前とならな」


「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの。俺は徹底してサポートに回るから、廻原は攻撃に集中してくれ」

「OK牧場。任せとけ」




 その後は車内販売の弁当を食べたり、仮眠を取ったりしているうちに、15時ごろにはセイト駅に到着した。そして、すぐにチンハイ地区行きの電車に乗り込む。現場はチンハイ地区のバヤンカラ山脈だ。今回の事件でなぜこの地に窫窳が出現したのか。窫窳が蘇生した伝説上の山、崑崙山は黄河の源流であるとされている。そして、現実での黄河の源流はバヤンカラ山脈である。なので、そのような地形的状況が一致しているから、というのが俺たちの見解だ。



17時、バヤンカラ山脈の麓の駅に到着した。まずは、現場を見に行くことにした。幸いにも山を登る必要はなく、黄河と思しき川の近くだった。警察が貼ったと思われる白い人型のテープがそこにはあった。近くの草や石は所々血で汚れている。俺たちは静かに手を合わせ冥福を祈る。

 

 周囲はもうとっくに暗くなっていた。少し休むための場所を探しに歩き始めたそのとき、微かに何かが聞こえてきた。山の上から何かの鳴き声が聞こえてくる。俺はすぐにインスタント照明を、廻原は一胴七度を腕時計から取り出す。音は次第に近づいてきて、やがてハッキリと聞こえた。

呱呱(おぎゃあおぎゃあ)


 そして、照明に照らされソレは姿を現した。赤い牛の身体に馬の脚、そして落ち武者のような髪型の人間の男の顔。間違いない、窫窳だ。

今回もお読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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