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ネオス・パンゲア怪異ファイル 〜平凡な能力者、怪異と悪意をド根性と友情パワーでぶっ飛ばす〜  作者: 芦田メガネ
第1章 アジア編

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強襲!ロック鳥

 翌日。俺たち一行はさっそくロック鳥の巣があるマロモコトロ山の麓にやって来ていた。麓はそれなりに緑があるものの、途中からはほんのりと草が生い茂っただけの岩山と化している。これは中々にハードな道のりになりそうだ。


「よし、行くぞみんな!きばって行けよ!」


 時刻は午前7時。朝日がさわやかに輝いている。山を登るために鉱石の採掘場を通り抜けるのだが、ロック鳥が何をするか分からないため現在は稼働していない。この島の一大産業でもあるため、一刻も早く解決するしかない。


 でも、そんな状況なのに登って大丈夫なのかと思うだろうが、問題はない。ロック鳥は現在餌を求めてこの島に居ない。ロック鳥が戻ってくる前に巣の調査を終えるのが理想だが、奴の行動パターンは極めて不規則的であるため、プラン通りに行かないと思っていた方が良いだろう。




 採掘場を抜けていよいよ本格的な登山が始まった。まだそれなりに植物が生い茂っているものの、思っていたより地面はゴツゴツとしていてかなり足場が悪い。こんな所で戦闘が始まったら受け身もろくに取れないし、踏ん張りも効きにくいから苦戦を強いられることは明白だ。


「にしても暑いですねぇ。この服着てるとはいえ、日差しが暑い」

「そうだな。エアコン機能あっても日差しまでは防げないからね。我慢するしかないよ」

「ですねぇ」

「それに、俺は君たちより暑いんだぜ」

「どうしてです?」

「頭皮に直に日が当たるからな」

「ア、アハハ…」


 反応に困ることを言わんでくれ。そんなに暑いなら帽子でも被ったらどうか、そう思いながら彼の頭を見上げると、そこにはぴょっこりと可愛らしい猫耳が生えていた。なるほど、それなら仕方あるまい。


 それからはずっと無言だった。ジリジリと照りつける日差しに嫌気が差す。虫の声と岩や草を踏みしめる音だけがこだまする山道をえっちらおっちら登って行く。


 すると突然、ウォルターさんが歩みを止めて右腕で俺たちにも停止を促した。頭の猫耳がぴょこぴょこと動いている。なにかをキャッチしたのだろうか。嫌な予感がする。


「…マズイな」

「どうされました?」

「帰って来やがったな…クソやろう…」

「マジすか…じゃあ、早く隠れないと」

「いや、無駄だな」

「なぜです?」

「真っ直ぐ向かってきてる。俺たちを、完全に捕捉してやがるッ!」

「なるほど〜。じゃあ、もう、()るしかねェですねェ!」

「ちょっ、武縄先輩!なに笑ってるんですか!?というか、本気で言ってます!?」

「あたりめぇだろ。ここで野郎を沈静化しないと仕事にならねェからなァ。それに、ちょっとワクワクしてきた」

「同感だ。みんなで迎え撃つぞ!」

「ウッス!じゃあ、とりあえず戦いやすそうな場所探さんとですね。あとどんくらいで来そうです?」



 ウォルターさんは再び耳を澄ませて索敵をしている。俺たちは黙ってその様子を眺めていると、口を開いた。

「しめて、1分てところだな」

「じゃあ、もう、ここで戦うしかねェっスね…」


 今いる場所は緩やかな傾斜がついた岩肌の間からほんのり草が生えているような場所。どちらかと言えば戦うのに適してはいないが、この山の中では比較的マシな方だ。贅沢は言えない状況だやるしかない。


「とりあえず、ここでヤツを迎え撃つ!みんな、それぞれ準備を!みんなで連携したいことがあれば今のうちに伝えてくれ!」

「では、俺から失礼します」

「よし、武縄、頼んだ」

「メインアタッカーは、ウォルターさんと廻原が適任かと思います。それを、俺が補助して、後輩2人には後方支援を任せたいですね」

「その心は?」

「まず、廻原はこの場で最強のアタッカーです。彼が1番効率よくヤツを斬れる。そして、ウォルターさんは猫化で高所から落ちても平気なんですよね?だったら、ロック鳥に攻撃する際のリスクが俺たちより低い」

「確かにその通りだな。お前の言うように俺は廻原ほどの火力は出せないが、高所での闘いには慣れてる。で、その補助とは何をするんだね?」



 俺は背負っていた衛星を展開した。旧鼠との闘いでカメラが付いた衛星が破壊されてしまったが、残りは無事だ。後輩2人に見せるのも初めてだったので、紹介するにはちょうどいい機会だった。


「これは親友(ダチ)に作ってもらった止まり木衛星です。これを足場としても使えますし、俺自身が縄を引っ掛けて某・蜘蛛男のように移動することだってできます。廻原もこれを利用して空中戦ができますし、俺も縄でコイツを受け止められる。だから、補助なんです」

「わかった。ただし、俺にもそれを足場として使わせてくれ」

「了解しました。だそうだ、BOB。手伝ってくれるよな?」

「もちろんだ、ブラザー!」



 背負っている衛星の親機に搭載されたスピーカーからBOBの声が響いた。ウォルターさんと後輩たちは少々驚いているようだ。

「驚いたな。サポートAIか?」

「ええ、まぁ。彼の説明は後にします。時間が無い、作戦の説明を……うわッ!」



 上空から凄まじい強風が吹きつける。あの頑丈でちょっとの衝撃ではビクともしない衛星たちですら、グラグラとふらついて高度を保とうと必死に足掻いている。想像以上だった。まさかここまでとは。



 ロック鳥、強襲。圧倒的なデカさとパワー。さすがは特定神獣といった風格だ。鷹をそのまま大きくしたような見た目をしているが、なぜか所々の羽が虹色に輝いている。全く、惚れ惚れする。強い者はかくも美しい。洗練されたデザインだ。そもそも猛禽類自体が美しい生物であるから、それをそのままデカくしたコイツが美しくないわけがない。


 そんなことを考えてしまったが、マズイ状況であることに変わりはない。ロック鳥は鼓膜が破れそうになるほどの甲高い咆哮をあげると、俺たち目掛けて急降下してきた。俺は右手の縄でみんなを手繰りよせ、左手で安全なところに飛ばした衛星に縄を飛ばして一気に縮めて攻撃を回避した。


「すまん!助かった!」

「いえいえ、手荒な真似してすんません。そうだ、みんな、これを」


 俺は昨日廻原に渡したものと同じインカムを後輩2人とウォルターさんに手渡した。そう、アレックがくれたものだ。


「これは俺の背中のAIともやり取りできるインカムです。スゲェ風でろくに声が届かんと思うので、これを使ってやり取りをしましょう。適宜、AIがアドバイスもしてくれるはずです」

「了解した」

「では、行きましょう。戦いながら気付いたことや、作戦が思いついたらいつでも通信してください」

「よし!戦闘開始ッ!」



 俺は風に煽られる衛星をどうにかこうにか制御して、足場を作る。そこに廻原とウォルターさんが跳び乗ろうとするが、いかんせん風圧が強すぎるせいで上手く跳び移れないでいる。厄介な相手と戦うことになっちまったものだ。作戦を変えなばならん。


 一方、後輩2人は後方支援に回ってもらっている。この2人は俺たちが居ない間にサポートアイテムをつくったらしい。真衣は細長いモバイルバッテリーをオートマチック拳銃型の装置に装填し、電気玉を放っている。そして、冬美もチューブの付いた手袋を装着し、そのチューブを水鉄砲のようなものに繋いで、酸と思しき液体を発射している。いずれもロック鳥に何度かヒットしているものの、残念ながら効果はなさそうだ。



 さて、どうしたものか。ロック鳥が仕掛ける体当たりや、落石攻撃を躱しながら考える。そんな中、潜水艦でウォルターさんが言っていたことを思い出していた。『俺という道具を使ってみせろ』だったか。仲間も要は道具だ。人も道具も使いよう。上手いこと俺たちの能力を組み合わせれば突発口が見えるかもしれない。とりあえず、できることを試してみよう。




「真衣!火取り魔にやった『アレ』、アイツにも出来るか!?」

「え!?多分、できると思いますが、縄届きますか!?」

「衛星を使えば、射程距離は伸ばせる!」

「分かりました!じゃあ、またおぶってください!」

「よしきた!来い!」



 真衣は駆け寄ってきて俺の背中に飛び乗った。俺は縄で彼女の身体をしっかりと固定する。そして、俺の口の中にモバイルバッテリーが突っ込まれた。


 縄を2つの衛星に固定して、ロック鳥が急降下したタイミングで少し離れた位置から両足に縄を巻き付ける。衛星を使ってギリギリ届く距離だった。だが、巻き付ければこちらのもの。操作こそ出来ないが、縄は際限なく伸ばせる。ロック鳥は凧のようにグングンと空に上がって行くが、俺たちはそれを捕捉できている。



「それじゃあ行きますよ!必殺!エレキロープ・サーキットォッ!」


 彼女がそう叫んだ瞬間、ロープは雷のように輝き始めた。そして、耳をつんざくようなロック鳥の悲鳴がこだまする。どうやらダメージは入っているようだ。


「ほひ!ほほははひふほ!」

「このままやればいいんですね!?了解です!」


 電流が流れている間、ロック鳥はもがくように飛び回っていた。だが、それも長くは続かなかった。ロック鳥は不意に進路を変え、俺たち目掛けて特攻を仕掛けてきた。俺は瞬時に縄を消失させ、回避行動に移ろうとした。だが、真衣をおぶっているし、モバイルバッテリーで口が塞がっているため呼吸もままならないため思うように動けない。


 翼がデカイせいで横に移動してもヒットする可能性が高い。ならば、直撃する寸前に真上に飛び上がるしかない。なんで、こんなチキンレースみたいなことをやらねばならんのだ。だが、それしか生き残る道はない。念の為、保険を掛けとこう。モバイルバッテリーをどうにか吐き捨ててインカムで指示を出す。


「奴が近付いたら、乗れる者は奴に乗れッッ!!」

「はァ!?」

「正気かよ」

「頼んだぞ!」



 ロック鳥はどんどん高度を下げて俺たちに近づいて来る。恐ろしい速さだ。まともに当たれば命は無い。


「良いか、真衣。俺にしっかりコンパクトにくっつけよ。足でなるべく俺の腹のあたりをガッチリホールドしとけよ」

「え?あ、はい!」


 真衣は胡座をかくようにして、俺の身体にしっかりと抱きついた。これなら、いけるかもしれない。


「良し。これなら、お前だけでも無傷で済むかもしれない」

「え?」

「しっかり掴まってろよ!」



 衛星を少し後方の上空に設置し、しっかりと縄を括り付ける。もうすぐだ。ロック鳥衝突まで、あと30m。20、15、10、9、8、7、6、


「5、4、3、2、今だッ!!」


 俺は一気に縄を縮めて斜め後ろに飛び上がる。斜め前から緩やかな傾斜をつけて飛び込んできたロック鳥は地面スレスレで平行に持ち直して突き進む。だが、その瞬間、俺の右足に経験したことの無い、耐え難い激痛が走った。


「ギィャッ!!」


 回避出来たと思ったのだが、完璧には出来なかったらしい。直撃を避けられたのは不幸中の幸いか。しかし、痛い。あまりにも痛い。刀で斬りつけられたところにハッカ油を垂らされたかのような突き刺さる痛みだ。痛すぎて逆に意識が飛ばない。


「先輩!大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ。お前は無事か…?」

「は、はい。ありがとうございます。でも、先輩、足がッ!」

「へ?」



 俺は恐る恐る、垂れ下がった自分の足に視線を向けた。

「へっ、こりゃ…マジかよ…」


 見ると、俺の右足の脛が途中からあらぬ方向へ折り曲がっていた。完全に折れていて、僅かな皮膚とズボンによってかろうじてつなぎ止められている。断面からは尖った骨が露出して、そこからボタボタと血が滴っていた。なるほど、だからハッカ油を塗られたかのようなスースーとした清涼感があったのか。吹き荒れる風が足の断面を荒っぽく撫で回している。


「こいつァひでえや。今までて1番酷い…」

「すみません、先輩」

「いや、お前が謝ることじゃない。全ては俺の判断ミス。それに、まだ生きてる。だから大丈夫だ」



 俺たちは慎重に地面に降り立った。真衣に周りの様子を見てもらってる間に応急処置をする。もっとも、緊急治療薬を使いたいところだが、いつ、また突進されるか分からないため、使っている余裕は無い。とりあえず、右手から2本の縄を出して、それを折れてブラブラしている脛を元の位置に戻して固定した。添え木なんて物は持ち合わせていないから、折れて尖った骨を足の肉に突き刺して補強した。まだ神経が生きているため、尋常じゃない痛みに襲われるが、どうにか立ちあがる。学生時代に負った怪我に比べればまだまだマシだ。戦える。


「先輩、その怪我じゃ無茶です!休憩室で休んでください!」

「へっ。この程度、まだまだ余裕だ。それより、廻原たちは?」

「廻原先輩は先輩の衛星を使ってどうにかロック鳥に攻撃しようとしてます。ウォルターさんはあそこです!」



 真衣が指を差した方へ目を向けると、そこにはロック鳥の足にしがみついているウォルターさんが居た。手足が完全に猫化しているようで、必死にロック鳥の足を蹴り飛ばしている。


「すげぇ、さすがウォルターさんだぜ。ありゃ痛ェぞォ〜」












―――武縄がロック鳥に足を折られた直後、ウォルターはロック鳥の足にしがみつくことに成功した。そして、ロック鳥が上空に戻って行くと同時に、重症を負った武縄の姿が目に映った。


「武縄ッ!ちくしょう!クソッタレッ!よくもやりやがったなァッ!」


 ウォルターは猫化した手から鋭い爪を出してロック鳥の皮膚に引っ掛ける。鱗のようになっている足の皮膚にガッチリと引っ掛かる確かな手応えを感じ、今度は脚を猫のものに変えた。


「武縄の足をおしゃかにしやがった借り!返させて貰うッ!!Yippee-(これでも)ki-yay(くらえ)、くそったれッ!!」

次回、ウォルターの怒りが炸裂するッ!


乞うご期待ッ!!

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