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ネオス・パンゲア怪異ファイル 〜平凡な能力者、怪異と悪意をド根性と友情パワーでぶっ飛ばす〜  作者: 芦田メガネ
第1章 アジア編

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モーニング

「はァ…はァ…コレでッ!最後ォッ!」

「ウオォォォロアァァァァァァァッ!」


 白い旧鼠を倒し、昼飯を食ってからほとんど休みを挟まずひたすら旧鼠を屠りまくった。時刻は夜中の3時。最後の1体をようやくぶちのめし、長い長い任務は終わりを告げた。


「はァ…はァ…午前…3時…ゴホッゴホッ…7分…任務完了ォォォォォッ!!!ゲホッゴホッゴホッ」

「あーーーーーー疲れたァーーーーーー!死にそ〜〜〜〜〜〜〜!」



 そう叫ぶと廻原はバッタリと倒れてしまった。

「おーい、廻原…まだ倒れるな〜。寝るなら簡易休憩室で頼む〜」

「え〜〜〜〜!疲れたもおおおおおおん!」

「駄々っ子かよ…勘弁してくれ…」



 正直、俺も疲労困憊で気絶しそうだが、とにかくちゃんとしたところで睡眠を取らねばならない。こんな所で寝かせたら身体がバッキバキになるのは明白だ。明日からの通常業務にも支障が出る。俺は宿禰で無理やり身体を動かし、廻原をおぶって簡易休憩室に入った。



 部屋に運び込み、廻原のストレージ付き腕時計を操作して私服に着替えさせてから布団に寝かせた。すると、5秒もしないうちに泥のように眠ってしまった。気持ちよさそうな寝息を立て、穏やかな顔で寝ている。


「今日は大活躍だったもんな…お疲れさん」


 俺はおにぎりを頬張った後に歯磨きをしてから布団に潜った。スマホを確認すると、7時に今いる駅の近くにある喫茶店に集合とのメッセージが来ていた。4時間くらいは寝れそうだ。ちょっと物足りないが徹夜よりはマシだ。俺も余計なことを考える暇もなく死んだように眠りについた。





 翌朝、眠い目を擦りながら待ち合わせ場所の喫茶店へと向かった。地図に付けられた印を頼りに目的地にたどり着くと、そこは小さくてレトロな雰囲気漂う店だった。ドアを開けるとコーヒーのいい匂いと共に奥の席で一服している師匠が目に入った。


「おう、お疲れさん」

「おはようございます、師匠」

「おはざ〜す…」

「なんだ巡、ずいぶんと眠そうじゃねぇか」

「だって、4時間くれぇしか寝れなかったンスからぁぁぁぁぅ」

「喋りながら欠伸してんじゃねぇよ、みっともねぇ」


 ぶっちゃけると俺も凄まじく眠たいが、どうにか欠伸を堪えている。まぁ、コーヒーキメれば多少はマシになるだろう。


 席に着くとすぐに師匠が持っていたメニュー表を渡してきた。

「ほれ、奢ってやるから朝飯選べ」

「ありがとうございます!…う〜ん。師匠はなににするんです?」

「そうじゃの…小倉トーストのモーニングセットにするかな」

「じゃあ、俺もそれで。廻原は?」

「猫…」

「ダメだこりゃ。同じので良いか?」

「ゴリラ…」

「何言ってんだこいつ。すんません、小倉トーストのモーニング3つ、あとハムサンドお願いしま〜す」



 品物が運ばれてくるまでの間はひたすらに無言だった。師匠は黙ってスマホを弄りながらコーヒーを啜っているし、廻原は首をカクンカクンさせながら眠気と格闘している。俺はと言うとそんな沈黙がどうにも居心地が悪かったので、ぼんやりと厨房の方を眺めて気を逸らした。店内にはオシャレで穏やかな曲が流れているというのに、このテーブルにはなんとも言えない重たい空気が流れていた。




 程なくして料理が運ばれてきた。

「おい、廻原。飯来たぞ」

「ふぇ?飯ぃ?お、飯だ」

「これ食ってちゃんと目ェ覚ませよ」

「うぃっす」

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

「いららきやす」



 モーニングセットにしてはなかなかにボリュームのある飯を食べ進めていると、師匠が唐突に口を開いた。

「お前が昨日連絡してくれた後にな、ちょいと熱田神宮まで行ってきたんじゃよ」

「あ〜、昨日言ってた調査ですか?」

「そうじゃ。んでの、本殿の裏の分かりにくいところにな、こんなもんがあったわ」



 そう言うと、師匠はスマホを差し出してきた。その画面には1枚の写真が表示されている。

「これは…俺が見つけたのと同じ五芒星の紙…」

「そうじゃ。おそらく、お前らの読み通りなんらかの能力者がこの紙を介して信仰の力を旧鼠に送っていたとみられる。今、筆跡鑑定にかけとる最中じゃ。お前が回収した物と比較したいから渡してくれんかの」

「あぁ。あれなら白い旧鼠と一緒に回収用ボックスに入れときましたよ。鑑定してくれってメモ書きと一緒に」

「そうか、なら良いんじゃ」



 師匠はトーストを齧ってからコーヒーを少し啜って、今度は声を潜めて語り始めた。

「で、本題はここからなんじゃがな」

「はい」

「実を言うと、陰陽師をはじめとする霊能力者ってのは実在する」

「え!?」

「声が大きい!公にはしとらん話じゃからな」

「そんな話をなんでこんな店の中でするんですか!?」

「今しかゆっくり話が出来んからしょうがないじゃろ!どうせ、お前ら移動中寝ちまうし、ワシもお前らを送り届けたらすぐに会議に出にゃならん。その後も任務が立て込んどるしな」

「分かりました。で、実在するってのは…」



 師匠は再びコーヒーを啜った。少し眉間にシワを寄せて俯いている。

「う〜む。そもそも突飛な話じゃからなぁ。現実味が無いかもしれんがの、ここから話すことは全て事実じゃ。それを前提にして聞いて欲しい」

「わかりました。おい、廻原。さっきから黙ってるけど聞いてんのか?」

「え?あぁ。聞いてる。飯が美味くて黙々と食ってた。俺には構わず続けてください」

「しょうがない奴じゃのう。まぁええわ。その前に、すみません!コーヒーおかわりと、たまごサンドお願いします」

「あ、俺もコーヒーおかわりお願いします!」



 追加の品が届いたところで、師匠の霊能力者に関する話が始まった。

「この世界には2種類の化け物が存在する。1つ目はお前さんらが普段相手にしている『伝説などに登場する化け物によく似た生物』である『怪異』。これに関しては政府も公に存在を認めているし、だからこそワシらの組織が存在する」

「ええ。飽くまで生物だから物理攻撃も効くし、それなりに能力があれば普通の猛獣と同様に倒すことができる。ですよね?」

「そうじゃ。んで、厄介なのがもうひとつの存在。『実体を持たず、通常は目視では確認できない未知の存在』って奴じゃ。在り来りな言葉で言うなれば『幽霊』って奴じゃな」

「マジで居るんすか…幽霊って…」



 師匠は鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような顔をしている。

「なんじゃ、お前。幽霊信じてなかったんか?」

「え?いや、居たらオモロいとは思ってましたけど、本当にいるとは…」

「マジか。お前、大学生のとき怪談師のところでバイトしてたじゃろ。てっきり信じてるもんかと」

「エンタメとしては好きなんですよ。実在はしないけど、そう言うエンタメがあったって良いってくらいの認識で」

「ふーん。まぁええわ。ともかく、幽霊っての実在する。厳密に言えば、目に見えず、実体のない『怪異』の総称だと思ってくれ」




「それでのぅ、幽霊ってのは善良な奴も居れば当然悪さをする奴もおる。人間と同じじゃな。そこで、悪い霊をぶっ飛ばす奴が必要になってくる。そいうわけで、『霊能者』っつーもんが存在するんじゃよ」

「はぁ、霊能者ですか」

「霊能者ってのは読んで字のごとく、霊能力を持ってる連中じゃ。超能力と似たようなもんじゃが、似て非なるもの。平たく言えば、霊を見ることができ、霊に干渉できる力。お前さんらのような超能力者が生まれるもっと前、人類史が始まったあたりから存在する力だと考えられている」

「じゃあ、卑弥呼とか安倍晴明とか宜保愛子とかも、本当に霊能力を持っていた、と?」

「その可能性が高いと言われとる。会ったことないから知らんが」


 そりゃそうだ。大昔の人々なんだから。


「話を戻そう。こういった霊能者ってのは怪防隊にはほとんど居ないんじゃ。では、悪さをしている霊を退治するのは誰か。それは、怪防隊と提携している民間の霊能者なんじゃよ。もちろん、公にされておらず、政府も関与は否定しておる。じゃが、確かに両者の間では業務提携の契約がなされている」

「なぜ、霊能者を怪防隊に所属させないんですか?それと、政府公認じゃないなんて」


 すると師匠は大きくため息をついて答えた。

「一部の民間人がうるさいからのぉ。幽霊を見れるヤツなんてごくごく少数じゃからな。『存在するかもわからないものへの対策なんかに税金を使うな!』なんて無責任な批判が飛び交うのは目に見えとる。じゃから、政府非公認で秘密裏に契約しとるんじゃよ」



 なるほど。確かに一理ある。今はかなりマシだが、昔は政府への、特に税金に関する無知な批判が多かったと聞く。その対策としては理にかなっているかもしれない。



「んで、大事なのがここから。最近、大陸各地の霊能者が一斉にトーキョー近辺に集まりつつあるようじゃ」

「え?」

「その目的は不明。じゃが、ネットで活躍してる有名な霊能者、まぁいわゆる心霊系YouTuberや、怪防隊とのパイプが太い霊能者もそれなりに多いから、テロなどの犯罪が起きる可能性は低いというのがお偉いさんの見解じゃ。じゃが、今回の旧鼠の一件が霊能者による仕業であった場合、旧鼠が言っていたことが本当ならば世界征服を目論んでいる可能性も否定できなくなる」




 いったい、何が起ころうとしているのか。得体のしれない連中がなんの前触れもなく1箇所に集まっている。なにかヤバい霊が出現する予兆なのか、それとも旧鼠が言っていた世界征服なのか。経験したことの無い寒気が背筋に走る。



「要は霊能者には気をつけろっちゅうこっちゃな。ワシらのように霊能者のことを知ってる人間、つまり本部の連中には警戒にあたらせることを提案するつもりじゃ。一応、他言無用で頼むがお前さんらもこのことを頭に入れて気を張っていて欲しい」

「わかりました」

「りょーかいです」




 その後は黙々と飯を食べ進め、店を出た後すぐに師匠の車に乗り込んだ。

「まだ時間あるから少しゆっくりめに飛行するからの。仮眠取っとけよ」

「ありがとうございます」

「おやすみぃ…」












「着いたぞ。起きろ」

「ふぁぁぁぁ」

「…おはよう…ございます…」


 久々の職場だ。これまでの反省を活かして、スムーズに、安全に任務をこなしていこう。改めて気合いが入る。


「じゃ、ワシはとりあえずアメリカに行くからな。またしばらく会えんと思うが、頑張れよ」

「了解しました!」

「りょーかいです!」

「おう。じゃあな」



 そう言うと、師匠は車に乗り込んで颯爽と走り去って行った。

「じゃ、行くか」

「だな」



 いつもの事務所に入るとすぐに後輩2人がとんでもない勢いで駆け寄ってきた。

「うわぁぁぁぁ先輩ィ!遅いッスよォォォ!」

「お久しぶりです!待ってたんですよ!」

「うお!なんだ!どうした!」

「なになに?モテ期到来!?」

「あ、そんなんじゃないっス」

「うん、違うよね」

「あっ、うん。ごめん」


 この様子から察するに、相当早川上官からしごかれたんだろうな。

「本当にしんどかったンスよ!早川先輩めちゃくちゃ厳しくて!ほぼ毎日訓練と任務の繰り返しで」

「先輩方が居なかったから2人で手探りで任務やってたんですよ!早川上官は見てるだけだったので」

「まぁ、アレが早川先輩なりの指導方法だからな。いや、とにかく、俺たちが君らを守れなかったばかりにこんなことになってしまい、申し訳ない。俺達も修行積んで強くなったし、反省もしたから、また一緒に戦ってくれないか」

「俺ももっと強くなったから、またよろしくね」

「「はい!」」



 すると、奥から早川上官がスタスタと歩いてきた。

「おはよう、2人とも。元気そうじゃないか」

「おはようございます!武縄公介、本日より復帰いたします!ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした!本日からまたよろしくお願いします!」

「同じく、廻原巡、本日より復帰します!よろしくお願いします!」

「うむ、期待してるよ。さて、復帰早々悪いが、任務の時間だ」



 早速任務だ。このスピード感が懐かしい。とも思ったが、昨日の師匠からの無茶な任務で経験済みだったか。


「今回はお前たち4人に加え、本部から来た方にも同行してもらうことになった。少し特殊な任務なのでな。では、紹介しよう。お願いします!」



 本部から人が来るとは珍しい。どんな任務なのだろうか。すると、俺たちが入ってきた入口がガチャりと開き、大柄な男が入ってきた。顔の堀が深く青い目をしているから、おそらくヨーロッパ系だろう。年齢は4、50代と言ったところだろうか。頭皮は眩しいくらいに光り輝いていて、潔さを感じる。男が惚れる漢と言うべきダンディーさが全身から溢れている。腕まくりをした袖からは逞しく鍛え上げられた岩のような筋肉が堂々と輝いている。



「よーし、まずは自己紹介だァ。俺は本部から派遣された、ウォルター・マクレーンという者だ。よろしく頼む」

 そう言うと、ウォルターさんは血管が浮き出たごっつい手を差し出してきた。


「武縄公介です。よろしくお願いします」

「廻原巡です。お願いします」

「薬師丸冬美です!よろしくお願いします!」

「源川真衣です。よろしくお願いします」


 ウォルターさんは1人1人とガッチリと握手を交わした。予想してた以上に力強く、そして暖かい手だった。握っていてとても安心感がある、そんな手だった。



 挨拶を終えると、早川上官は資料を手にして口を開いた。

「では、任務の概要を説明します。今回の目的地はイラン、及びマダガスカル。対象は『ロック鳥・ルフ』で、任務の内容は『ロック鳥・ルフによる船舶事故の原因究明』です」

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