60fpsの突破口
まずは祭壇の破壊。これが最優先事項だ。あの白い旧鼠が吸収した信仰は、元はと言えば熱田神宮に対するものだ。それが祭壇を経由してヤツに届いている。つまり、それを破壊すればヤツは信仰の力を失い、これまで屠ってきた普通の旧鼠になるはずだ。まぁ、気になることは色々あるが、それはアイツを半殺しにしてから聞けば良い。
とりあえず、祭壇にベッタリになってる白い旧鼠を引き剥がさなければならない。祭壇はこの空間の右側の壁際にある。そこに張り付いてる旧鼠を今俺たちがいる入口側や、祭壇とは反対側の壁に引っ張ってくるのは難しい。となると、通路の奥に旧鼠を押し出すようにして引き剥がすしかない。つまり、ひたすら攻撃しまくって旧鼠を後ずさりさせれば良いのだ。
俺と廻原の周辺に衛星を展開し、足場をつくる。衝撃波を回避するために、より3次元的に動けるようにするためだ。すぐに白い旧鼠が廻原に手をかざし、衝撃波を放つ。廻原は衛星に跳び移り易々と回避し、旧鼠との距離を一気に詰める。俺も負けじと宿禰で足を強化して全力で走る。絶え間なく衝撃波が飛んで来るが問題なく避けられる。
そして、白い旧鼠のもとに辿り着いた廻原がすぐに攻撃を仕掛ける。
「まずは小手調べ…フンッ!」
斜めに振り下ろされた刀は旧鼠の右腕に直撃したかに思えた。だが、刀はすぐに弾き返された。
「なッ!?当たらねーのか!?」
廻原は勢いのままに宙返りし、一度旧鼠から距離を取る。当たらないという不穏すぎる言葉にやや動揺したが、自分でも確かめるために拳を放つ。宿禰で強化した右ストレートは確かにヤツの腹にクリーンヒットするかに思えたが、当たる寸前で弾き返された。その反動で自分の体が仰け反る。
「コイツァ、衝撃波か!?」
体勢を急いで立て直し、今度はジャブを放つが、これも弾かれてしまう。そして、白い旧鼠が反撃の素振りを見せたので衛星を利用して再び距離を取る。
「なんだよ、あの衝撃波!あんな芸当できんのかよ」
「マズイね。どーにかしてダメージ稼ぐ方法見つけねーと」
「とにかく、攻撃しまくるしかねぇな。それで突破口探すっきゃねぇ」
「同感。行こーか」
「応ッ!」
俺と廻原は一斉に飛びかかり、連続攻撃を開始した。廻原は何度も妖刀で切りつけ、俺はステップで攻撃を回避しながらジャブを放つ。息もつかせぬ猛攻。普通の人間や普通の怪異ならばすぐに沈んでいるだろう。だが、白い旧鼠は全く倒れない。衝撃波で攻撃が通らないというのもあるが、なによりコイツ自身の技量も凄まじい。衝撃波に頼りきっておらず、自分の体術でも攻撃を弾き返している。単なる怪異ではない。武人の域に達している。
「いいぞ!いいぞ!人間共ォッ!ここまでワシと対等に渡りあった人間は久々じゃあッ!」
「ケッ!そいつァどうもッ!」
「だけど、そろそろ終わらせたいね!行くぞ、御影ッ!」
すぐにもう1人の廻原が横から現れ、2人同時に斬撃を放つ。だが、これも弾かれた。しかし、全く収穫がなかった訳でもなさそうだ。僅かに旧鼠が後ずさりをした。やはり、物量こそが正義なのかもしれない。
「「まだまだァ!」」
すると、2人の廻原は全く別の構えを見せた。一方は納刀し、抜刀術の構えを。もう一方はそのまま刀を振り下ろす。
「必殺!八創斬りィ!」
「二段式・抜刀!閃血ッ!」
どっちが本体かもう分からないが、どうやら分身も超能力を使えるらしい。すると、八創斬りは弾かれたが、閃血は衝撃波に阻まれることなく旧鼠にヒットした。だが、旧鼠が身を捩ったため肉を少ししか斬れなかったようだ。それでも、その技名の通りに旧鼠の血が閃光のように飛び散った。そして、二段式とあるように刀創が2本、くの字型に旧鼠の脇腹に刻まれた。旧鼠は痛みに苦しむ素振りを見せて大きく後退る。もう少しだ。
この好機を逃すわけにはいかない。ヤツが回復してから初めて攻撃が通ったのだ。俺も続かねばならない。宿禰で右手6本、両足2本ずつ縄を纏わせて強化。
「6倍ストマックブローッ!」
だが、この攻撃は通らず、衝撃波に阻まれてしまう。攻撃が強ければ強いほど、衝撃波は強まるようだ。大きく体が押し返される。
だが、今の流れで白い旧鼠の衝撃波の特性が見えてきた。まとめると、
①衝撃波は全身から放出可能。
②衝撃波を出す箇所が広いと威力は弱まる。逆に狭いと強まる。
③相手の攻撃に反応して自動的に衝撃波を出せる。ただし、威力が攻撃用に比べて低いため、攻撃された箇所だけではなく全身から出していると思われる。
④衝撃波を連続で出すにはクールタイムが必要。ただし、コンマ何秒単位なので実質連射可能。
⑤衝撃波のエネルギー源は祭壇。おそらく信仰の力
こんな感じだろう。つまり、ヤツの衝撃波を攻略するには、フレーム単位のクールタイムを突き、祭壇から遠ざけてそれを破壊。これしかなさそうだ。もちろん、フレーム単位の隙を突いてヤツを殺せるならそれに越したことはないが、それは難しそうだ。また、衝撃波ガードを発動させたままヤツを後退させるより、クールタイムを狙って攻撃した方が効率が良い。
ただ、闇雲に攻撃したってしょうがない。やはり検証は必要だ。ここは俺がやり込んでる格ゲーのフレーム単位、60fps(1秒を60分割した単位)を基準にして考えることにしよう。この検証には廻原の協力が不可欠だが、廻原は格ゲーはそこまで上手くないからフレームの感覚はあまり分からないだろう。となると、この方法しかない。
「廻原、ちょっといいか?」
「「どーした?」」
「検証したいことがある!先にお前が攻撃したら俺がすぐに追撃する!だから、俺が攻撃するまで次の一撃を待ってくれないか!?」
「よくわかんねーけど、なんかわかった!」
会話している間に1人に戻ったが問題ない。検証開始だ。
「BOB!廻原の攻撃の後、俺の追撃までに何フレームかかったか念の為計測してくれ!」
「了解、ブラザー!」
俺もフレーム感覚が怪しいときもあるから、BOBが居てくれて助かった。早速、作戦開始だ。廻原がヤツの腹に刀を振るう。案の定弾き返されるが、俺も追撃の姿勢を取る。まずは、60フレームで追撃。
「クソッ!ダメか」
「約58フレームだ」
「OK!廻原、次頼む!」
「りょーかい!」
だが、もちろん旧鼠は防戦一方ではない。大振りではあるが攻撃用の衝撃波を放ち、加えてパンチや噛みつきを仕掛けてくるため、それを避けながら検証を行わなければならない。これはなかなかにシンドいが、どうにか持ちこたえてこちらも攻撃を仕掛ける。
「今度こそッ!」
次は50フレーム後の追撃だが、これも弾かれる。
「ナイス!ピッタリ50フレームだ!」
「でもダメか!よし!次!」
「アイアイサー!」
俺たちの疲労はどんどん溜まる一方だが、旧鼠の動きは更にキレが増している。焦りから来るものなのか、それとも調子が上がってきたのか。前者であって欲しいものだ。
「どうした人間!なにか策を見出したかと思ったが、もう終わりか!?」
「まだだ!」
「まだ終わらんよ!」
廻原はヤツのパンチを宙返りしながら避けてその勢いのまま刀を振るった。そして、俺もすかさずヤツに接近し、40フレーム後の追撃を行う。すると、
「フグぅッ!」
「よ、よしゃあッ!通った!」
「マジでか!?」
「今のは39フレームだ!ナイスだぜ、ブラザー!」
これでわかった。ヤツの衝撃波のクールタイムは約40フレーム!つまり、約0.68秒!かなりシビアだが、さっき分身と共に攻撃を通した廻原ならきっと大丈夫だ。
「廻原ァ!アイツに攻撃が通るタイミングがわかったぞ!」
「よし!何秒だ?」
「初撃を受けてからだいたい0.6秒以内!」
「うん!よくわからん!」
「うーん。だいたい、このくらいだ!」
なんとなくの感覚で手拍子をしてみせる。俺は音楽に詳しいわけではないが、アイツは大学時代に軽音サークルでドラムを叩いていたからきっと察してくれるはずだ。
「OK!わかった。こっからはまた御影出すぞ!」
「了解!」
廻原は再び分身を出して連続攻撃を始めた。ひとりで攻撃を捌きながら旧鼠のクールタイムを突いて攻撃。旧鼠はどんどん押され、血みどろになっていく。これはもう、俺が参加する余地はなさそうだ。ならば、俺は祭壇の破壊に移るとしよう。
宿禰で腕を思い切り強化し、祀られてる御神体と思しき大岩を全力で殴る。意外と硬い。腕が電撃を食らったかのようにビリビリと痺れる。だが、少しヒビが入った。そして、この岩も人工物であることもわかった。天然の岩に似せているが、鉄筋が入っている。いよいよきな臭くなってきた。
何度も何度もぶん殴って、手に血を滲ませながらぶん殴って、ようやく半分くらい削れた時だった。岩、もといコンクリの中から紙が出てきた。とりあえず、紙の周りを慎重に砕いて取り出して見ると、その紙には五芒星が描かれていた。
どうも怪しい。これを触媒、あるいは中継地点にして信仰の力が流れている。そんな気がした。俺はその紙をICLデバイスで撮影して、それを半分に、そしてまたそれを半分にして破いた。すると、
「ぬぅッ!ち、力がッ!」
「おっ!なんか攻撃が通る!」
「よし!」
読み通りだ。だが、油断はできない。まだヤツが取り込んだ力が多少は残ってるはずだ。衝撃波には引き続き警戒しなければならない。俺も攻撃にまた参加する。
「廻原!俺も合わせるぞ!」
「「助かる!」」
まずは、俺が白い旧鼠の足を全力で殴って砕く。体勢を崩したところで、衛星を利用してヤツの裏に回り、腕と首を縄で引っ張って仰け反らせる。
「今だ!廻原ァッ!っていつの間に!?」
いつの間にか片方の廻原が俺のすぐ目の前で立っていた。そして抜刀術の構えを取る。もう片方は俺の衛星を足場にして宙に跳び上がった。
「二段式・抜刀、閃血!」
「必殺!血達磨落としッ!」
太刀筋が一瞬にして幾重にも光り輝き、白い旧鼠の胴が3等分され、手足と首がキレイに斬り離された。俺はそれに潰されないように回避したが、抜刀術を使った廻原は霧のように消えた。斬られた旧鼠の胴体のひとつに着地した廻原は俺に手をかざしながら駆け寄って、俺はハイタッチでそれに応じた。
「さすが、廻原!」
「コースケこそ!」
「ぅぅ…」
呻き声が聞こえたため見てみると、首だけになった旧鼠が口をパクパクとさせていた。まだ、ほんの少し息があるらしい。
「おい、旧鼠。聞こえるか?」
「あ、あぁ…」
俺は旧鼠の首にほんの少しアドレナリンを投与してやった。
「おい、コースケ。なにやってんだ?」
「コイツに少し聞きたいことがあってな。一応、いつでも斬れるようにしていてくれ」
「りょーかい」
俺はもう一度、旧鼠に向き直る。
「さて、いくつか質問をさせていただこう。よろしいかな?」
「ふぅ。いいだろう。ワシがわかる範囲で答えてやる」
「OK。じゃあ最初の質問だ。お前と契約した人間は誰だ?」




