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ネオス・パンゲア怪異ファイル 〜平凡な能力者、怪異と悪意をド根性と友情パワーでぶっ飛ばす〜  作者: 芦田メガネ
第1章 アジア編

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43/57

お値段

 ひとしきり外で練習をしたことで、ある程度この衛星の扱いが上手くなってきた気がする。ブラフを交えながらの展開、飛び移りながら時々着地して再び跳び上がる、衛星2つを左右対称に配置し、パチンコのように自身を発射、などなど、やりたかったことが全部できる。俺が想像できていない使い方もまだまだあるはずだ。それは、廻原との修行や実戦の中で見つけて行こう。


 すると、アレックがまた外に戻ってきた。

「お、順調みたいだね。初見でそれだけできるのは上出来じゃないかな?」

「おかげさまで快適に使いこなせてるよ。そっちはどうだ?メンテは終わったのか?」

「終わったよ。まだ止まり木衛星の説明も全部終わってないし、車とBOBの新機能も説明したいから、とりあえず降りてきてくれない?」

「了解!」


 俺は宙返りしながらアレックの前に着地した。

「相変わらずカッコつけるの好きだねぇ。僕にそんなことしたってモテる訳じゃあるまいし」

「いいんだよ、自己満足さ。なりてぇ自分になるための行動だ」

「まぁ、なんでもいいけどさ」


 アレックは呆れたような態度を取っている。コイツはロマンがわからんのだろう。いや、俺が少年漫画脳から抜け出せていないだけか?まぁ、今はどちらでも構わない。



「とにかく!その衛星の他の機能について解説しよう。さっき言いそびれてたからね」

「おう、頼むわ」

「まずは、カメラ機能!」

「おお!」

「ええと、カメラがついてる衛星は・・・っと。お、アレだね」


 そういうと、アレックは俺の頭上を飛んでいる衛星を指さした。その衛星は取っ手に小さな出っ張りがついている。俺はそれを目の前まで下降させた。

「その衛星についてる出っ張り。それがカメラだよ。あんまり目立たないでしょ」

「確かに、言われるまでよく分からなかったな。へぇ、これが・・・」

「うん。そして、そのカメラの映像は2つのデバイスに転送される」

「ほう?」

「1つ目は・・・」


 アレックは作業着のポケットからスマホとQRコードが印刷されたカードを取り出した。

「この専用アプリ。リアルタイムで映像を見ることができるし、記録された映像はいつでも再生できる。映像をみんなで共有するときに便利だね」


 スマホの画面を見るとアレックが鮮明に映し出されていた。かなり綺麗な映像だ。俺は衛星を操作して上空を飛び回らせた。すると、大都市トーキョーのビル群が恐ろしい程の精度で映し出された。

「すげぇな、これ・・・並のドローンカメラじゃこんな画撮れねぇぞ」

「結構奮発したんだよ。最新鋭の小型カメラさ。それをちょっと改造してさらに小さくしてこの衛星に取り付けた」

「さすがだな」

「それほどでも」


 謙遜しながらもすごく上機嫌だ。こんなに感情が態度に出やすい男も珍しい。犬かな。





「で、もうひとつのデバイスってのは?」

「そ・れ・は!ズバリ!」

 アレックは勢いよく、ズバッと俺を指さした

「君の目だッ!」

「ふぁっ!?」


 予想外の答えが出てきて思わず変な声が出てしまった。いや、まぁ、確かに目に変なコンタクト入れたから、まぁ、うん。納得はできるが・・・


「なんとなく察したかもしれないけど、さっき君に装着してもらったICLデバイスには衛星操作の他に、衛星から映像を受信してそれを再生する機能もつけておいたんだ」

「へ、へぇ、すごいな。で、どうやって見るんだ?」

「簡単だよ。今まで通り、念じるだけさ。『カメラ!映像を見せろ!』みたいな感じで」

「わ、わかった。やってみる」


 俺は言われた通り、映像を見たいと念じてみる。すると、「ピロン!」という音が鳴ったかと思うと、視界の左上に四角い画面が現れた!まるで、スマホのピクチャインピクチャの機能のようだ。その画面の中で衛星から送られてきたトーキョーの景色が映し出されている。


「その表情から察するに、上手くいったようだね」

「あ、あぁ!すげぇよ、これ!今までこの手のデバイスなんて高くてつけたことがなかったんだけど、こんな感じなんだな!」

「ただ、映像が見れるだけじゃないよ。その画面に手を伸ばして触る仕草をしてごらん」


 ま、まさか・・・俺は恐る恐る画面に手を伸ばしてつついてみる。すると、画面が動いた。本当にピクチャインピクチャのように、視界の中を自在に動かせる。自分の見やすい位置に画面を移動できるのはありがたい。


「視界の確保は重要だろうからね。ちゃんと動かせるようにしといたよ。それだけじゃない。縮小拡大もできるようにした。結構大変だったんだからね」

「え、マジか」


 画面を摘んだり広げたりしてみると、本当に縮小拡大が自由自在にできるではないか。これなら戦闘中でも映像を確認しながら状況判断ができるだろう。慣れるまでは脳処理が追いつかないだろうが、使いこなせるようになれば無敵だ。


「いやぁ、コイツァすげぇ。汎用性が高い。探索にも使えるし、単独任務なら背後の状況を確認しながら戦える。ありがとう、アレック。想像以上だ」

「気に入って貰えたなら良かったよ。でも、まだこれだけじゃあないんだよなぁ」

「まだあるのか!?」




 アレックは不敵に笑って別の衛星を指さした。その衛星にも出っ張りがついているが、カメラよりもちょっとだけ大きく見える

「あれ、攻撃衛星。拳銃を改造して取り付けてる」

「攻撃衛星!?」


 アレックはどうやら、頼んでない攻撃機能を取り付けていたようだ。

「あるに越したことは無いだろ?君の縄にも射程距離や威力には限界があるはずだ。それに、ひとつだけ攻撃機能を付けておけば、相手は他の衛星にも攻撃機能が付いているんじゃないかと警戒するだろ?ブラフはあればあるほど良い」

「確かに、意識するべきことを増やせば相手の戦略は崩れやすくなるな・・・お前、戦闘要員じゃないのによく色々と思い付くな」


 アレックは微笑みながら攻撃衛星を見つめて答えた。

「仕事だからね。君らの相手をして、要望に答えてると自然とそういう思考が身に付いてくるもんさ。大学でもある程度は勉強したけど、現場の意見に勝るものはない。僕だって、毎日修行してるようなものだよ」

「そうか・・・俺も頑張らねぇとな・・・」

「なんだよ、それ。らしくないなぁ」







 俺は車を受け取るためにもう一度アレックの研究室に戻った。

「オイル交換もしといたよ。それ以外は問題ないね。大事に使ってくれてるみたいでなによりだ」

「助かるよ」

「BOBもただのおしゃべり自動運転AIにしとくのも勿体ないからアップデートさせてもらったよ」

「え?本当か?」


 アレックはエンジンをかけてBOBを起動した。

「やぁ、BOB。気分はどうだい?」

「ヘイ、ブラザー!新しい機能を追加してくれたおかげで最高の気分だぜ!」

「公介くん。さっきの衛星の本体を貸してくれるかい?」

「あ、あぁ」


 俺は背負っていた衛星を下ろしてアレックに手渡した。アレックは車のソケットにケーブルを差し込み、それを衛星の本体に接続する。

「じゃあ、BOB。こっちの衛星にも入ってくれるかい?」

「了解だぜ、ブラザー。ちょっと待っててくれよな」


 BOBをこの衛星でも使えるようにするのだろうか?俺の今の練度だと全ての衛星を同時に動かすことはできないから、そのアシストだろうか?

「なぁ、アレック。BOBの新機能ってなんなんだ?」

「マルチ・バトル・アシスト・システムだよ。略してMBAS(エムバス)。例えば、君が動かしていない止まり木衛星をBOBが最適な位置に動かしたり、状況を見てBOBがアドバイスをくれたり、資料をデータベースから検索してくれたり、ピンチのときには救難信号を自動で送ってくれたり」


「え、めちゃくちゃ色々できるじゃん」

「まぁ、もともと車に搭載するだけにしてはオーバースペックなAIだったからね。これからは、BOBも戦闘に参加して助けてくれるはずさ。一応、4人分のインカムを渡しておこう。君は目に入れたデバイスからBOBの声を脳内で直接聞けるけど、他の人には聞こえないからね。これで仲間におすそ分けしてあげてね」

「おお、マジか。助かるよ」



 

 BOBのコピー?が完了したようで、衛星を俺に返してくれた。さて、問題はこれらの料金だ。車を作ってもらった時は友情価格で値引きしてもらったとはいえ、かなり高額だった。今回は仕事道具のためある程度は経費で落ちるが、それも限度がある。考えると恐ろしいが、背に腹は変えられない。


「いや〜、本当に助かったよ。ところで、お値段の方は・・・」

「そうだね・・・」

アレックはスマホを操作して料金明細を開き、それを読み上げ始めた。


「車のメンテナンスで5000円、BOBのアップデート30万円、ICLデバイス60万、止まり木衛星125万。合計、215万5000円ですね」

「2ィッ・・・!」

「と、言いたいところだけど、今回は車のメンテナンス代5000円だけでいいよ」

「へ!?なんで」


 アレックは俺の反応を見てニッコリと笑いながら言った。

「実は今回のBOBのアップデートと衛星関連の技術は実験段階のものでね。ICLデバイスもそうだね。怪防隊と提携してる軍事企業にサンプルデータを取るように頼まれてたんだ。だから、部品もタダで貰えたから今回の料金請求は無し!」

「ほ、本当か!?ありがとう!本当にありがとう!助かる!」

「ま、これからも変わらず任務頑張って、車のローンの返済も頼みますよ」

「ああ。わかってる」


 俺はスマホで今回の代金を送金していると、アレックが忠告してきた。

「わかってるとは思うけど、サポートアイテムに頼り過ぎないでね。それに頼りきった戦闘が一番危ないから。自分自身の鍛錬も怠らないようにね」

「分かってるよ。いつだって一番信頼できるのは自分自身の技術だけ。だろ?」

「わかってるならいいんだ」





 手続きが終わり、この施設を去る前に、俺はあることを聞いた。

「なぁ、アレック。前から気になってたことがあるんだけど」

「なんだい?」

「反重力装置とか、ストレージ付き腕時計みたいな異空間生成ってどんな原理で動いているんだ?何気に知らなくてさ」

「あ、あーそれね・・・」


 アレックは難しい顔をして頭を搔いている。

「どうかしたのか?」

「いや〜、それがね。僕もわからないんだ」

「え!?」


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