アナログパワードスーツ
俺は礼もそこそこに道場に入り、早速新技の開発に取り掛かった。いや、新技というより新スタイルと言うべきか。今まで培った必殺技と体術を両方活かし、そして両方の力を高めるためのスタイルだ。早速取り掛かろう。
まずは、腕に縄を纏わりつかせる。筋肉を再現するため、前腕部の付け根を縄で縛り、そして上腕と肩の境目付近も縛る。こうすることで、肩から前腕の付け根にかけて縄が張られることになる。これを両腕に施す。
今は縄に余裕を持たせているため、動きに全く影響は無い。だが、俺の縄は伸縮自在だ。伸びきった縄を縮めると───
「よし!成功だ!」
思った通り、腕が曲がった。俺自身は全く曲げていない。縄の力だけで腕を曲げた。そう、この縄は「人工筋肉」なのだ。人工筋肉は以前、友人に軽く教えて貰った程度で再現できるか不安だったが、上手く行って安心した。
「なんだァ、その腕?新技?」
振り返ると廻原が道場の入口に立っていた。
「おぉ、廻原。帰ってたのか」
「今来たとこ。ボロ負けっスわ。そんなことはいいんだよ。なにそれ?」
「これねぇ、新技。新スタイル?まぁいずれにせよ、主力技になるな」
「へー、見せてくれよ」
「まぁ、待て。俺も今、形を作ったばかりだ。そこで見ててくれ」
廻原は道場に入ってきて、壁に寄りかかって俺のことを観察し始めた。俺はそれを横目に何度か人工筋肉を動かす。そして、人工筋肉だけを動かしてサンドバッグにパンチを打ち込む。まぁ、威力は普通のパンチと変わらない。だが、それを人工筋肉で再現出来たのは大きい。
次に俺自身の筋肉も同時に動かしてパンチを打ち込んでみよう。いつものようになるべく脱力しながら拳を動かす。と、同時に人工筋肉をフルパワーで稼働させる。すると、軽くジャブを打ったはずなのに、本気のストレート並のスピードのパンチが打ち込まれた。そして、インパクトの瞬間に全力で力んだため、威力はさらに増す。大砲が発射されたかのような轟音が響きサンドバッグは大きく揺れた。
「オイオイオイオイオイ!なんなんだ、今の!?え?全力パンチ・・・って訳じゃあないだろ?」
「あ、あぁ、全力じゃあない。軽くジャブを打った感覚なんだけどな・・・フフフ、大成功だッ!」
「お、おう、そうか。で、ちゃんとわかるように説明してくれ」
廻原は随分と驚いて居るようだ。その顔を見れて少し満足した。ちょっとは追いつけたかな。
「この縄は人工筋肉の役割を果たしている。何となく知ってるだろ?」
「あぁ、あれね。筋肉の動きを再現するっていう・・・」
「そう、それ。俺の縄は伸縮自在で、俺と同程度の力が出せるのは知ってるだろ?」
「うん、それで?」
「そこでだ。縄1本を使って筋肉の動きを補助すれば、2倍の力を出せるって訳さ。縄を増やせば増やすほど、パワーはどんどん増すって寸法だ。言うなれば『アナログパワードスーツ』だな」
廻原は驚きと感心に満ちた顔をして頷いている。腑に落ちたようだな。
「な〜るほどね〜。うん、盲点だった。そんな使い方思いつかんかった」
「俺もだよ。ずっと遠距離専用能力だと思ってたから、こんなポテンシャルに気付かなかった」
「じゃあ、お前、どうやって思いついたんだ?」
そうそう、その質問を待っていた。廻原はいつも俺が求めている反応をしてくれる。やはり、コイツとの会話は楽しい。
「さっきよォ、町中華で『巨人の星』を読んだんよ」
「ん?うん、それで?」
「その中にな、星一徹が息子の星飛雄馬に『大リーグボール養成ギプス』ってのを作って付けさせてただろ?」
「あ〜、なんだっけ?腕とかにバネがついてる奴だよね?」
「そう、それそれ。バネで筋肉に常に負荷をかけ続けて、強いボールを投げるための筋肉を育成するための装置。それを見て、天啓が降りてきたのよ」
俺は指パッチンをしてカッコつけながら続ける。
「これの逆、つまり筋肉の動きを補助するギプスを俺の縄で作れば近接格闘は無敵になるんじゃね?と!」
「は〜、なるほどね。しっかし、お前いつも変なところから技のヒント持ってくるよなぁ」
「いや、娯楽をヒントにしろっていたのは師匠だし。お前もさっきそう言っただろ」
「ま、まぁ、確かにそれもそうか」
しかし、まだ課題は全てが解決した訳では無い。それが顔に出ていたのか、廻原が聞いてきた。
「で、まだなにかあるんだろ?課題」
「そうなんだよなぁ。近接格闘はとりあえずこれとボクシング、空手、柔道とかの武術で何とかなるとしても、問題はどうやって近接格闘に持ち込むか、なんだよなぁ」
すると、廻原はキョトンとした顔をした。
「え、お前、できてたじゃん」
「は?」
「まさか、あれアドリブ?覚えてねーの?」
「いや、なんのことかさっぱり」
廻原はクソデカいため息をついて呆れたような顔をしている。
「交流戦でさ、フユミちゃんの攻撃に合わせてあの子の頭を縄で掴んで、思いっきり引き寄せて顔面ぶん殴ってただろ?本当に覚えてないのか?」
「あ、あーーーーーーー!」
そうだ!そうだった!言われてみれば確かに、フユミの攻撃のテンポを崩しながら反撃するために、フユミの頭を思いっきり引き寄せて、その勢いも利用しながらぶん殴っていたっけ。
「あのときは無我夢中だったからなぁ。無意識のうちにそんなことしてたんだな・・・」
「お前、そういうの緊急時の戦闘IQ高いよな」
「そうかな・・・そうかも。というか、お前、あのとき真衣にやられてダウンしてたよな?なんでわかるんだ?」
「昨日、録画してあった映像見返してたから」
「い、いつの間に・・・」
廻原は妙に研究熱心なところがある。怪防隊のデータアーカイブで閲覧可能な戦闘データを確認して、新たな可能性を模索していることがよくある。
「とにかく、それを組み合わせてやってみたらどうだ?あれ、結構いい技だと思うんだけど」
「わかった、やってみる」
俺は1度サンドバッグから距離を取った。だいたい15mほど離れた位置に立つ。人工筋肉は2本、そして捕まえるための縄を1本出す。そして、縄を発射してサンドバッグを巻き付けて一気に引き寄せる。そして、それと同時にパンチの予備動作を始め、人工筋肉と自分の筋肉をフル稼働して全力のパンチを放つ。そして、いつものようにインパクトの瞬間に全身を力ませる。
ドゴォアァンッ!!!
今までに聞いたことが無いような恐ろしい衝突音が鳴り響いた。インパクトの瞬間にサンドバッグを巻き付けていた縄は解いていたため、サンドバッグは大きく吹っ飛び、反対側の壁に激突する。今の攻撃でサンドバッグが破れたのか、中から砂がサラサラと流れ出る。
「お、おお〜。やるな〜」
「じ、自分でも信じられん火力だわ・・・こんなん初めてだ」
俺の縄、こんな力を秘めていたのか・・・。何故気付けなかったのだろう。こんな素晴らしい力があったら、先輩は・・・。いや、今悔やんだって仕方ない。この力をこれからどう活かすか、それが問題なのだ。
2人でサンドバッグの後始末をしていると、廻原が俺に問いかけてきた。
「で、技名どうすんのよ?あった方が良いだろ?まぁ、引き寄せるのは大蛇とそんなに変わんないかもしれないけど」
「うーん、そうだな。せっかくならどっちにも名前を付けたい」
俺は人工筋肉を再び作って手を握ったり、伸ばしたりしながら考える。
「そうだな・・・これは、『陸式・雷電』ってのはどうかな?雷電為右衛門の雷電」
「いいと思うけど、なんか電気技っぽくね?俺たちのチームにマイちゃんいるし、キャラ被りしそうな名前だと思うんだけど」
「それもそうか。じゃあ、『陸式・宿禰』はどうだ?古代相撲の祖って言われてる野見宿禰の宿禰で」
「お前、ホント相撲好きだよなぁ。いいんじゃね?それで」
次は引き寄せるための技だ。これも何かいいモデルは無いだろうか。いつもは何かモデルを見つけてから技を作るのだが、今回は逆だから難しい。
「カメレオンっぽいんだけどなぁ。でもなんか締まりが悪いよな」
「それは俺も思った。かと言って何か他に思いつかねーし」
「うーん・・・・いや、やっぱカメレオンだな。1個くらいふざけた名前の技があった方が良いだろ。相手もワンチャン油断するし」
「まぁ、お前がそれでいいなら、別にいいけど。俺らとキャラ被りもしないだろうし」
「じゃあ、決定だな。『漆式・避役』で!」
こうして、新たな戦術をつくることができた。あとは、これを実戦でも活用できるように修行するだけだ。武縄流格闘術を更に確固たる最強の武術に仕上げなければ!
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