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ネオス・パンゲア怪異ファイル   作者: 芦田メガネ
第1章 アジア編

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39/58

研鑽

謹慎を喰らった翌日、俺は町外れの寺を訪れていた。手には花束を持ち、黒いスーツを身につけて。ここには大切な恩人の墓がある。墓地を少し歩き、寺の裏の方の奥まった場所に、その墓はあった。いつ見ても立派な大きな墓だ。俺は墓前に立ち軽くお辞儀をする。


「先輩、お久しぶりです」


ここには、俺と廻原が怪防隊に入隊したばかりのときにお世話になった先輩が眠っている。先日、本命日だったのだがエベレストの任務にあたっていたため当日に来れなかった。そのため、運良く時間ができたので、今日はこうしてやって来たのだ。


墓前にはまだ新しい花束が供えられていた。俺はその隣に自分が持ってきた花と先輩が好きだった銘柄のウイスキーを供える。ロウソクを立ててチャッカマンで火をつけようとするが、風が強くてなかなか火がつかない。悪戦苦闘していると、ロウソクに手が添えられた。

「なーに苦戦してんだよ、コースケ」

「おぉ、廻原、すまねぇな」


廻原も喪服を身につけ、花束を持ってきていた。廻原の助けもあってなんとか火をつける。ロウソクの火が消えないうちに急いで線香にも火をつけて供える。俺たちは静かに手を合わせた。



やはり、先輩のところに来るとかつてのことを色々思い出す。初心に帰れる。俺はまだ、先輩のような隊員にはなれてない。この前のイエティ戦でそれを痛感した。

「先輩、俺、まだまだです。俺はまだ、先輩みたいなには・・・後輩を守り切れるような、そんな漢には・・・」

「コースケ・・・俺もです、先輩。俺も先輩にはまだ程遠い。俺は、俺たちは、絶対先輩に負けないくらいの隊員になりますから、見守っててください」



俺たちは先輩の墓前を後にした。

「なぁ、廻原、お前はこれからどうする?」

「ん?んー、そうだなー、今日は師匠の家で特訓かな」

「奇遇だな。俺もだ」

「おー、そうか。じゃー行くか」

「んだな」








師匠の家、つまり、俺と廻原が育った家。今は師匠は怪防隊の仕事の都合で住んでは居ないが、合鍵を渡してくれている。師匠の家には道場やトレーニング器具が充実しているから、俺たちは時々帰省して利用している。


大きな門を潜り、玄関のドアを開ける。これまた懐かしい光景と匂いだ。心が落ち着く。実家のような安心感だ。いや、もう俺の実家と言ってもいいかもしれない。幼い頃からこの家に住んでいたのだから。


居間に荷物を置いて戦闘服に着替える。今日からしばらくこの家に泊まり込みで修行をするつもりだから、そのための準備はしてきた。廻原もそのつもりなのだろう、大きめのスーツケースを持ってきていた。俺はクーラーボックスからキンキンに冷えたスポーツドリンクを手に取り、居間を出た。



廻原は庭に出て刀を振り始めた。俺は道場に入って技の研究をすることにした。道場の重い扉をガラリと開け、一礼してから中に入る。しばらく使っていなかったため、フローリングはホコリがうっすらと被っていた。これでは修行ができない。手始めに掃除をすることにしよう。




だだっ広い道場を1人で掃除をするのは骨が折れる。さては、廻原は掃除が面倒だから庭で修行をしていたのだろうか。いや、考えすぎか。だとしても、手伝ってくれてもいいと思うのだが、まぁ良いだろう。それに、こうして雑巾がけするのもなかなかいいものだ。体を鍛える効果ももちろんあるが、精神統一にもなる。しっかりと自分自身と向き合いながら掃除ができる。修行を始める前の良いウォーミングアップになった。



掃除を終えたので、神棚にお参りしてから早速修行に入る。倉庫から丈夫なサンドバッグを引っ張り出してくる。まずは基本の格闘術を繰り出しながら身体を慣らしていく。




俺の基本的な戦闘スタイルは素手喧嘩(ステゴロ)。とは言っても、ボクシングや空手、柔道など複数の格闘技を複合した総合格闘術に近い。師匠が俺の体格などに合わせて教えてくれたものだ。言うなれば、「武縄流格闘術」といったところか。だが、俺の超能力ではこの格闘術を存分に発揮出来ることは少ない。俺の超能力はチーム戦だとサポート向きで、ソロでも縄で攻撃したほうが早いからだ。だが、それも通用しない領域もあることを知った。改めてこの格闘術と向き合う必要がある。



まずはボクシングの動きでサンドバッグを叩く。師匠からよく言われていたことがフラッシュバックする。

「基本の動きは丁寧に、確実に」

その言葉の通りに修行をしてきた。それは今も変わらない。ゆっくりと正しいフォームでサンドバッグを叩く。ゆっくりと、丁寧に。インパクトの瞬間にだけ力を込めるが、当然威力は無い。だが、大事なのは動きだ。基本の動作、これが完璧にできなければ実戦で勝つことは不可能。


ワンツーを繰り返し、時折フックやアッパーを混ぜる。そして、フットワークも途中で始め、回り込んだり回避する動きも行う。依然としてハエが拳に止まるような遅い動きだが、身体が温まってきた。汗がダラダラと流れ始める。そろそろ頃合だ。


このタイミングでギアを上げ、徐々にスピードを出していく。いきなり通常の速度にはしない。少しずつ、少しずつ、パンチとフットワークのスピードを上げていく。


トン・・・・・・・・・トン・・・・・・・・

トン・・・・・・・・トン・・・・・・

トン・・・・・・・トン・・・・・・

トン・・・・・・トン・・・・・

トン・・・・・トン・・・・

トン・・・・トン・・・

トン・・・トン・・

トン・・トン・

トン、トン

トントントントントントントントン

トントトントントトトト

ドンドンドドドドドド

キュッキュッ

ドドドド

キュッ

ズドンッ!べゴンッ!ドゴッ!ズバッ!

キキュッ!

ドゴンッ!バキャッ!


フォームは決して崩さない。基本動作のまま、ひたすらスピードを上げる。インパクトの際に込める力も変えない。インパクト前の脱力もそのまま。ただ、スピードを上げる。スピードは技の威力に直結する重要な要素だ。力加減は同じでもスピードが変われば当然威力は大きく変わる。俺はそこまで力の強い方では無い。だからこそ、俺はスピードを追い求める。



フットワークも、そして腕も、限界に近付いてきた。これ以上のスピードは出せないのか。もっと、もっと、もっと、速く、鋭く。弾丸のように速く。リニアのように速く。戦闘機のように速く。音のように速く。光のように速く────






















意識が現世に戻ったとき、俺は仰向けで倒れていた。汗がそこらじゅうに散らばり、身体がぐっしょりと濡れていて気持ち悪い。頭がぼーっとする。上手く頭が回らない。気絶するほど、記憶が途中で飛ぶほど、俺は没頭していたようだ。


ぐったりとしながら顔を横に向けると、サンドバッグが倒れているのが見えた。金属製の支柱に鎖でぶら下がっているタイプのサンドバッグ。滅多に倒れることの無い特別仕様。それを倒すまで俺は没頭していたのか。そりゃ気絶もするか。



寝転んだまま少しだけ休み、なんとか立ち上がった。道場の壁際に置いておいたスポーツドリンクを取りに行き、それをがぶ飲みする。汗をかきまくった身体に染み渡る。キンキンに冷えては居ないが最高に美味い。


ん?キンキンに冷えてない?あれ?今何時だ?窓の外を見るとすっかり暗くなっていた。道場は照明をつけていたため、全く気付かなかった。修行を始めたのは午後の3時すぎだったはず・・・俺はどれくらい気絶してたんだ?



すると、道場の扉がガラガラと開いて廻原が入ってきた。

「お、コースケ、まだやってたんだ」

「いや、多分いいしばらく気絶してて今起きたところだ」

「うぇ、マジかよ。どんだけやってんだ。カメラあるよな?見てみる?」

「あぁ、そういえばあったな。見るか。いや、その前に風呂に入らせてくれ。汗が気持ち悪くて敵わん」



風呂から上がると時刻は7時。30分くらい風呂に入ってたはずだから、だいたい6時半くらいに目が覚めたのか。ということは、気絶の時間も含めると3時間半ほど修行をしていたということになる。問題はそのうち、どれだけ気絶していたか。


居間に入ると廻原が夕食の配膳をしてくれていた。

「おー、あがったか。飯の用意はしといたぜ。まぁ、コンビニ弁当とインスタント味噌汁だけど」

「すまねぇな。助かるよ」

「おう、食いながら見よーぜ」

「うん。そうしよう」


廻原がテレビの電源をつけ、カメラについていた外部メモリをビデオデッキにセットする。師匠の道場にはいくつかの記録用カメラが設置されている。後で稽古を見直して反省点を見つけるためだ。


早速、先程の映像を再生する。しばらくは俺がゆっくりと時間をかけてサンドバッグを殴る様子が映し出されている。

「なぁ、廻原、早送りしてくれ。これじゃあ朝になっちまう」

「あ、あぁ、そーだな。見惚れててうっかりしてた」

「なんだそれ」


廻原はリモコンを操作して早送りを始めた。俺のゆっくりとしたパンチはやっと普通の速度のパンチになり、それが1時間ほど続いたころ、さらにパンチのスピードが上がり始めた。俺がギアを上げ始めた頃だろう。廻原は早送りの倍率を低くする。だが、通常のスピードに近付いて行ってもそれを上回る速度でパンチのスピードは上がっていっている。



「ヒュー!さすがだな。いつ見てもすげースピードだ」

「まぁ、実戦でこのパンチを披露することなんてないけどな。俺の能力、サポート向きだし、ソロでも縄での攻撃をメインにしてるし」

「お前なぁ、これ使わないのはもったいないって。いつもお前はサポートを買って出てるけど、本当は主戦力として戦えるはずだ」

「そうかぁ?」

「そうだとも。いいか、コースケ。お前は自分の超能力の真価に、そして有効な使い方に気付いていない。思考を変えろ。もっと柔軟に、そして自由に」

「・・・わかった」



映像は通常速度に戻った。だが、パンチの速度はどんどん増している。自分では気付かなかったが、ここまで速いパンチを出せるようになっていたのか・・・そして、それを実戦でほとんど使っていなかった自分に苛立ちを覚えた。俺は自分の超能力を使いこなしていた気でいたが、実際は超能力に使()()()()()()だけなのかもしれない。超能力に固執しすぎていた。俺は体術だけでも十分やれるじゃないか。


そして、映像の経過時間が2時間を過ぎた頃だった。サンドバッグはだんだんと大きく揺れ始めた。柱時計の振り子のように大きく大きく揺れている。そして、目にも止まらぬスピードのパンチが繰り出され、凄まじい衝撃音が響いたあと、サンドバッグは地に伏せた。そして、それに釣られるように俺もバッタリと倒れた。



「なんだこれ」

「な。なんなんだ、これ」

「いや、お前に聞いてんだけど。なんで本人がわからねーんだよ」

「うん、いや、俺のパンチはせいぜいあの映像での1時間半地点の速度が限界だと思ってたんだけど・・・いつの間に成長してたんだ?」

「俺に聞くなよ。まぁ、厳しい任務をこなしているうちにさらに成長したってことじゃね?」

「そういうことかな」

「そういうことだろ。とにかく、今のお前の課題はハッキリ見えたな」

「あぁ。そうだな。この能力を味方のサポートだけに使うわけでもなく、メインウェポンにもしない。自分自身の攻撃のサポートに使えるようにする。『武縄流格闘術』を完璧に仕上げる!」


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