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ネオス・パンゲア怪異ファイル 〜平凡な能力者、怪異と悪意をド根性と友情パワーでぶっ飛ばす〜  作者: 芦田メガネ
第1章 アジア編

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薬師丸冬美:オリジン

 イエティを先輩やマイちゃんに近づけさせないように戦う。実戦経験がほとんどないアタシにそれができるかどうか、正直全く自信はない。だけど、やらなくては。ならば、この空間の中央でなるべく距離を詰めて、逃げずに戦うしかない!

 

 アタシだって中国拳法を10年以上続けてきた。その全てをぶつけるしかない。少林寺拳法だけじゃない。功夫アクション俳優だったアタシの大伯父さんからも多くの象形拳を教わった。大丈夫。アタシならいける。大丈夫。きっと、大丈夫。何度もそう自分に言い聞かせ、イエティと対峙する。


 イエティのような馬鹿力を持った怪物に、普通の人間向けの拳法では勝てない。相手を翻弄し、そして急所を連撃するのがベストだろう。攻撃を下手に避け続けると先輩方に当たる可能性もある。ならば、受け止め、いなすのみ。方針は定まった。行くよ。



 全身の力を抜き、上半身と腕を大きく回すようにして揺らす。そして、左足を交差するように前に踏み出し、右足を弧を描くように交差して前に出す。そして、左足を左後ろに戻し、右足も右後ろに戻す。これをリズムよく繰り返す。円を描くように絶え間なく動く。「酔拳」の基本動作「酔歩(すいぶ)」だ。酔拳を選んだことにはいくつか理由がある。1つは、動きを相手に悟られにくいこと。イエティは恐らくそこまで知能は高くない。今まで単純な動きを恐ろしいスピードとパワーで行ってきただけだからだ。2つ目は、身体の使い方次第では自分より大きな相手を転ばすことも出来るからだ。


 そして、身体を更に前後に揺らしながら、前進と少しの後退を繰り返す基本歩法「浪歩(ろんぶ)」も組み合わせながら、不規則な動きを作り出しながらイエティとの距離を詰める。すると、イエティは渾身の右ストレートをアタシに放ってきた。速い、相変わらずモーションは単純。まず、軽く横になりながら飛び、イエティの腕に背中から着地する。そして、瞬時に背中をバネのように使って跳ね上がって、イエティの腕を地面に叩きつけながら喉元に向かう。手に酸をしっかり纏わせて人差し指と親指を曲げ、鉤爪のような形にして、イエティの喉にしっかり食い込ませる。やはり、ヤツの毛皮は硬すぎる。普通の人間なら喉の肉を溶かしながら引きちぎれるはずなのに!このままくっついていてもしょうが無い。イエティの身体を蹴って離脱する。




 だが、全く無意味な攻撃ではなかったようだ。毛皮をほんの少しちぎることが出来た。イエティは痛みのあまり悶絶している。今のうちに更なる攻撃を浴びせる!ゆらゆらと揺れながら再びイエティに近づく。イエティは左手でアタシを払いのけようとするが、バレバレの行動だ。すぐに身体を反らして、わざと背中から転ぶ。そして、背中を軸にして回転しながらイエティの足を蹴る。再び、背中を使って跳ね、イエティの腹に掌底突きを喰らわせる。毛が焦げる嫌な臭いが立ちこめる。すぐに、酔歩で横移動をしてもう一度体勢を立て直す。



 そのときだった。後ろの壁際からか細い声が聞こえてきた。

「うぅっ・・・。い・・・痛い・・・。ふ・・ゆみ・・・ちゃん・・・」

「マイちゃん!」

マイちゃんの意識が戻ったようだ。だが、かなり深刻なダメージを受けているようだ。早く手当をしてあげないと・・・。でも、イエティはまだ・・・

「マイちゃん、ごめん、もう少し待ってってね」

あのときと状況が逆だな。少しだけ、過去の記憶が走馬灯のように流れる。アタシが拳法を始めること、そして、強くなることを決意した、アタシの原点(オリジン)を───






 小さいころ、アタシは今と違ってもやしっ子だった。ひょろひょろとしていて、そして気弱だった。それだけじゃ無く、わたしの超能力「毒手」が危険なものだと知った男子たちから虐められることになってしまった。危険な超能力を持つ迫害すべき人間、そして、ひょろがりで臆病で反撃してこない、わたしは格好のターゲットだった。辛く、苦しかった。自分の能力を、そしてなにより反撃できない弱い自分のことがわたしは大嫌いだった。


毎日のようにわたしは虐められていた。幼稚園から小学校に上がっても、それは変わらなかった。「毒女!」「触るな!体が腐る!」「いつも毒出してんだろ!?近づくんじゃねぇ!」「人殺し〜!死んじまえ!」耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言を毎日のように浴びせられた。時には暴力も振るわれた。水をかけられた。死にたかった。でも死ねなかった。親に迷惑はかけられない。だから家では気丈に振舞った。家と学校でのキャップ。それで余計に苦しくなった。



そんな暗い生活に一筋の光が差し込んだ。わたしが小学2年生の頃、ある転校生がやってきた。

「源川真衣です。となりの地区からやってきました。よろしくおねがいします!」


マイちゃんはその明るい性格と持ち前の可愛さでクラスの人気者になった。わたしとは真逆の存在だった。だからこそ、わたしへの虐めは止まらなかった。


でも、マイちゃんが来て2週間くらい経った頃だった。わたしはいつものように放課後、近所の空き地で虐められていたときだった。この日は男子たちの鬱憤が溜まっていたのか、段々と虐めがエスカレートしていき暴力も振るわれていた。また、殴られる。そう思ったときだった。

「ちょっと!なにやってんの!?アンタらぁ!」


誰かが叫びながら走ってきて、わたしの前で通せんぼした。男子の怒号が続いて聞こえてくる。

「なにやってんだ、転校生!早く退けよ!こいつを成敗すんだよ!」

わたしの前に立ったのはマイちゃんだった。マイちゃんは負けじと叫んだ。

「この子がアンタらになにかしたの!?殴られるようなことしたの?チクチク言葉、言われるようなことしたの?」

「コイツはなァ!手から毒を出すんだよ!毒を出しちゃう危ないヤツなんだ!だから俺らが・・・」

「その毒で、あなた達を傷付けたの!?アンタらに殴られるようなことをしたの!?できることと、したことって違うんだよ!傷付けるかもしれない力を持ってるだけで、その人を傷付けるなんて、アンタらがやってることはこの子の毒よりもっと危なくて、いけないことだよ!」


はじめてだった。わたしを庇ってくれたのは。わたしの毒とちゃんと向き合ってくれたのは。暖かくて、優しくて、嬉しくて、涙がボロボロと溢れた。

「これ以上、この子を傷付けるなら、私は容赦しないよ!いまからお巡りさんとか、怪防隊のお兄さんたちを呼んできてもいいんだよ!」

「グッ!ち、ちくしょー!覚えてろよ!」

「忘れるもんですか!ばーかばーか!」


わたしを虐めていたヤツらはどこかに行ってしまったようだ。マイちゃんは振り向いてわたしを覗き込んできた。

「大丈夫?立てる?」

マイちゃんはわたしに手を差し出してきた。一瞬その手を握ろうとしたけど、すぐに引っ込めてしまった。

「え、どうしたの?」

「だ、だって、わたしが掴んだら・・・」

「いつも毒を出してるわけじゃないんでしょ?それだったら生活できないもの」

「そ、そうだけど・・・」

「なら、大丈夫でしょ!」

「えっ」


マイちゃんはわたしの手をしっかりと握って、立ち上がらせてくれた。そして、わたしのことをしっかりと抱きしめて言った。

「気付くのが遅くなってごめんね・・・。この学校に来てから、あなたが辛そうな顔をしてるのに気付いていたのに、何も出来なかった。すぐに、声をかければ良かったのに・・・ごめんね・・・」


なんで、マイちゃんが謝る必要があるんだろう。マイちゃんは何も悪くないのに。でも、その優しさが、傷付いたわたしの心に染み込んできた。

「そ、そんなことないよ。マイちゃんはなにも悪くない・・・。わたしを・・・、わたしを、助けてくれて、ありがとう!う、うわあああああああああああああん!」


はじめて、同い年の子からもらった優しさ。その温かさ、そして心強さで、わたしの涙は止まらなかった。溢れて、零れて、止まらなかった。マイちゃんに抱きついたまま、わんわんと泣いてしまった。



その後、マイちゃんはわたしを連れて警察、そして学校の先生のところまで連れていってくれた。警察も介入したことで事態は大事になり、いじめっ子たちはこってり絞られて転校して言った。それで、わたしへの虐めは終わった。


事態が一通り収束したあと、わたしは決意した。強くなろうと。あのとき、わたしを助けてくれたマイちゃんは、最高に強くて、かっこよかった。わたしも自分自身だけじゃなく、誰かを助けられるくらい強くなろう。そして、もしマイちゃんがわたしと同じ状況になったとき、今度はわたしが助けよう。そう決めた。



それから、わたしはおじいちゃんの道場に通い始めた。おじいちゃんの道場には時々、アクション俳優を引退した大伯父さんも講師として、そしておじいちゃんと戦うために来ていた。おじいちゃんは中国拳法の、特に少林寺拳法の基本を徹底的に教えてくれた。大伯父さんは功夫映画で培った様々な象形拳を教えてくれた。


特訓はとても辛いものだった。何度も何度も同じ動きを繰り返し、何度も何度も技を受ける。それだけじゃなく、わたしはひょろひょろとした体格だったから、人一倍筋トレをしなければならなかった。毎日、身体のあちこちが痛む。稽古の時も何度も倒れてしまう。でも、その度に、あのとき助けてくれたマイちゃんみたいになりたい、もしなにかあれば今度はわたしが助けたい、そう考えれば何度でも立ち上がれた。




「冬美ちゃん、また筋肉デカくなってない?」

「そうかな〜?まぁ、アタシとしてはもっとデカくしたいくらいなんだけどね〜」

高校生になっても、アタシたちはずっと一緒で、一番の親友だった。それは今も変わらないけど。アタシはずっと筋トレと拳法の修行を積んでいた。


そして、進路を決める頃、アタシは迷わずある大学を選んだ。

「冬美ちゃん、やっぱり怪防隊付属大にするんだ」

「もちろん!アタシの拳法とこの手で、困ってる人たちを助けたい!」

あの日のマイちゃんみたいに。それは恥ずかしくて口には出せなかった。

「実はね、私もなんだ〜!」

「え、ホントに!?」

「うん!私も世界を守りたいもん!」

「マイちゃんらしいね。じゃあ、アタシたちでコンビ組んで活躍しようね!」

「うん!」







懐かしいな。あの日のことは今でも鮮明に思い出せる。そして、今、あの日の誓いを果たすときが来た。あの日、アタシが助けて貰ったように、今度はアタシがマイちゃんを助ける番だ。アタシの能力を、そしてアタシ自身を受け入れてくれた恩人(マブダチ)を必ず助けるんだ!

「覚悟しろよ・・・。マイちゃんを傷付けたんだ、アタシは容赦しないからなッ!」

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