休暇明け
少し長めに貰ったはずの休暇はあっという間に終わってしまった。しばらく任務が立て込んでいたため、その分の休みを貰った訳だが、ただゴロゴロと寝て、ゲームをして、スーパーに買い物に行って......その繰り返しで消費されてしまった。この休暇の間に緊急の招集はなかったものの、いつ呼ばれるんじゃないかと気が気じゃなかった。ろくに休めなかった気がする。
そんな訳で久々の出勤となるのだが、やはりどうしても足取りは重くなる。誰だってそうかもしれないが、俺も例に漏れずそんな人間だ。書類仕事だけで終われば良いのだけど、忙しくなりそうだ。俺のこういう悪い予感は必ず当たってしまう。俺の超能力ではないのだけれど。
俺、武縄公介は「大陸怪奇現象防衛隊」の隊員だ。主な仕事は、怪奇事件に関する書類作成、そして現場での任務だ。もっとも、書類作成は数ヶ月に一度か二度ほどなのだが、名目上は主な仕事となっている。
いつものようにアパートを出て職場に向かう。今日は風が強く、気圧も低いため頭が痛い。朝からとんでもなく憂鬱だ。いつからか、低気圧に弱くなってしまった。体質だろうか。
頭痛にやられながら歩いていると、突然前を歩いている女性の頭上になにかが落ちてくるのが見えた。おそらく老朽化した店の看板だろう、この風で金具がイカれたのかもしれない。頭が痛くてもこのような緊急事態ではそうも言ってられない。俺は手から縄を数本発射し、なんとか看板を絡めとり、引き寄せる。思った以上に重かったため、人に当たらないように路面に緩やかに降ろした。
そう、これが俺の超能力「縄」である。手から縄を5本ずつ発射し、それを自在に操ることが出来る力だ。見た目は普通の麻縄と変わらなくて少しダサいし、射程距離は半径30m程度しかないが、それなりに汎用性が高く気に入っている。地味な能力でカッコイイ活躍をすることに俺は強いロマンを感じるからだ。
すると、建物から店主と思しき初老の男性が慌てて出てきた。
「はァはァ・・・すみません、お2人とも、お怪我はございませんか?」
「えぇ、なんとか。咄嗟に受け止めたので」
「私もこちらの方に助けていただいたので無事です。本当にありがとうございます」
「いえいえ」
振り返った女性はとんでもない美人だった。長い黒髪が良く似合う清楚な見た目をした女性だった。丸みを帯びたメガネもよく似合っている。
「あの、お礼をしたいのですが、お名前と連絡先を・・・」
「え、あ、あぁ、私は武縄と申します。これ、電話番号です」
俺は自分の名前と電話番号をメモ帳に書き、それをちぎって女性に渡した。
「ありがとうございます。私は源川です。一応、私の番号も」
そう言うと、源川さんも俺と同じようにメモを渡してくれた。こんな美人と知り合いになれるとは運が良い。
そして、店主と思しき男性もメモを取り出した。
「私は摘田と申します。ここの時計店の店主をしております。お詫びをしたいので、お2人の連絡先を私にも教えて頂けませんか?」
「ええ、もちろん」
「わかりました、こちらです」
こうして、謎の名刺交換会を経て俺は2人と連絡先を交換した。しかし、そろそろ急がないと遅刻しそうな時間になってきた。
「では、私はこの辺で。仕事に行かねばなりませんから」
「あ、はい。ありがとうございました」
「本当にすみませんでした」
「いえいえ、では」
歩き始めたとき、後ろから摘田さんのボヤキが聞こえてきた。
「おかしいな・・・看板がそんなに吹っ飛ぶような風だったかな・・・」
朝からハプニングはあったが、やはり人助けというのは気分がいい。頭痛も少し和らいだ気がする。そんなこんなで職場、怪防隊ニイガタ支部に到着した。怪防隊の支部は大陸全土に大量に設置されており、ここもその1つだ。飽くまで籍を置いてるだけなので、ニイガタ以外の行政区にも出張することがよくある。
事務所に入ると早速、直属の上官であるが早川優子待ち構えていた。名は体を表すとはよく言ったものだが、この上官は全く優しくないことで評判だ。数年前はそんなことなかったのだけれど・・・
彼女は書類に目を通していたが俺を一瞥し、再び書類に目を戻してぶっきらぼうに声をかけてきた。
「おはよう、武縄。早速だが任務だ。」
本編はじまりました。
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主人公、武縄公介の情報を少しだけ載せてみます。
武縄公介
25歳 男
7月8日生まれ(縄の日)
超能力「縄」
概要: 手から縄状のエネルギー体を5本ずつ、両手合わせて10本まで出すことが出来る。見た目は一般的な麻縄と変わらない。射程距離は約30m。精密な動作が可能。縄が出せる力は公介の筋力に依存している。縄が攻撃されてもダメージは公介にフィードバックされない。縄は手から出した状態で消失させることも可能。