雪男
「イエティってあの『イエティ』ッスか!?」
「そうだ、あのイエティ、だ」
「すごい!伝説級のUMAじゃないッスか!」
「まぁまぁ、一旦落ち着け、冬美。とりあえず任務の説明をさせてくれ」
冬美が興奮するのも無理はない。ここまで知名度の高いヤツを相手にする機会はそうそうない。ネットニュースで報じられるのは地方でのみ知名度が高い、世間ではマイナーな妖怪や怪物がほとんどだからだ。
「今回お前らにはヒマラヤ山脈に属するネパールのエベレストに行ってもらう。ここ数日、この山々を管理する連合政府の環境省の職員からイエティのようなモノを見た、という相談が複数件寄せられていてな。イエティは人間を襲う危険性もあるため討伐、可能であれば捕獲してきて欲しい。無理に捕獲しろとは言わん。自分の身の安全を第一にして判断してくれ」
「しかし、あの辺は電車とか通ってませんよね?どのように向かえば?」
「安心しろ、ヘリコプターを手配してある。それで環境省の基地のヘリポートまで向かい、その後は歩いて山を探索してくれ」
「正気ですか?エベレストですよ!?ろくに登山をしたことが無い我々にエベレスト探索を徒歩でしろと!?」
「今回の目的地はそこまで標高の高い地域では無い。環境省の基地周辺だからな。まぁ、万能戦闘服なら雪山でも高山病にもならないし問題無く生存できる。それに、簡易休憩室もあるから、いつでも避難できるだろ。万全な装備がある。大丈夫だ。いざとなったら、私が助けに行く。安心して行ってこい!」
これ以上文句を言ってもしょうがないので、俺たちはヒマラヤに向かうことにした。だがその前に念のため、簡易休憩室に入れておく食料や予備のインスタント・テレポーターなどを準備する。それに、エベレストの詳細な地形データを用意した。さらに、俺の愛車も空けておいたストレージ付き腕時計の12番に収納した。これで準備は万全だ。俺たちはヘリコプターに乗り込み現場へと向かった。到着までそれなりに時間がある。そこで、いつものように俺たちは渡された資料の確認を始めた。
────イエティ、ヒマラヤ山脈に住むと言われる未確認動物、UMAの1つ。全身が硬くて分厚い毛皮に覆われ、直立二足歩行をする類人猿であるとされている。この、「イエティ」という名前はネパールの少数民族、シェルパ族の岩を表す「Yah」と動物を表す「Teh」という2つの言葉がもとになっている。
現地ではもともと伝承として伝えられてきた存在だったが、1887年、イギリスのウォーデル大佐がヒマラヤ山脈で大きな足跡を発見したことで、世界中にイエティの存在が知れ渡ることとなった。また、今回の目的地であるエベレストでは1951年にイギリスの登山家、エリック・シプトンがメンルン氷河付近でイエティのものと見られる大きな足跡を発見している。
ちなみに、小惑星衝突前でのイエティの正体は、カモシカやチベットヒグマであるとされていた。類人猿というのは現地の伝承を真に受けすぎているものだと言われている─────
俺たちはこの資料を受け、軽く今回の作戦について相談する。
「今回の作戦だが、どうする?」
「そうッスねぇ・・・。やっぱり、足跡とかの痕跡を探して、それをもとにイエティを探すのがいいと思います」
「うん、まぁ、それが無難だよなぁ・・・。問題は雪山でまともに歩き回ってイエティを捜索できるかどうか・・・」
「武縄先輩の空飛ぶ車なら、どうですか?」
「晴れてるうちならそれでもいいと思うけど、山って天候変わりやすいだろ?それに、すぐに地上に降りることも難しい。あれ、雪山とはいえほぼ斜面の岩場だからな。車は緊急避難のために使うつもり」
「そーなると、結局徒歩での探索か〜」
「まぁ、仕方ない。環境省の人にガイド頼んでみるよ」
そして、もうひとつの懸念点について話し合う。
「あとは、どうやってイエティと戦うか、だな」
「それなんですけど、アタシにやらせてくれませんか?」
「え、フユミちゃん?なんで?」
「実はアタシ、ずっと前からイエティみたいなUMAと真正面から殴り合いがしたかったンスよ!」
「・・・正気か?」
「正気ッス。それに、勝つための、そして捕獲するための算段もついてるッス」
「どんな?」
「それはもちろん、アタシの毒手ッス!アタシのアシッドブレイクで分厚い毛皮を溶かして、ヴェノムラッシュで毒をぶち込む、これでいけるはず!」
「いや、まぁ、たしかにそうかもしれないけど、それ、イエティ死んじゃうんじゃない?」
「それについてもご安心を。死なない程度に毒を調整するッス。テトロドトキシンやタリウム化合物を死なない程度にぶち込むことで、痺れと倦怠感で動けなくします。イエティなら体もデカいはずなので、多少入れすぎてもどうにかなるかと」
毒物、というか化学に関する知識が乏しいため、何を言ってるのかよく分からないが、ここはプロの言葉を信頼するとしよう。
「わかった。お前に任せる。だけど、俺たちもできるだけサポートに回る。だから、くれぐれも無理はしないこと。そして真衣!」
「は、はい!」
「お前なら冬美と連携を取れるはずだ。しっかりサポートしてあげること。いいな?」
「わかりました!」
「頼むよ、マイちゃん」
「うん!」
ほどなくして、目の前に雄大な山脈が広がってきた。その壮大な景色に俺たちは圧倒された。ここが、これが・・・・
「着いたな、ヒマラヤ山脈!」
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