交流戦、決着
「・・・い・・・。・・・い、・・ろ・・・。おい・・・・・。」
なにか懐かしい声が聞こえるような気がする。ダメだ、また意識が・・・
「おい・・・・。おい・・・・!おい!・・・ろ!」
うーん、うるさいなぁ。もう少し、もう少し、寝かせてくれ・・・。頭が痛くてかなわん・・・。
「おい!いい加減起きろッ!!」
バチン!という快音が響いた。ほっぺたが痛い。堪らず目を開ける。そこには、廻原がいた。俺の顔を怒った表情で覗き込んでいる。
「か、かいばら・・・?」
「そうだ、俺だ!この指、何本に見える?」
「さ、3本?」
「よし、目は見えてるな。立てるか?」
「少し、身体が痺れるが、なんとか。少し、肩を貸してくれ」
廻原に手伝ってもらい、痺れる身体をなんとか起こす。
「交流戦は?どうなった?」
「バカ!まだ続いてる!見ろ!もう、フユミちゃんが走ってきてるぞ!」
確かに、冬美がこちらに向かってきてる。寝ぼけた頭で周囲を見渡すと、俺たちは今、演習場の一番端の角にいるようだ。俺が彼女らの連携攻撃を喰らったのは演習場の中央付近だったはず。廻原の手を見ると、その中にはインスタント・テレポーターが握られていた。
「廻原、もしかしてお前、それで俺を助けてくれたのか?」
「あぁ、俺も電気の痺れが抜けきってないから、これでぶっ倒れたお前の近くまで移動して、そして、この演習場の隅にまでテレポートした」
「毒が抜けたのは?」
「緊急医療セットの万能解毒薬を注入した。ちなみに、お前が倒れてから1分くらいしか経ってないぞ」
「そうか、ありがとうな」
「礼はいい。その代わり、絶対勝つぞ」
やはりこの男、めちゃくちゃ頼もしい。コイツとコンビになれて本当によかった。さっき、産まれたての子鹿みたいだと思ってしまったことにとてつもない罪悪感を覚えた。
「で、どうする?」
「ギリギリまでフユミちゃんを引き寄せる。その後、テレポートはあと1回できるから、マイちゃんたちの背後に移動する。そして、1人ずつ確実に仕留める。これで行こう」
「了解した」
冬美はあと50mほどの位置にまで迫って来た。再び拳を振り上げて叫ぶ。
「先輩ッ!アタシの毒を解除したんスね!でも、もう1回寝て貰いますよッ!」
「いや、もうゴメンだね。ありゃ最悪の気分だった。死んだ方がマシくらいにな」
そして、廻原はインスタント・テレポーターを起動した。心地いい重低音が響き、眩い光に包まれた。そして、再び視界が拓けると俺たちは冬美と真衣の背後を取り、真衣から200mほど離れた地点に立っていた。
何を言ってるか分からないが冬美の悔しそうな怒鳴り声が聞こえる。
「フユミちゃんが戻ってくる前に、急いでマイちゃんを潰すぞ!」
「応!行くぜ、廻原!スリングショット・マシンガンやるぞ!」
「お、久々だな。確かにそれならマイちゃんを倒せるかもな」
俺はストレージ付き腕時計から楕円形の革と硬式の野球ボールを取り出す。両端に穴が空いていて、楕円部分には2本の細い穴もある。それを右手から出した縄に通し、その縄の端を握る。これで簡易的な投石紐が完成した。楕円部分に空いた穴はボールを自然に包むためのものだ。そして、投石紐にボールをセットし、準備は完了だ。
「準備完了だ!廻原、俺をしっかり掴んでろよ!」
「OK!いつでも能力発動できるぜ!」
廻原は少し離れてしゃがみ、俺の左手を握る。そして、俺は右手に持った投石紐を何回かグルグルと振り回し、持っていた縄の端を離した。ボールは慌てて振り向いた真衣を目掛けて凄まじいスピードで飛んでいく。そして廻原が叫んだ。
「よし!発動!10回!」
そしてボールが真衣のみぞおちにクリーンヒットする。
「おぼぉッ!」
真衣はえずくような声を上げる。だが、これでは終わらない。その後、すぐに真衣から数十cm離れた空中からボールが10個次々と出現し、それらが連続して真衣のみぞおちに当たる。真衣はその度にえずいてその場にうずくまった。そして、激しく嘔吐する。そりゃそうだ。全力で投げたんだからな。時速130kmくらいは出てるはずだ。いくらボールとはいえ11発も腹に当たれば吐きもするだろうよ。
そして、縄の射程距離に入るまで走って真衣に近付き、吐いてうずくまってる真衣を縄で捕まえて一気に引き寄せる。
「廻原!また八創斬りをやってくれ!」
「すまん、8回は無理だ!3回で勘弁してくれ!そろそろ上限が来る!」
「それでもいい!頼んだ!」
廻原が再び竹刀を構える。そして、真衣を引き付けて思い切り頭を叩く。
「劣化版必殺!三創斬りィ!」
快音が3回響く。その瞬間、真衣の首はグッタリと垂れた。俺は真衣を静かに床に寝かせる。
「気絶、してるよな?」
「してるな。ほっぺたつついても起きないし」
「うん、特に反応ないな」
「よし、じゃー後はフユミちゃんだけだな」
さて、一番の難敵だ。どうやって彼女を気絶させるか。多分、降参はしないだろうし。
「どうする?真衣を盾にして毒パンチをガードするか?」
「いや、お前。さすがにそれは人間性疑うわ」
「そうか?じゃあ、なんかいい案ある?」
「一応、な」
「どんな?」
「脳を直接揺らす」
「お前ならやれるな」
「俺だけじゃだめだ。コースケの協力が不可欠」
「わかった。教えてくれ」
廻原は耳元に作戦を囁いた。なるほど、それならいけるかもしれない。
「やってみるか」
「結構お前の負担もデカいけど、頼むぜ、コースケ」
廻原はストレージ付き腕時計から栄養ドリンクを3本取り出してガブ飲みする。これは廻原の超能力の発動に必要な大事なエネルギー源だ。俺はその間に冬美を縄で拘束する。
「壱式・大蛇!」
動きが単純なおかげで捕まえるのが楽だ。俺はそのまま冬美を引き寄せる。
「ちょっと、先輩、またアタシをぶん殴るつもりですか?それは効きませんよ、アタシの首はちょいと太いんで」
「わかってらァ!だから、廻原が直接揺らしてくれるんだぜ」
栄養ドリンクを飲み終えた廻原が冬美の背後に回り込み、そしてその体にしがみついた。
「よし!チャージ完了!」
廻原は冬美の頭に両手の拳を当てる。
「コースケ!絶対に縄を解くなよ!」
「応!任せとけ!」
そして、廻原は左右の拳を交互に冬美の側頭部にぶつけ始めた。リズム良く、小刻みに。そして、10発ほど叩いたあたりで廻原は叫んだ。
「よし!発動!18回!超多重震動拳ッ!」
すると、小刻みに鳴っていた打撃音が更に重なって激しく聞こえ始めた。拘束している縄にもその細かいながらも力強い振動が伝わってきて、俺の手も再び痺れ始めた。思わず縄を解きそうになるが、何とか堪える。しばらく経って、打撃音は止み、廻原の攻撃は終わった。見ると、冬美は白目を剥いてヨダレを垂らしている。
「完全に気絶してるな」
「だな。フー、疲れるな、能力をフルスロットルで使うと」
そして、2階から大きな和太鼓の音が響いた。
「勝負ありッ!勝者、武縄・廻原ペア!」
今回もお読み頂きありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。
以下、解説パートです
革と野球ボール
スリングショットに使うための道具。どっちも通販で買った安物。武縄のストレージ付き腕時計の7番に収納されている。
栄養ドリンク
廻原の超能力の発動に必要なエネルギー源。スーパーで売られてる普通の安い栄養ドリンク。キンキンに冷やした状態で収納した。廻原のストレージ付き腕時計の10番にカートンで収納されている。




