交流戦
懐かしいな、交流戦。俺も怪防隊に入隊したときにやったっけな。それ以来だ。早川上官は続ける。
「ルール説明を行う。試合時間無制限。真剣や実銃のような殺傷能力の高い武器の使用は禁止。だが、それ以外の竹刀や木刀、エアガンなどは使用可能。金的、目潰し以外はなんでもアリ。相手のペアをどちらも戦闘不能にすれば勝利となる!戦闘不能状態は、気絶するか『まいった!』などと言い降参することを指す。以上だ!」
ルールはとてもシンプルで良い。勝負はこれくらいシンプルな方が燃えるってもんだ。いよいよ、試合が始まる。早川上官は2階のギャラリー席に移動し、そこの中央にある巨大な和太鼓の前に立った。そして、バチを手にして叫ぶ。
「双方、全力で挑むこと!試合だからと気を抜くなよ!殺しはダメだが殺す気で行け!」
俺たちも、そして新人ペアも本気の面構えになり、準備は整った。
「準備はいいようだな!開始めィ!」
大砲のような巨大な太鼓の音が鳴り響いた。そして、すぐに冬美が俺たち目掛けて走り出す。
「先手必勝ッ!喰らえ、先輩ッ!」
冬美は俺の顔面に狙いを定め、左フックを放つ。当然見切っている。俺はすぐさま右腕を突き出し、その拳をガードする。重い一撃だ。あの筋肉から繰り出される一撃は鋭く、そして重い。骨が軋む音が聞こえてきそうだ。そして、インパクトの瞬間、俺は軽く左にジャンプする。廻原ほどの腕前では無いが、俺も消力は師匠から教わっているため使える。だが、消力を以てしても彼女の一撃を完全に殺すことは出来ない。
そして、気が付いた。戦闘服の袖が溶けている。拳が当たったところに穴が開き、焦げ臭い匂いがする。そして、露出した肌はほんのりと濡れていて、そして痛痒い。まさか、これは・・・
「あらら、顔面に当てたと思ったのにな。防がれちゃいましたか。しかも当たった感触がすごく軽い。豆腐を殴ったみたいに。さすがッスねェ、先輩。でも、今ので分かったでしょ、アタシのパンチの力を!」
そして、再び俺に向かって突進してきた。だが、単調な動きだ。いくら足が早かろうが、筋肉が付いていようが、動きが丸見えなら対処可能だ。
「廻原!合わせろやァ!」
「あいよォ!」
廻原は竹刀を取り出して、居合のような構えをとる。そして俺は、いつものアレを繰り出す。
「壱式・大蛇ィ!」
縄を左手から出し、そして横から冬美を捕まえる。そしてそのまま廻原の方へ運ぶ。
「なにッ!まさか、先輩方!連携技!?」
「そーだぜ、フユミちゃん!喰らいなァ!」
廻原は冬美をギリギリまで引き寄せ、そして上半身を回転させながら全力で彼女の頭を叩く。
「必殺ッ!八創斬りィ!」
冬美の頭に竹刀が当たった瞬間、8回も打撃音が響いた。俺の縄による推進力と廻原の刀の技術。このコンビネーションで多くの敵を倒してきた。これなら、さすがに筋骨隆々な彼女も気絶しただろう。しかし・・・
「ッくゥ〜〜〜!今のは効いたなァ。痛いなぁ、今のは痛い。しかも、どんな能力ですか、一度に8回も攻撃するなんて。アタシじゃなけりゃ、意識ぶっ飛んでますよ、先輩♡」
「バケモンかよ・・・」
困惑していたが、あの首を見て納得した。常人より遥かに太い。これでは、並大抵の攻撃では脳震盪を起こせず、気絶させるのは困難だろう。どれだけの時間鍛えれば、あれだけの首を手に入れられるのだろうか。彼女の血のにじむような努力が垣間見える。
「わ、私も忘れて貰っては困りますッ!」
いつの間にか真衣が俺たちの背後に回り込んでいた。彼女は懐からモバイルバッテリーを取り出し、ケーブルを握り締め、それを廻原に向けた。
「エネルギー変換!電気波動砲!」
ケーブルの先端が青白く光り輝いたかと思うと、弾丸のような勢いで光弾が発射された。後ろからの不意打ちに廻原は為す術なくそれを喰らってしまった。
「ゲハァッ!」
「や、やった!当たった!」
廻原の身体に穴は開いて無さそうだ。だが、どうも様子がおかしい。倒れたまま、指先がピクピクと動くだけで起き上がって来ない。廻原に声をかけようとするも、冬美が再び襲いかかる。
「余所見は無しッスよォ!先輩ッ!」
「悪かったなァ!受けて立つぜェ!」
「そう来なくっちゃねェ!」
冬美はさっき露出された俺の右腕目掛けてパンチを繰り出す。予想外だ、再び顔を狙うかと思ったが、もう一度腕を?だがいい。ダメージ上等。左腕でヤツの顔面を殴れば良し。脳震盪を起こせずとも、顔面ぶん殴れば多少は怯むはず!俺は素早く左手から縄を5本出し、冬美の後頭部の髪を掴む。そして、一気に手前に引き寄せ、その勢いも利用して全力でぶん殴る。冬美はそれにより体勢を崩し、俺の右腕ではなく、右肩に拳がヒットする。体勢が崩れていた分、いくらか威力が軽減されているが、それでも凄まじく痛い。
お互い体勢を崩し、片膝を付く。
「痛ってェ!ちょっと先輩、容赦無さすぎですよッ!髪とお顔は女の子の命ッスよォ!」
「ケッ!それはお互い様だろうがッ!そんくらいしねェとおめェを倒せないって思ったんだよッ!」
ちらっと横目で廻原の方を見る。ゆっくりではあるが、立ち上がろうとしている。産まれたての子鹿のように震えているのは、申し訳ないがちょっと面白い。あれ。真衣はどこに行った!?
「先輩、また背後取られてますよ」
「またかよ、畜生」
後ろから真衣の声がするが、やや小さいので少し離れた位置に居るのだろう。まぁ、彼女はあの超能力的にも近接タイプではないし、そりゃそうか。
すぐに立ち上がろうとするが、やはりダメージがキてる。右腕への集中攻撃、痛みが蓄積されている。右肩も服が少し溶けている。さらに、一度目に喰らった右腕も皮膚が溶けて赤くなっている。やはり、「酸」だな。冬美の手には酸性の液体が纏わされている。だが、1つ疑問なのは、なぜもう一度酸で溶かした箇所を狙うのか、だ。この程度の酸なら服や皮膚を溶かすのが関の山だろう。筋肉や骨を溶かしきることはできないはず。なにか別の意図がありそうな気がする。
冬美も立ち上がり再び突進の構えをとる。そして、真衣の方が叫んだ。
「冬美ちゃん行こう!今度は私たちの連携技を見せてあげよ!」
「応!合わせるよ!」
今回もお読み頂きありがとうございます!
複数人の戦闘、書くの難しいですね...
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