Teeny-Tiny War
マズイな。そうか、俺の縄は俺の身体の一部なのか。考えてみれば当然だ、俺のエネルギーの結晶で、俺の手から放たれる身体の延長線。そりゃそうか。
どんどん、身体が小さく小さくなる。小山がどんどん大きく大きく見えてくる。小さな小さな拳で何ができる?小さな小さな縄で何ができる?小さな小さな身体で大きな大きなアイツと戦える?分からない。小さな小さな脳をフル回転させる。とりあえず、今は逃げなければ!
幸い、10mほど離れた地点で小山を拘束し、そして触れられたため、今すぐに踏み潰されるなんてことは無いだろう。だが、奴は数歩歩いただけで俺を潰せる。小さな俺の体では、数百歩進んでも小山から逃げられない。
この部屋には何も無い。モノも、そしてホコリでさえも。そして、俺はあることに気がついた。なぜ小山は迷いなくこの部屋に入ったんだ?他にも部屋はいくつかあった。それでも奴はこの部屋にまっすぐ向かって行った。それに、小さくなってはじめて気付いた。この部屋の床、拭き掃除した跡がある。
そうか、小山は最初から俺たちに気付いていたんだ。考えてみれば当然だ。何日も時計店を覗いてたんだ、俺たちのことに気付いても不思議じゃあない。俺たちを逃げ場のないこの部屋で確実に殺すつもりだったんだ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている、そんな哲学者の言葉が頭をよぎる。
まずは、遮蔽物を用意せねば。俺はストレージ付き腕時計から滑車付き強化鉄骨を取り出す。小さな今の俺にとっては、3mほどの鉄骨が今は巨大な電波塔のように大きく見える。小山は不意に現れた鉄骨に驚いたようで小さな悲鳴を上げる。俺は縄を使って鉄骨に付いた小さなサビや傷を捕まえて、必死に必死に登って行く。
少し大きめの傷があったので、そこに腰をかけ一休みする。どうしたものかと考える。廻原は大丈夫だろうか。今、小山はこの鉄骨の周りを真剣に観察し、俺を見つけようとしている。俺は既に小山の頭上にいるので、すぐには見つからないだろう。
鉄骨に刻まれた目盛りから考えると、俺の今の身長はだいたい5cmくらいだろう。俺の本来の身長は175cmだからそれの約3%の身長ということになる。そして、さっき縄で鉄骨を登っている時に気付いたのは、縄の射程距離も短くなっていたこと。これも約3%だとすれば、だいたい半径90cmしか伸ばせないだろう。これで、どう戦うか。
何か使えるモノはないかとポケットをまさぐる。戦闘服のポケットには縄に取り付けるためのナイフが数本と、いつだったかハンバーガー屋で余分にもらってしまったプラスチックストローが入っている。こんなもんでヤツを屈服させられるか!そう自暴自棄になり、鉄骨に拳を叩きつける。案の定痛い。小さな鋭いサビがあったようで手を切ってしまい、血がにじみ出てきた。だが、その痛みのおかげで少し頭が冴えてきた。ずいぶんとパニックになってしまっていたが、どうにか冷静さを取り戻せた。そして、その血を見てある妙案が浮かぶ。今の俺の小さな小さな身体でこれが出来るかわからない。だが、生き延びるため、そして時計を取り戻すためにはやるしか無い。
俺は意を決し、縄にナイフをくくりつける。そして、静かに小山の腕に縄を伸ばしていき、二の腕を覆う服の袖を切り裂く。部分的ではあるが、肌が露出された。第一関門は突破した。
そして、俺はヤツの二の腕にナイフを突き立て、そこに向かって飛び込む。小山は痛がる素振りを見せ悲鳴を上げるが関係ない。俺は左手から縄を出し小山の攻撃を捌きつつ、右手でヤツの皮膚と血管を捌く。身体が小さく小さくなったおかげで血管がよく見える。一本の縄で止血をして心臓に向かう静脈に開けた穴をイジれるようにする。
そして、その静脈の穴に小さく小さくなったストローを挿入し、思い切り息を吹き込む。そして、空気が心臓し到達しないように、一時的に縄で腕を締め付ける。そして、空気を吹き込んだ静脈の穴も塞いで、空気を閉じ込める。空気の影響で血管がぽっこりと膨らんでいる。
さあ、ここからが本番だ。俺は小山に声をかける。
「おい!小山!聞こえるか!?俺は今、テメぇの血管に空気を閉じ込めた!これが何を意味するかわかるか!」
「な、なんなんだよ!クッソ、痛ぇなァ!ぶっ殺してやる!」
「おいおい、俺をぶっ殺したらお前まで死んじまうぜ?良いのか、それで」
「なんだとォ!?」
「ところでお前、なんでお医者さんが注射をする時に中の液体を数滴出してから人間に刺すか知ってるか?」
「なんだよ急に!それがどうしたってんだ!」
「それはなァ、注射器の中の空気を抜くためさ。血管に多量の空気が入ると、体内に入った空気の球が吸収されずに、血管をふさぐ『空気塞栓』っていう事態になっちまうらしい。そうなるとな、身体の重要な器官に血が行き届かなくなって死ぬんだと!」
「まさか、テ、テメぇ!」
「そう、そのまさかだ!さっきも言ったが、お前の血管の空気を閉じ込めた!そして!それを今、俺の超能力の縄で堰き止めている!お前が俺を殺したら、空気を閉じ込めた縄は消滅し、そしてお前は空気塞栓で死ぬ!」
事態の深刻さを小山は理解したようだ。顔が真っ青になり怯え始める。形勢逆転、といったところだ。
「た、頼む、それだけはやめてくれ!まだ死にたくねェよォ!」
「おいおい、それがさっきまで俺たちを殺そうとしてた人間の言うことか?随分と調子がいいこと言うじゃあねェの。そ・れ・に、人にモノを頼むときはそれなりの態度ってモンがあるだろ?舐めてんのか?テメぇはよォ!?」
「・・・ッ!ど、どうか、命だけは・・・お助け、く、ください」
やたらと声がか細いな。俺はサディストではないが、もう少しいじめた方がしっかり屈服するだろう。こういうのはしっかり追い詰めて心を折らないと反撃されてしまう。
「なんだァ?声が小さすぎて聞こえねぇなァ!もっとデケぇ声で喋れや!」
「どうか!命だけは!お助けくださァァァァいッ!」
やべ、泣き出した。ちょいとやりすぎたな。これでは、どっちが悪者かわからない。だが、これでいい。次は助けるための条件を提示する。これは飽くまで交渉だからな。戦争を終わらせるには交渉は不可欠だ。
「OK、OK、わかったわかった。泣くな鬱陶しい。ちゃんと助けてやるよ。だが、条件がある。ギブアンドテイクってヤツだ。それを呑めるなら助けてやるよ♡」
「な、何をすれば良いのでしょうか?」
「1つ目!俺ともう1人の男、それと時計屋の店主、つまりお前が殴って小さくした人、この3人をもとの大きさに戻すこと。2つ目!大人しく時計を返すこと。3つ目!抵抗せずに拘束され、豚箱に入ること。以上だ!たったこれだけで命が助かるんなら簡単だろ?」
「わ、わかりました。しかし、店主さんはもうもとに戻ってるはずです。私が小さくできるのは同時に3つまでなので・・・」
「そうか。まァ、とりあえず俺たちを戻してくれ。そうしたら空気を抜いてやる」
「・・・わ、わかりました」
すると、まずは廻原の竹刀が大きくなりもとの大きさになる。続いて部屋の隅から廻原がだんだんと大きくなって出現した。そいて、最後に俺の身体が徐々に大きくなりはじめ、小山の腕から飛び降りる。これで小山の超能力は突破できた。
「さて、次は時計だな。あのロッカーの中だろ?カギは?」
「カギはありません。普通に開くはずです」
「そうか。聞こえたか?廻原!時計を回収してくれ!」
「合点承知の助!」
廻原がロッカーを開けると、そこには箱があり、念のため開けると間違いなくあの高級時計が壊れずに入っていた。
「問題無い!ちゃんと入ってる!多分無事だ!」
「そうか!ありがとな!」
これで無事に時計を取り戻せた。あとは持ち主に返すだけだ。
今回もお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
以下、解説パートです。
小山小次郎
35歳 男
5月4日生まれ
超能力:縮小
概要:「小さくしてやる」と念じているときに手に触れたものを小さくする。もとの大きさの3~10%ほどの大きさになる。一度小さくしたものを更に小さくすることはできない。同時に小さく出来るのは3つまでで、4つ目のものを小さくすると1番古い対象がもとの大きさに戻る。有効範囲は半径10kmで、それの外に出るともとの大きさに戻る。有効期間は2週間で、それが過ぎてももとの大きさに戻る。武器と人間は別個体と判断されるが、服は人間と同一個体と判断される。自分自身も小さくできる。




