争奪戦
廃ビルの階段を駆け上がるニセ安倍を俺たちはひたすら追いかける。そして、走りながら俺と廻原は打ち合わせをする。
「廻原、間違っても妖刀は出すなよ。相手は飽くまで人間だからな」
「わかってる。だが、武器は欲しいところ。竹刀で行かせてもらう」
「了解。それと、もうひとつ。奴の超能力について検証がしたい。」
「それは俺も思った。具体的にどうする?」
そんな事を話しているうちに、最上階である3階に到着した。ニセ安倍は迷うことなく奥から2番目の部屋に駆け込んだ。俺たちは念の為、入口の陰から中の様子を伺う。中は広く、奥の壁際に備え付けのロッカーがある以外は何も無く、殺風景な光景が広がっている。そして、ニセ安倍はそのロッカーの中に時計の入った箱を納めている。その間に、俺と廻原は小声でさっきの会話の続きをする。
「奴の超能力について検証したいのは3つ。1つ目は、能力の対象。武器に触れて小さくした場合、武器の使用者も小さくなるのか。2つ目は、発動上限数。何個まで同時に小さくできるのか。3つ目は、正確な発動条件。自分の意思で相手に触れると発動するのか、それとも手に当たっただけで発動、つまりはカウンター技のように発動することもできるのか。これらが分かれば随分と戦いやすくなる」
「りょーかい。まずは俺が竹刀で奴の手をぶっ叩くから、それで判断してくれ」
「すまねぇ、頼んだ」
ひと通り打ち合わせを済ませ、俺たちは部屋に突入する。そして、俺は男に向かって話しかける。
「ここに逃げ込んだってことは、俺たちを倒してロイヤルオークを持ち逃げするってつもりなんだろ?」
すると、ニセ安倍は腕のストレッチをしながら口を開く。
「あぁ、そうさ。見たところ、アンタらは怪防隊みてぇだが関係ねぇ!この小山小次郎はッ!お前らをぶっ殺しッ!この時計で億万長者になるんだァァァァァッ!」
そう叫んだ小山は俺たちめがけて走ってきた。まずは、廻原がストレージ付き腕時計から竹刀を取り出し、小山の手を狙い迎撃する。竹刀は見事に小山の手の甲に直撃した。小山は呻き声をあげ、一歩下がる。しかし、竹刀はみるみるうちに爪楊枝のようなサイズに縮んでしまった。
「ッ!やられたか」
「でも、お前は小さくなってねぇんだな」
「あぁ、どうやら武器と人間は別個体カウントみてーだな」
とりあえず、発動対象と発動条件は何となくわかった。条件は「小さくしてやる!」と念じておけば、手が対象に当たったときに発動するのだろう。そして、手の表裏は関係ない。さらに、常に念じている状態にしておけば、自動迎撃システムが完成する、といったところだろうか。とにかく、手は凄まじく危険だ。アレに当たらず、尚且つ当てない立ち回りが要求される。ただの小悪党にしては強力すぎる超能力だ。
廻原も妖刀以外の武器は持っていない。というわけで、今ここにいる人間は全員素手喧嘩で戦うことになる。
「廻原、絶対にあの手には当たるなよ」
「わかってる、行くぞ」
俺と廻原は小山に向かって走り出す。先に廻原が仕掛けた。廻原は小山の人中に狙いを定め、中指を少しだけ突き出した拳を突き立てる。
「必殺!三創打!」
廻原の拳が小山の人中に当たった瞬間、鈍い音が3回響いて、小山の鼻から血が吹き出し、口から折れた前歯が飛び出してきた。だが、常人なら気絶するような攻撃であるにも関わらず、小山は頑丈だった。素早く廻原の腕に手を伸ばし、そして掴んだ。小山の震えた声が聞こえてくる。
「・・・つ〜かま〜えた♡」
小山の手が離れると、廻原の身体はどんどん縮んでいき、小指ほどのサイズにまで小さくなってしまった。そして、小山は廻原を踏みつぶそうと足を上げる。
「廻原ァッ!」
俺は急いで廻原に向かって縄を飛ばす。そして、優しく巻き付けそのまま部屋の隅へ逃がす。
なんとか廻原を逃がすことができたが、状況は依然として良くなっていない。俺一人で戦う羽目になりそうだ。仕方ない、廻原にアレを出してもらおう。
「廻原!もう仕方ない!妖刀を出してくれ!」
「わかった!」
廻原はストレージ付き腕時計から妖刀「一胴七度」を出した。しかし、妖刀は縮んでおらず、これでは廻原はそれを使うことはできない。
「なんだよ!チクショー!時計にしまってる奴は影響受けねーのかよ!」
「そうか、わかった!お前はそこで休んでろ!あとは俺がやる!」
不安要素はあるが、やるしかない。まずは、小山の制圧、そして超能力を解除させる。これしかない。小山はさっきの廻原の三創打のダメージが残っているのか、鼻のあたりを手で覆ってふらついている。やるなら今だ。
「壱式・大蛇!」
俺は再び縄を伸ばし、小山の胴体を巻き付けて捕縛する。気絶されてしまっては能力が解除できないので、壁には叩きつけないでおこう。だが、それが仇となった。俺は完全に油断、いや勘違いしていた。小山の能力では武器と本体は別判定だと思い、俺は縄を出したのだが、俺の縄は武器ではなかった。俺の体内から発せられたエネルギー、つまりは俺の身体の一部ということだったのだ。それを察した小山は俺の縄を触り、そして呟いた。
「もう1人ィ、捕まえた♡」
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