表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネオス・パンゲア怪異ファイル 〜平凡な能力者、怪異と悪意をド根性と友情パワーでぶっ飛ばす〜  作者: 芦田メガネ
第1章 アジア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/57

Loparts

 昼飯を食った後に即ダッシュというイカれた行為をしたせいでいささか気持ち悪いが、なんとか摘田時計店(つみたとけいてん)に到着した。息も絶え絶えに店内に入ると、店の奥から店長の摘田さんが駆け寄ってきた。

「武縄さん、お忙しいところお越しいただき本当にありがとうございます。お二人とも随分と息が上がっておられるようですが、大丈夫ですか?」

「ハァハァ....い、いえ、...少し....ウプッ....急いで来た...だけです...から....」

「急かすようなことをしてしまい申し訳ございません。ささ、奥に上がって休んでください」



 摘田さんのお言葉に甘えて、俺たちは店の奥の休憩室に入れて貰った。しっかりと深呼吸をして、呼吸を整える。その間に摘田さんはお茶まで用意してくれた。

「すみません、どうぞお構いなく」

「いえ、私がお呼びしたのですから。ところで先ほどから気になっていたのですが、そちらの方は?」

「あぁ、コイツは廻原巡っていいます。同じ怪防隊の隊員で、俺の相方です」

「どーも、廻原です。以後、よろしく」

「そうでしたか、武縄さんのお仲間とあれば心強いですな。では、早速本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか」



 ダイニングテーブルを囲み、俺たちは席に着く。そして、摘田さんは深刻な表情で語り始めた。

「数週間前、そう、たしか武縄さんがうちの店の看板をキャッチする日の少し前くらいからでしょうか、不審な黒い車が私の店の前の道路に停車するようになったんです。最初は気にも留めてなかったのですが、ほぼ毎日駐まっていると気味が悪くて・・・。しかも、他の従業員の話では双眼鏡か何かを使って店を覗いていたそうなんです。明らかにおかしいと思いませんか?」



 確かに、怪しい。俺が店の前で看板をキャッチしたのが2月6日で、今は3月1日。恐らく、それよりも前から監視していたとなると、少なくとも1ヶ月以上は店を覗いていたことになる。

「警察には相談したんですか?」

「一応、相談してみました。ありがたいことに、職務質問をしてくれることになったのですがそれから全く音沙汰がなくて・・・」

「その、職務質問をしに行った警官の名前はわかりますか?」

「はい、電話に出てくださった巡査の方で『幸田武(こうだたけし)』という人です。それで、もう一度、警察に電話して幸田さんを呼んで欲しいと頼んだのですが、無断欠勤が続いているとのことでした。しかも、私の電話を受け、職務質問をしたであろう日の翌日、2月20日から欠勤が続いているそうです。」



 つまり、幸田という警官は2月19日の職質で、もしくはその後に車の持ち主に何かされた可能性がある、ということか。

「なるほど。ちなみに、この店が何者かに狙われる理由に心あたりはありますか?」

「それがね、あるんですよ。とびきりすごい理由が。直接見せたいのでついてきてください。」




 一体どんな理由なのか。俺たちは言われるがまま摘田さんについて行き、2階にある工房に通された。鍵がかけられていたその部屋の1番奥、窓がなく日光が差し込んでこない空間に1つの作業台があった。なにかが乗っている。俺たちは恐る恐るのぞき込むと、見たこともない美しい腕時計がそこにはあった。摘田さんは誇らしげに語る。


「これは、あの車が来るようになる数日前の2月1日に修理して欲しいと持ち込まれた時計です。小惑星衝突前に存在していたスイスの時計メーカー、Audemars(オーデマ・) Piguet(ピゲ)が作ったロイヤルオークというスポーツウォッチのひとつ、ロイヤル オーク・クロノグラフ の特別モデルです。当時の価格で最低でも3000万円はしたと記憶しております」


「「さ、さ、さ、3000万!?」」

「ええ、そしてこれは、現在唯一存在が確認されている最後の個体です。つまり、これと同じ時計は既にこれ以外は失われてしまった、ということです。そのため、大陸美術品鑑定協会がローパーツに指定しています。もちろん、今の価格は国家が動くレベルの値段になっているはずですよ。何兆円になるんでしょうか、私にもわかりませんが」



 全く、目眩がしてくるような次元の話だ。だが、とんでもない代物を扱っていることはわかった。失礼な話だが、何でこんなモンを小さな時計店に預けているのか不思議でならない。そして、案の定ローパーツだった。






 ローパーツとは、大陸美術品鑑定協会が作った造語で「Legend of precious artifacts(貴重な伝説の遺物)」というフレーズの略語(Loparts)のことである。小惑星衝突と地殻変動を生き延びた貴重な工芸品に与えられる称号なのだ。ちなみに、廻原の刀「一胴七度」もローパーツに指定されている。






 摘田さんは話しを続ける。

「これを預けたのは私の古い友人でしてね、私の超能力『超摘まみ(スーパー・ピンチ)』が精密機器の修理にこの上なく適していること、そして私の時計への愛と情熱と技術を信頼して託してくれたんです。なんとしてでもこの時計は守り抜かなくてはならないのです。友人の信頼を絶対に裏切ることはできません。車の奴らは間違いなくこの時計を狙っています。友人が時計を受け取りに来る3月5日まで、時計を守ってはいただけませんか?お願いします!」



 こんな貴重な工芸品をみすみす悪党に渡すわけにはいかない。

「わかりました。お引き受けしましょう。お前もいいだろ、廻原」

「当然だ。俺も時計を愛する者のひとり。絶対に守り抜くことを約束しますよ」


 敵の目的はわかった。後は迎え撃つのみ。

 

今回もお読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

以下、解説パートです。


摘田良夫

56歳 男

3月28日生まれ

超能力:超摘まみ

概要:肉眼で見える範囲ならどんな小さいモノでも手やピンセットで摘まむことができる。


大陸美術品鑑定協会

連合政府が招集した、大陸に残る美術品を発掘し、復元、鑑定などを行う団体。主に大学教授や学芸員、優れた審美眼を持つ個人のコレクターなどが選出され、所属している。


摘田さんが預かった腕時計

正式な名称は「ロイヤル オーク・クロノグラフ 26240BC.SS.1320BC.01」。公式サイトでは価格要相談となっており、最低3000万というのは市場の相場のことである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ