始発点
「あの日」まで人類の多くは楽観的だった。2132年、近々小惑星が衝突する可能性があると報道されていたが、それでも楽観的だった。2032年に衝突が危惧された小惑星はなんだかんだ衝突しなかったため今回もそうなるだろう、そう考える人間がほとんどだった。そう、「あの日」までは───
その日は突如として訪れた。ある報道が世界中を駆け巡る。「小惑星は一ヶ月後、地球に衝突する。回避する方法はない。人類が滅亡する可能性は低いが未曾有の大災害が発生する。」と。それまで楽観的だった人間は一変してパニック状態に陥った。
これを受け、各国政府及び国連は小惑星衝突の対策から災害避難の準備にシフトした。しかし、一ヶ月という時間はあまりにも短く、状況は絶望的だった。そのような短い期間では避難シェルター、耐震工事、食料確保などの対策は満足にはできなかった。ある国を除いては。
来たるXデー、小惑星が地球に飛来した。その小惑星は南アメリカプレートとアフリカプレートの境界線付近に衝突した。その影響により、南北アメリカ、ヨーロッパ、西アジア、中央アジア、アフリカでは大規模な地震や津波が発生し、地殻や小惑星の破片が降り注いだ。その他のアジア諸国、オセアニアでも前者ほどではないものの地震や破片の被害を受けた。
しかし、厄災はこれでは終わらなかった。学者も全く予想していなかったことが起きてしまった。それは、プレートの運動法則を無視した陸地の移動である。小惑星衝突地点から遠ざかるようにして陸地が動き始めたのだ。それは日本を中心にするかのように1つの超大陸へとまとまっていった。やがてこの超大陸は、かつて存在したといわれる大陸になぞらえてこう名付けられた。
「ネオス・パンゲア」と。
陸地が移動している最中でも地震や津波が発生し続けた結果、地球規模で前代未聞の死者が出る結果となった。100億人ほどいた世界人口は1億人にまで減少した。驚くべきことに、この1億人の生存者のうち、40%ほどにあたる約4000万人が日本在住者であった。小惑星衝突前の日本の人口が約5000万人だったことから、他国に比べ生存者が格段に多かったことが分かる。
これには明確な理由がある。日本は過去の大震災のデータをもとに2050年代から災害避難システムを構築していたのだ。各自治体に緊急避難シェルターを、全ての建物にシェルターに繋がる緊急避難パイプを設置すること義務づけることにより、生存率を高めることに成功した。
また、日本の総理大臣は生き残っていたものの、国家元首が亡くなった国も多かった。国連もまた機能を失ってしまった。そのため、政府に代わる行政機関と国連に代わる新たな国際機関が必要となった。生き残った各国の国家元首及び閣僚クラスの政治家による協議の結果、日本を中心とした新たな政治体系「大陸連合政府」が設立された。そして、国という単位ではなく大陸連合政府が直接管理する行政区が各地に設置された。日本以外の国のほとんどの国民が犠牲になったため、国を運営することが困難になったと判断されたからである。
だが、問題はまだまだ尽きることはなかった。
プロローグ、もう少し続きます。
余談ですが、この小説は最近報じられた小惑星が2032年に衝突するかもしれない、というニュースから着想を得ました。
ちょっとずつ確率が上がってるみたいで怖いですね。