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第2話 ロゼライン嬢を捜すわよ

「精霊って言っても特定の魂の居場所を探し当てるなんて、そんな特技は持ってないんだよ、霊能者じゃあるまいし……」


 ティナに言われてロゼライン嬢の魂を探しに来たサタ坊がぼやいている。


「なんか彼女が特に強い思い入れのある場所とか人とかないの?」


 死んだばかりの魂を捜すのにごくごく基本的な質問をしてみたわ。


「心当たりならほとんど捜したよ、例えば、婚約者のパリス王太子に張り付いてみたけど、サッパリ姿を見せなかった……」


 ああ、あのパーティという衆人環視の場で婚約破棄を宣言する非常識で思いやりのない王太子。そんな王太子(バカ)に執着してなかったあたり、さすがはティナたちが目をかけるほどに聡明な令嬢なのよね。


「実家の方も無理っぽいわね」


「あの家族ではね……」


 亡くなった公爵令嬢ロゼラインの家族というのも、母親は自己愛性なんちゃら症候群とでもいうのかしら、娘もまた自分を飾るアクセサリー程度にしか思っておらず、彼女の重圧も考えず逆に足を引っ張るような言動ばかりしている。父親の方はそんな母親の言いなり。弟は母親に洗脳され、姉を見下しているという劣悪環境。


 これらの情報はすでにサタ坊が調べていたもの。


 私たち精霊はお互いが知りえた情報を自動的に共有できるようになっているの。


「範囲を広げてしらみつぶしに捜すしかないわね」


「その間に悪霊化しなけりゃいいが……」


 まあ、あの環境じゃ、誰かに対して復讐したくなっても無理はないわ。


 それが浮気者の王太子なのか?

 毒親の両親、あるいは弟なのか?

 意外にも、見て見ぬふりをしてきた第三者に恨みを募らせるパターンっていうのもあるわね。


 おっといけない、悪い想像ばかりしちゃうけど、とにかく捜さなきゃ。


 時間はかけたくないけど地道にいくしかやりようがない。


「二手に分かれるわよ!」


 私たちは捜索を開始した。


 サタ坊には従来通り、令嬢とかかわりの深い王太子や家族の周囲を引き続き張ってもらい、私は別のところをあちこち捜索した。


 例えば、女性が好きそうなきれいな庭園とか甘味処とか。


 なぜか浮遊霊がたむろっている樹の下とか。


 そしてかれこれ数週間。


 それは突然だったわ。


 極めて強い感情の揺らぎ、怒りの声を聞いたのよ。


『このくされ外道どもがっ!』


 間違いない、ロゼライン嬢の声よ!


 王太子妃教育を受けてきた上品で聡明な令嬢にしてはいささか乱暴すぎる気もするけど……。


 彼女はある集団、それは彼女を裏切った王太子とその取り巻き連中の集まりだが、それに対して強い怒りを見せていた。


 私は彼女にこう話しかけたわ。


「復讐したいか?」


 彼女は虚空を見回した。


「あなたが死んだ時点でこの国の『道理』に黄色信号が灯った。だから私が派遣された。どうだ? あなたを死に追いやった連中に復讐したいか?」


 私は彼女に話しかけたわ。


 どう? なんか荘厳さと重厚さを感じさせる言い回しじゃなくて?


「あの……、私、たぶん毒を盛られて死んだのだけど、誰がどういう風にやったのか、とか、わからないのよね……。復讐って私を殺した人限定? 私としてはさっき会話していた連中すべてにお灸を据えたいと思っているのだけど?」


 ふむふむ、自分の死はちゃんと理解しているようね。


 そして、さっき会話していた連中って?


 状況を精査してみるとつまりこういうことらしい。


 サルビアという男爵令嬢に浮気した王太子はロゼラインに婚約破棄を宣言し、それからすぐ彼女が死んだので、ノルドベルク公爵家との縁組はチャラになった。


 王太子には弟の第二王子ゼフィーロがいて、彼もまた別の公爵、ウスタライフェン家の令嬢アイリスと婚約中。この二人の縁組をパリスは、自分が公爵家の後ろ盾が無くなったとたん目障りだってことでぶち壊そうとたくらみ、取り巻きのヨハネスを使ったのよ。


 アイリスはいきなりヨハネスに話しかけられ、手を取られ抱き着かれショックを受けて逃げ出した。


 その現場を偶然見聞きしたロゼラインはブチ切れたというわけ。


 アイリスやゼフィーロって彼女の婚約者パリスと違って、ロゼラインのことを実の姉のように慕っていたらしいわ。


「素晴らしい!それでこそ私が目をかけた魂というもの!」


 サタ坊がロゼラインの前に顔を出し言ったわ。

 そうね、数週間も発見できなかったのはロゼラインが自分の死にそれほど大きな感情を抱いていなかったから。


 でも、自分の妹分が罠にかけられそうになったのを見て激怒し、その叫びのおかげで私たちは彼女を発見できた。


 彼女は他人のために怒れる人なのよ。


 とりあえず、この穢れ多き現世に滞在させ続ければ魂も疲弊するから、私たちは急いで彼女を連れて精霊王の御所に移動することにした。



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