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第16話 空気読まずにぶっちゃけましょう

「国王陛下。先ほどわたくしの死を惜しまれる発言をしていただきましたこと、まことに恐悦至極ではありますが、私の死の何をいったい惜しまれていたのでしょうか?」


 ロゼラインはまず国王に質問したわ。


「出来の悪い嫡男の補完的存在が失われたことでしょうか?」


 口調は丁寧だけど身もふたもない問いね。


「子を思う親の気持ちもあるのでしょう。しかし、肝心の嫡男パリスがその意図を正確にくみ取らず、国王に期待されていた私の言動を邪推し、挙句の果てに浮気をし、その相手とともにわたくしを貶めるようなことをずっと繰り返してきました」


 そうそう。

 それに対するロゼラインの心の痛みは一切考えずに、すまない、と、謝るだけ。


 要するに、彼女にただ我慢を強いてきただけなのよ。


「子の気持ちなど一切考えない親の娘だから、こんな針の筵のような劣悪な環境の中に放置したまま、出来の悪い息子の補佐をさせておけばいいとでも思っていたのでしょうか?」


 娘のことを慮る親なら、いくら王家とはいえこんなひどい仕打ちをされればは許さないだろうし、公爵家側から婚約解消の話があってもおかしくなかったわ。


 でもいかんせん、毒親だったからね……。


 王家がそれに乗じていたと言ってもいいわけよ。


 自分の息子の根性がひん曲がっていることも、ロゼラインの家族の虐待まがいの扱いもちゃんと知っていたくせに、彼女が堪えて義務を果たすことだけ期待していた。


 ああ、でもこれって私たち精霊がロゼラインにしてきた仕打ちと一緒なのよね。


 言葉に窮する国王を放置し、次にこの場に集っていた貴族の面々に向かって彼女は言ったわ。


「皆様の奥方様の中には母とともに、私を陰で、あるいは面と向かって侮辱的な発言を繰り返していた方が何名かいらっしゃいます」


 自分の奥方の言動を思い出して汗を拭き始める人がけっこういるわ。


「それから王太子とともに建国祭やそれ以外のところで私を貶めたご子息の親御さんもいらっしゃまいますね」


 王太子の腰ぎんちゃくの親たちも焦り出したわ。


「この先ご当家が何らかの不幸に見舞われた際には、私を思い出してくださいませ。やった側は過去のこととすっかり忘れていても、された側の傷は決して癒えず残るものでございますから、私に心ない仕打ちをした方のご家門には微力ながら呪いの一つもかけさせていただく所存です」


 キャハハ、ナイスな脅しよ。


 ところでロゼラインって『呪い』とかかけられるの?


「かけられるわけないでしょ。やり方知らないし……」


 私の質問にロゼラインはそっと耳打ちしたわ。


「でも、ちょっとした恐怖を与えるくらい、今まで王都の貴族社会にされてきたことを考えれば、いいんじゃないかなって」


 そうね、長い人生、たとえ誰かからの恨みや呪いがなかったとしても、不幸があったり不運な状況に見舞われることはある。


 そんなとき心の片隅に自分がひどいことをしてしまった者の恨みなどが引っかかっていれば、もしかしたらあの時の報いで、と、恐怖するでしょう。


 うんうん、せいぜい恐怖するがいいのよ。


 後で知ったことだけど、ロゼラインの発言に恐怖した国王や貴族連中は、どうやったら彼女の魂をなだめられるかと思い悩み、無い知恵を絞り、銅像を建て彼女をたたえることにしたそうよ。


 その名も『救国の乙女』。


 バカ王太子がすんなり即位して亡国の憂き目にあうのを防いだのだから、あながち嘘じゃないけどね。


 ただ、その話を聞いたロゼラインは全くの無感動。


「別に銅像なんて建てられてもね……」


 そりゃそうよね、頼んだわけじゃないし。


 そうやって場の空気を思いきり凍り付かせているうちに、サタ坊の力の効力も消えかかってきた。


 ロゼラインがこの世でやりたかったことは終わったし、いよいよ現世をおさらばする時が近づいてきたのよ。



 ロゼラインにとっては王都の王侯貴族は虐めの傍観者のようなものです。


 歴史的に見ると、権力闘争で敗者『悪役』として葬り去っておきながら、あとで神としてたたえる事例が日本ではよくあります。

 日本の場合「怨霊怖い」って民族独特の感性もありますから。


 西洋でもフランスは、自分たちがジャンヌ・ダルクを見捨てたくせに、聖女認定されると『救国の乙女』扱いですからね。


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