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厨二病の見た夢は黒歴史の断片に残っている  作者: 四月一日八月一日
3/3

断片たる物語

  

  万年雪の山脈



ウエトの村は、ひっそりとしていた。山から吹き下ろす風は、冷たい。

宿に入る。レシス達以外に客はいない。

「あんたら、イスへ行くのかい?」

宿の主人が問う。

「はい。なにか?」

「いや。珍しいなと。もう時期的に、雪が降り積もっていて、山道は閉ざされる。それに、雪道ブーツが無いと、無理だよ。それに、ここ数年、イスへ向かった人は戻っていない。狩りに行っていた数名が、魔族と魔物に遭ってしまったと、傷だらけで戻って来て以来、誰も行かない。山の中には、この時期だと、良い獲物や採取できる植物があるから。行きたいと思う人はいるが、魔族魔物がいるとなれば、恐ろしくて」

「大丈夫ですよ。それなりに戦えますから」

ハイドが言った。

宿の主人が、レシス達を見た。

「剣の腕も、魔法も使えますから」

ハイドは、自信を込めて言った。

「ふーん。でも、雪山装備は必要だよ」

と、言った。


 宿の主人のアドバイスを受けて、レシス達は雪山装備を整えた。

翌日、村の東の森を抜けて、イスを目指す。

村の東に広がる森を抜けると、荒涼とした大地が広がっていた。

「この先は、あまり樹々が無いですね。あの樹海とは両極な感じね」

ナリスが言った。

「珍しい動植物もあるけれど、今は探せないね」

と、プラティ。

「空の色がヤバいな。雨が降らないといいが」

ルストは、山頂付近を見た。

「雨というより、雪ね。この雪山装備ですら、底冷えが伝わって来るし、風が氷の気配」

レシスが言う。


 森を抜けた少し先までは、簡易的な道が造られていた。

そこを抜けると、ゴツゴツとした足場の悪い地面。それが、斜面となっている。

「地面の下は、永久凍結なのかしら」

ナリスが、杖の先で地面を突っつく。

だけど、登山用の杖では、砂を少し掘ったくらいだった。

「ずっと深いところは、ずっと氷の台地が広がっているって、聞いたことあるよ」

プラティは、辺りを舞いながら言った。

「場所によって、そんなに違うんだな。―世界は広いのか」

ルストは、意味深けに言った。

プラティは、そんなルストの周りを飛び、上空へ。

「どうしたの?」

レシスが、プラティに問う。

「なにかの気配が。村から随分と歩いて来たから、村人とは違う。ていうか、動物でもないみたい。なんだろう?」

プラティは、ずっと前方を見つめる。

「このような所で、魔物に襲われたら―」

ナリスは、足元を見る。


 荒涼とした台地。急な斜面。所々には積雪があり凍っている。その向こうは

―深い谷。

「魔物が現れたのか?」

ルストは、剣に手をかけた。

「魔物だよ。なんていうか、かなり怖い」

プラティは答え、レシスの方へ。

風に乗り生臭い気配が、こちらへと押し寄せて来る。

「自生の魔物? にしては」

ナリスは、数歩下がる。

ルストは、そんな、ナリスを庇うように前に出た。

「この様な場所に生息する魔物なら、動物と同じで毛深いはず。なのに―」


魔物の姿は、全身鱗の様なもので覆われていて、爬虫類みたいだった。

顔面には複数の目。六本足の爪は、硬い地面を抉っている。


「―嘘でしょう? 魔界の魔物?」

レシスは、プラティに問う。

「た、多分。もしかしたら、噂の魔物かもしれない」

プラティは、怯えて答えた。

  異形の魔物は、レシス達を目掛けて飛びかかってきた。

ルストは、剣を振るう。

「―く」

前足の爪を、剣で受け止めたが、押されている。

それを見ながら、レシスは詠唱を始めた。

レシスが詠唱していると、ルストがバランスを崩す。

「いけない」

ナリスが、初歩の攻撃魔法を放った。

魔物は一瞬、動きを止めた。ルストは、体勢を立て直す。

魔物は後ろに飛び跳ねると、レシスを狙って飛びかかる。

レシスの攻撃魔法が発動するのと、同時に魔物はレシスへ。

そして、レシスは魔物とともに斜面を滑り落ちて、谷へと消えた。


「レシス!」

谷の方へ、呼びかける。

足場が悪く、駆け寄れない。

「私が行ってくる」

プラティは、ナリスに言って、谷へと降りて行く。



「……った、いたた」

レシスは、身体を起こしながら息を吐く。

魔物が飛びかかってきたと同時に、攻撃魔法が炸裂したが―

「レシス」

プラティの声で、意識がハッキリした。

自分の下に、息絶えた魔物がいる。

「なんとか……。こいつが、下になってくれたから」

レシスは、再び息を吐く。

息は白い。

「大丈夫みたいね。でも、ここから上へ登れるような道は、無いよ。どうする?」

「うーん。探してみる。二人には、大丈夫だと伝えて」

レシスは、魔物から降りて、崖の上を見つめた。

「わかったわ。伝えたら戻って来るから、一緒に探そう」

答えて、プラティは飛んでいった。


心配そうに、ルストとナリスは、谷底を見ていた。登って来た、プラティに気付いたナリスは、問う。

「レシスさんは?」

「大丈夫。登れる場所か、先に進んで合流出来そうな場所を探すって」

「そうか。まあ、あいつらしいな」

「でも、何処で? 闇雲には」

「あの辺りを目指すのだと思う。何か人工的な岩がある。もともと、そこを目指す予定だったからね」

プラティは答えて、その辺りに目印になる光を投げた。

「そうね、大丈夫って言うのなら、私達は合流地点を目指しましょう」

ナリスが言った。

「ああ。まあ、アイツなら、なんとかするからな。無茶さえしなければ」

と、ルスト。

 二人が歩き出すのを見送って、プラティはレシスの下へ戻った。

レシスは、プラティと一緒に谷底を歩きながら、登れそうな場所を探す。

しばらく歩いたところで、レシスは足を止めた。

「げっ―」

「氷漬けの冒険者?」

プラティは、岸壁にある小さな穴で、横たわっているモノを見た。

「この人も、リザイアの宝玉を探していたのかな?」

と、プラティ。

「―多分。この人は、運が悪かったのかな。こんな所では、吹雪も寒さも防げないのにな」

レシスは、その遺体に魂の浄化魔法をかけて、再び歩き始めた。


「この辺りって、妙な気流がある。気配そのものが、気流になっている感じ」

「解っているよ。多分、人ならぬ者。嫌な気配。急いで、合流した方が良いかも」

レシスは、急ぎ足から走り始めた。

「ちょ、レシス。そんなに急ぐと―ああ、遅かった」

プラティは、転んで滑っていくレシスを、追いかけた。


レシスは尻もちをついたまま、滑り続けた。

ようやく止まった場所は、大きな沢だった。

「ふーう。いてて」

レシスは、腰を擦りながら立ち上がる。

「でも、ここからなら登れそう」

と、沢を登り始める。

「もー、レシスったら。気をつけないと」

溜息混じりに、プラティは言い、レシスの肩に座った。

「解っているって。よく、言われるんだけど、思い立ったら突撃性格だと」


 沢は凍っていたが、ゴロゴロとした岩肌は凍ってはいなかったので、そこを足場にして登っていく。目印の光の方へと、沢は続いていた。

沢を登りきりそうな辺りで、レシスは足を止めた。

レシスは目を閉じて、辺りを見回す。

「どうしたの?」

「ルスト達以外に、人間の気配がある。それに、人ならぬ邪気を放っている気配」

レシスは目を開けると、一気に沢を登りきった。


 そこで、人間の男が剣を手に、二人の魔族と睨みあっていた。

「なんで、魔族が」

プラティが言う。

人間の男は、深手を負っているように見えた。

「プラティ、あの人に治癒魔法を。私は、あの魔族を引き付けるから」

と言って、レシスは剣を抜いて駆け出した。

「っちょと、レシス―」

プラティはレシスを止めようとしたが、その前にレシスは動いていた。



 



  魔族


「人間のくせに、我等の領域に足を踏み入れるとは」

「馬鹿なのか?」

と、笑っている。

「―くっ」

青年は、体勢を立て直す

「終わりだ。暇つぶしも飽きた」

魔族の片方が、自分の剣を掲げた。


「荒ぶる吹雪 凍える槍」

レシスが、魔族目掛けて、氷の魔法を放った。

不意を突かれた、魔族は剣を落とした。

「な、なんだ―?」

剣を拾いながら、レシスを見た。

「また、人間?」

眉をひそめた。

「あのね。ここは昔から山越えの街道があったの。厳冬期を除けば、人間は少なからず通っていた。山脈を迂回する新街道が出来る以前は。それに、山頂には女神神殿があるし」

レシスは、青年と魔族の間に入り、言った。

「―お前は―?」

よろめきながら、青年がレシスを見た。

「レシスよ。仲間と逸れて、探していたところに、あなたを見つけた」

「……」

ゼイゼイと息をしながら、レシスと魔族を交互に見る。

「ほう。他にも人間がいるんだと、デェース」

「久しぶりに、人間をいたぶる事ができる、なあ。キール」


 そこへ追いついたプラティが、青年に治癒魔法を。青年も、気配は感じたのか、プラティの気配を追った。

「ふーん。樹海の聖霊が一匹」

と、キールは馬鹿にする。

「―やみ……の―」

デエースが呟き始める

「暗黒魔法―? やばいよ、レシス」

プラティが言う。

「なら、私は」


 レシスとデェースの、詠唱が―

「闇を貫く光は、武器とならん。ホーリーライト」

レシスは、詠唱を終え、魔法を放った。

「ぐわあ」

魔族二人の魔法は未完のまま、虚空に消える。

「くそ。だから面倒なんだ」

デェースは言って、剣を振りかざし突っ込んできた。

「―武器と言ったよね。我が手には聖なる槍がある」

レシスは、デェース目掛けて、魔力の槍を解き放った。

「ぎゃああああ」

デェースは、どす黒い血を吐く。

そして、突き刺さった聖なる槍が、四散するとともに光の中に消えた。

「魔族を、ほぼ一撃の魔法で」

青年は、驚きレシスを見つめた。

ルストより年上、体格体幹もしっかりしている。

「あなた、大丈夫?」

「あ、ああ。その光が治してくれたから―」

と、プラティを見た。


「おのれ。よくも―。詠唱なしでも、いけるわー闇刃嵐」

「あっと、光のベール」

プラティが。魔法防御魔法を使った。

レシスと青年に、襲いかかろうとしていた闇刃は、そのベールに吸い込まれて消えた。

キールは、動揺する。

「こっちだって、やられっぱなしは嫌だね」

青年は、取り乱している魔族の隙をついて、斬り掛かった。

不意打ち。青年の剣の腕が凄かったのか、一振りで魔族を討ち取った。


「……助かった。すまないな。俺は、ハイド。訳ありの流れ者だ」


「おーい。レシス」

ルストとナリスが、駆け寄ってきた。

「よかった。なんとか合流できましたね。そちらの方は?」

ナリスが問う。

「俺は、ハイド。魔族に襲われていたところを、レシスに助けられた。―もしかして、山頂の神殿を目指しているのか?」

ハイドは、三人を見た。

「まあね。あなたも、そうなの?」

ナリスが、ハイドに問う。

「……俺は―力が欲しい。伝承が本当なら、山頂の神殿に」

ハイドは、山頂の方を見つめ、ギュッと拳を握った。


 山頂を目指しながら、話す。

「リザイアの宝玉は、望みを叶えてくれると言う。それを求めている」

ハイドは、語る。

「もともと、俺は、森の神殿を護るエルフ達と共に暮らす一族だった。―ある日、森に炎が放たれ、一族や家族もろとも殺された。幼かった俺は、エルフの長老に連れられて逃げ落ちた。後で知ったことだが、それは、カラト国の南にある、テラン国の王軍だった。奴らに、復習しようと、だが力が圧倒的にない。力を求める事を考えているなかで、リザイアの宝玉のことを思い出した。伝説の話としては知っていたが―」

ハイドは、深い息を吐く。

「私、その出来事を知っている。森の神殿には、不老不死の力を秘めたモノが納められていた。それが、大樹海の源であるとか。あるいは、もっと違うモノで『封印』していないといけないモノだったとか」

プラティは言う。

「だから、樹海は枯れかけたりしているのか?」

と、ハイド。


「うーん。たぶん、関係はしているのかな。魔物が増え、魔族が現れるようになったのも。

神殿が襲われて以降だから」

プラティは言い、レシスの肩に座った。

「目的は同じですね。なんだか、境遇が似ている感じが……。レシスさんは、どうしてです? ただの興味だけではないですよね?」

唐突に、ナリスは問う。

レシスは、少し戸惑い

「私は―、リザイアの宝玉に。ソレに関係する何者かに、呼ばれている。ソレがなにを意味しているのかは、リザイアの宝玉なるモノへ、辿り着かないと解らないから」

と、答えた。

「繋がっているのかもしれん」

ハイドが言った。

「俺は、レシスに付き合っているから、いまいち解らないけれど。とりあえず、目的は同じようだから、山頂を目指そうぜ。廃神殿でも、寒さは防げるかな?」

ルストが言う。

「ああ。よろしくたのむ」


 こうして、同じ目的を持った四人は、山頂の神殿を目指し、歩き始めた。


四人が進む姿を、一つの影が見つめていた。


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