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【最終章:アフターストーリー(社会人編)】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第十章前編 アフターストーリー(冬:クリスマス)

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第484話 ディナー④ ~食事を終えて~

 一通り皿の上のスイーツを味わい終えると、怜と桜彩はカップを置いて顔を見合わせた。

 スイーツもお茶もとても美味しかったのだが、とはいえまだ満足はしていない。


「ねえ、怜。私、もうちょっとだけ食べたいかも」


 小さく笑いながら言う桜彩に怜も頷く。

 当然ながら怜も同じことを思っていた。


「だと思った。俺も、もう一回行こうかって思ってた」


「ふふっ。気が合うね」


「だけどさ、もうちょっとだけ、で良いのか?」


 からかうように笑う怜に、桜彩もしまったな、と言うようにクスリと笑う。


「ふふっ。もっとたくさん、だね」


「そうだと思った」


 そこでふと桜彩は目を吊り上げて、疑うような表情で怜を見る。


「ねえ、まさか、食うルって思ったわけじゃないよね?」


「……もちろん」


 少しばかり思ってしまったのだが、それを正直に言う必要はないだろう。

 怜の返事に桜彩はまだ疑うように口を曲げるが、すぐに笑ってそっと椅子から立ち上がる。

 怜もナプキンで口元を押さえ、桜彩の後に続いた。

 ビュッフェ台のスイーツコーナーは先ほどよりも人は少なく、より落ち着いた雰囲気で選ぶことができた。

 先ほどは無かったスイーツが追加され、新たな輝きを放っている。

 グラスに並んだ小さなティラミス、艶やかなベリーソースがかかったパンナコッタ、星のデコレーションがされたクッキー。


「うわあ……! また新しいのが出てるよ」


「補充っていうより、まるで新作コーナーだな」


 桜彩はキラキラとした瞳でショーケースを覗き込み、迷いながらトングを持つ。


「どれにしよう……。あ、見て。これ、雪の結晶みたいなクッキー!」


 桜彩の示す方を見ると、白いアイシングで繊細な模様が描かれたクッキーが置かれている。


「ほんとだ。ツリーの模様もある。食べるのがもったいないくらいだ」


「でも食べるよね? せっかくだもん」


 桜彩は笑って、クッキーを慎重にトレーへと乗せた。

 その隣には、ミントの香りが漂うガラスカップのムース。

 上には銀色の小さな飾り玉が雪のように散らされている。


「これも綺麗だな。ミントチョコっぽい」


「うん……。色合いも冬っぽい。取ってみようか」


 二人でカップを手に取り、並んでトレーに置く。

 奥のテーブルはホットデザートのコーナー。

 小さな陶器の皿に盛られたアップルクランブルが温かい湯気を立てている。

 また、少し離れたところでは、スタッフがバーナーで軽く焙り、ブリュレの表面を焦がしていた。

 焦げた砂糖がぱりぱりと音を立て、甘く香ばしい香りが広がる。


「……これ、絶対美味しいやつだ」


「だな。せっかくだし、半分こしよう」


「うん!」


 嬉しそうに頷く桜彩。

 二人のトレーの上に次々とスイーツが増えていく。

 怜はその横顔を見ながら、ふと微笑んだ。

 楽しそうに選ぶ桜彩の表情。

 楽しさの中でころころと表情が変わり、見ているだけで微笑ましい。


「桜彩、こっちも気になるんじゃないか? 苺のミニパフェ」


「わぁ……ほんとだ! さっきのはチョコがメインだったけど、これは苺のソースがたっぷり。これも絶対美味しいよ!」


 弾んだ声に、怜も自然と笑う。

 こうして二人であれこれ言い合いながら選ぶ時間も、食べる瞬間と同じくらい楽しく感じる。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 再びトレーの上が華やかな色でいっぱいになると、二人は再び席へと戻った。


「ふふっ。お皿の上がいっぱいだね」


「そうだな。しかもこれで終わりじゃないだろ?」


「もちろんだよ」


 笑い合いながらトレーを並べ、カップに新しい紅茶を注ぐ。

 今度はベリー系のフレーバーで、華やかな香りがふんわりと広がる。

 怜は最初にミントムースのカップを手に取った。

 スプーンで一口食べると、ほんのりと冷たくて、ミントの爽やかさとチョコレートの甘さが舌に広がる。


「……ん。これ、想像よりさっぱりしてる。上のチョコの層とすごく合う」


「確かに。甘いだけじゃなくて、バランス取れてるよね」


 続けて、桜彩がブリュレを割る。

 表面のキャラメルが、フォークの先でパリッと音を立てた。

 その音だけで、怜は少し笑ってしまう。


「良い音したな」


「うん、これが好きなんだよね。焦げた香りがふわってするの」


 桜彩はスプーンですくい、ゆっくりと口に運ぶ。


「美味しい……。なんか、幸せになる味」


 幸せそうに頬を緩ませながらの言葉を聞きながら、怜も同じようにスプーンを口へ運ぶ。

 香ばしい苦味と、下に隠れた甘いクリームが舌の上で混ざり合い、思わず頬が緩む。


「ほんとだな。リュミエールはともかく、うちじゃあんまりつくらないからな」


「うん。でも、来年あたりには挑戦してみたいな」


「オッケー。家庭科部で作ってみるか」


「ふふっ。楽しみ」


 そう言って嬉しそうに笑いながら、また一口ブリュレを口へと運ぶ。

 ティーポットからもう一杯ずつ注ぎ足し、紅茶の香りを楽しみながら、二人は次のスイーツへ。

 苺のミニパフェは見た目も可愛く、上にはホイップとミントの葉が添えられている。

 スプーンを入れると下の層から苺の果肉とバニラクリームが現れ、ほんのり甘酸っぱい香りが広がった。


「これ、すっごく美味しい。苺のソースがちょっと温かいの」


「ほんとだ……これ、意外と手が込んでるな」


 雪の結晶クッキーも、最後に二人で割って分け合った。

 ほろりと崩れる甘い食感に、桜彩が小さく微笑む。


「怜もこういうの作るよね?」


「ん? それって、デコレーションクッキーのことか?」


「うん。形も綺麗で、見た目も可愛くて。怜の雰囲気にぴったり」


「……そう言われると照れるな」


 怜が少し苦笑すると、桜彩は頬を染めながら小さく笑った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後も再びスイーツのおかわり。

 そしてテーブルの上には食べ終えた皿と空になったティーカップ。

 窓の外では粉雪が街の光の中でゆっくりと舞っていた。


「ねぇ、怜……こうして過ごすの、ほんとに幸せだね」


「ああ。俺も同じ気持ちだよ」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 充分すぎるほどに甘やかな時間を過ごし、退店の頃合いを迎える。

 桜彩はティーカップの中に残っていた最後の一口をゆっくりと飲み込み、名残惜しそうにソーサーへ戻した。


「……お腹いっぱい。もう何も入らないよ」


 小さく笑いながら言うその声に、怜もゆっくりと頷く。


「だよな。俺もさすがに限界だ……。でも、どれも美味しかった」


「うん。怜のお母さんが監修したお料理、とっても美味しかったよ」


「母さんに言っとくよ。桜彩が喜んでたって」


「ふふっ。恥ずかしいけど、よろしく伝えて」


 テーブルの上を軽く整えて立ち上がる。

 周囲では先ほどの怜達のように楽しそうに会話をしながら食事をするカップル。

 食事を終え、食後の余韻に浸る家族連れの姿がある。

 その誰もがこのクリスマスイブの時間を幸せに過ごしているのが良く分かる。

 初デートの時に贈ったネックレスの上から、クリスマスプレゼントのマフラーを首に巻く桜彩。

 怜はそっとマフラーを巻くのを手伝うと、桜彩は嬉しそうに微笑む。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 レストランの入り口では、黒の制服を着たスタッフが丁寧に一礼した。


「本日はご来店、誠にありがとうございました」


「とても美味しかったです。デザートまで全部」


 怜が答えると、桜彩も隣で小さく頷いた。


「素敵な時間を過ごせました。ありがとうございます」


「そう言っていただけて光栄です。またぜひお越しくださいませ」


 深々とお辞儀を受け、二人は静かに店を後にした。

 扉が閉まると、ロビーの空気がひんやりと肌を撫でた。

 温かい照明に包まれた店内の余韻がまだ体に残っていて、外の冷気がむしろ心地よく感じられる。


「怜」


「ん?」



「こういうお店、最初は緊張したけど……、凄く素敵だったよ」


 そう言って笑う桜彩の頬は、少しだけ紅潮していた。

 怜も同じように微笑み返し、桜彩の手を優しく握る。


「また来よう。次は母さんじゃなくて、俺が誘うから」


「……うん。楽しみにしてる」


 ホテルのロビーを抜け外に出ると、夜の空気は一層冷たく澄んでいた。

 クリスマスのイルミネーションが街を彩り、風に舞う雪がその光を反射して、まるで星屑のように瞬いている。

 そして静かな幸福を胸に、クリスマスの夜はまだ少しだけ続いていく。

次回投稿は月曜日を予定しています

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