第482話 ディナー② ~クリスマスの特別メニュー~
「わぁ……どれも美味しそう……!」
ビュッフェコーナーの前に立った桜彩が感動したように呟く。
怜も料理を目の前にして、食欲が強く湧いてくる。
「まずはどれから取ろうか」
「うーんと、それじゃあこれ」
怜が小声で問いかけると、桜彩は指で軽く皿を指し示した。
最初に目に入ったのは『ロブスターとアボカド』。
赤と緑、クリーム色の鮮やかなコントラストが目を引く。
桜彩がそっとロブスターとアボカドを取り分ける。
怜も自分の皿に同じ量を盛り付け、二人の皿が色鮮やかなクリスマスカラーで満たされていく。
「桜彩。これ、凄く綺麗だな」
「ほんと……食べるのもったいないくらい」
桜彩が少し恥ずかしそうに笑うと、怜も釣られて笑みを浮かべる。
その隣には『海老とホタテのクリーミーグラタン』が湯気を立てている。
表面はこんがりチーズが焼け、香ばしい匂いが漂う。
桜彩は小さなスプーンで丁寧にすくい、怜の皿にそっと置いた。
お礼を言うと、視線が少し合う。
少し進むと、『スモークサーモンのカナッペ』と『クリスマスサラダ』が並んでいた。
ルッコラやミニトマト、クルミ、ドライクランベリーが鮮やかに彩られ、見た目だけでも楽しませてくれる。
桜彩は慎重にトングを使い、一つ一つ丁寧に取り分ける。
怜の皿にも均等に分けながら、自分の皿にも盛り付けていく。
「これ、食べたらどんな味がするんだろう……楽しみ」
「食べる前からわくわくしてるな」
怜は思わず笑う。桜彩も小さく吹き出し、少し顔を赤らめる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「いただきます」」
席に戻り、二人は少しずつ料理を口元へ運ぶ。
「じゃあ、まずはロブスターとアボカドから……。あーん」
桜彩が小さく口を開け、怜はそっとロブスターを運ぶ。
ぱくりと口にし、数回咀嚼すると、桜彩の顔が喜びに染まる。
「う~ん、美味しい!」
桜彩の頬が赤く染まり、嬉しそうに微笑む。
次は自分の口へとロブスターを運ぶ。
「もぐ……。そうだな、さっぱりしてて食べやすい」
皿からアボカドを少し取り、桜彩の口元へ。
「はい、あーん」
桜彩が小さく笑い、ゆっくりと口を開ける。
「うんっ! ロブスターとアボカドってこんなに合うんだね」
「味付けも含めてこんなに合うなんてな」
次にグラタンをスプーンで掬う。
湯気と香ばしいチーズの匂いが漂い、二人の間に温かさを添える。
「これも美味しい! チーズが香ばしくて、クリーミーで……。ふふっ、幸せ」
「ははっ。桜彩が美味しそうに食べるのを見てるだけで、なんだか美味しそうな感じが口の中に広がりそう」
「もう……。ほら、怜もちゃんと食べてね」
「分かってるって」
桜彩はスプーンで掬ったグラタンを怜へと差し出す。
「はい、あーん」
スモークサーモンのカナッペを取り、二人で軽く味見し合う。
「酸味が効いてて、でもしっかりサーモンの旨味もあるね」
「そうだね。ほんのり香るハーブもいいアクセントになってる」
桜彩の目がキラキラと輝く。
怜はその様子を見て、思わず手を握りたくなる衝動を抑えた。
それはもう少し後で良い。
クリスマスサラダも一緒に口へ運ぶ。
ルッコラの苦みとドライクランベリーの甘酸っぱさが、爽やかに舌の上で混ざる。
「うん……さっぱりしてて美味しいな」
「俺も同じ。今日はこういう彩り豊かな料理ばかりで、見た目から楽しめるな」
窓越しに街の夜景を眺めながら、二人はゆっくりと料理を味わう。
時折、笑いながらお互いに料理を差し出して食べさせ合う。
「……クリスマスだね」
「ああ。桜彩と一緒にこうして過ごせるだけで特別だよ」
視線が交わり、頬が熱くなる。
そうこうしている内に、皿の上はすぐに空になってしまった。
当然ここで終わりなんてことはなく、第二弾を取りに向かう。
「そろそろ、次はメインかな」
「うん、そうしよう」
香ばしい香りに誘われて歩くうち、目の前にターキーが丸ごと並ぶテーブルが現れる。
ローストされた表面からはハーブの香りが立ち上り、ナイフで切り分けられるごとに中から穀物や野菜が顔を覗かせている。
「わぁ……凄い……」
桜彩は思わず息を呑み、怜の腕に軽く触れた。
その奥、厨房の一部が見える位置にシェフ達が立っており、白いコックコート姿で真剣に手を動かす姿が目に入る。
湯気と油の香りがほんのり漂い、午前中に自分が働いた洋菓子店の光景を思い出させた。
「怜、あのターキー……、料理人の方が切り分けてくれるんだね」
「見ててわくわくするな。中には穀物や野菜も入ってるみたいだ」
怜が微笑み、列に並ぶ。
桜彩もゆっくり後ろに続く。
順番が来るとシェフが大きなナイフで丁寧に切り分け、二人の皿に豪快かつ美しく盛り付けてくれる。
皿を受け取って二人で期待に満ちた目をしながら笑い合う。
ふとビュッフェコーナーの奥を見れば、シェフ達が忙しそうに料理を仕上げているのが見える。
ジャンルは違えど、先ほどまで働いていたリュミエールを思い起こさせた。
湯気の向こうで手際よく食材を扱う姿を見て、桜彩は自然と背筋を伸ばす。
「……見てるだけで楽しいね」
「こうして一生懸命働く姿、午前中の自分たちの仕事を思い出すな」
クリスマスという特別な日に、客のことを考えながら、真剣に料理を作る姿。
先ほど自分達もこのような感じだったのか、などということを考えてしまう。
とはいえ、このままいつまでもこの場で立ち止まるわけにもいかない。
他の料理を取ろうとグリルされた魚が並ぶコーナーへと足を向ける。
皮はこんがりと焼かれ、中はふっくらと柔らかそうだ。
桜彩は怜の手元に目を向け、思わず小さく笑う。
「怜、魚も取る?」
「ああ、もちろん。せっかくだし、二人でシェアしよう」
怜がトングで慎重に魚を取り、桜彩の皿にもそっと置く。
桜彩も同じく自分の皿に取り分けると、少しだけ手が触れ合い、二人は恥ずかしそうに目を合わせて微笑む。
付け合わせには彩り豊かなローストベジタブルや、ハーブの香り漂うマッシュポテト、グリルドトマト。
「これも美味しそうだね」
そう桜彩は呟き、少しずつ丁寧に取り分ける。
怜も同様に自分の皿に添え、二人の皿がみるみるうちに満たされていく。
桜彩はそっと息を吸い込み、香りを楽しみながら怜に話しかける。
「……ここ、本当に夢みたい。見てるだけでも幸せな気分になる」
「そうだな。こういうのを一緒に楽しめるのもいい思い出になる」
怜の言葉に桜彩は頷き、少し肩を寄せるようにして皿を抱えた。
料理で満たされた皿を抱えて、窓際の席へと戻る。
「じゃあ……いただこうか」
「うん」
怜が小さく笑いながらナイフとフォークを手に取る。
桜彩も同じように構え、二人は一斉にターキーにナイフを入れた。
表面は香ばしく焼かれ、中からはハーブと共に穀物や野菜が顔を出す。
「あ……柔らかい……!」
桜彩が小さな声を漏らし、フォークで一口分を切り取る。
怜も同じように口に運び、二人で同時に味わう。
「うん……香りも味も、凄く良いな」
怜が少し目を細め、ローストされた肉のジューシーさを楽しむ。
ハーブの香りがふわりと鼻腔をくすぐり、穀物の甘みと野菜の旨味が口の中で優しく混ざり合う。
「美味しい。香ばしさの中に穀物の甘さがしっかりあって……」
「そうだろ? これ凄いよな」
桜彩の瞳が少し輝き、思わず笑みがこぼれる。
付け合わせのローストベジタブルやハーブ香るマッシュポテトも、ターキーと一緒に口に運ぶと絶妙なハーモニーを生む。
「桜彩、このマッシュポテトも美味しいな」
「うんっ。ターキーと一緒に食べると、ほんとに幸せな味になる」
二人の顔に満足感の高い表情が浮かぶ。
雪の舞う窓の外を見ながら、ゆったりとした時間が流れる。
ふと桜彩が小さく笑い、怜にフォークを差し出した。
「はい、これも食べてみて」
「あーん」
怜が口を開けると、二人の頬がまた少し赤くなる。
「……料理も美味しいけどさ、桜彩と一緒に食べるってのが、更に美味しく感じる」
「ふふっ、私も同じだよ」
二人は笑顔を交わし、外の雪景色と美味しい料理、そしてお互いの存在に包まれながら、ゆっくりとクリスマスディナーを楽しんだ。




