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【最終章:アフターストーリー(社会人編)】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第十章前編 アフターストーリー(冬:クリスマス)

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第480話 植物園④ ~プレゼントとホワイトクリスマス~

 二人は巨大なクリスマスツリーの正面で足を止めた。

 赤や金のオーナメント、透明のガラス玉、大小さまざまな星型ライトが枝々に飾られ、まるで夜空そのものが降りてきたかのように輝いている。

 下から見上げると、枝は天高く伸び、光の玉が幾重にも重なり、視界いっぱいに光の森が広がっていた。


「わあ……!」


 桜彩は思わず息を呑む。

 肩を少しすくめながらも、目は輝きを逃すまいとツリーの頂点まで見上げる。


「凄いな……、こうやって下から見ると本当に大きい」


 怜も同じように目を細めてツリーを見上げ、桜彩と共に肩を寄せ合う。

 ツリーを彩る無数の光が、まるで星の海の中に二人だけでいるような錯覚を与える。


「凄いね、あのオーナメント」


「たくさん種類があるよな」


 桜彩は小さな手でイルミネーションを指さしながら話す。


「こっちの赤いガラス玉も綺麗……。これ本当に写真みたいだね」


 怜はその言葉に笑いながら、肩越しに桜彩の笑顔を見つめる。


「こんな凄いクリスマスツリー、始めて見た……」


「俺も……」


 二人でゆっくりとツリーの周りを歩き、枝にぶら下がったオーナメントや光の玉を間近で覗き込む。


「ねえ、怜。上の方、見て……あの星、すごく明るいね」


「そうだな。凄く目立つ」


 桜彩は両手を胸の前で合わせ、少し背伸びをしながらツリーの頂点を見上げている。

 怜はふと小さく笑みを浮かべた。


「桜彩、ちょっと動かないで」


「え? なに?」


 戸惑う桜彩に答えず、怜はそっと背後へ回る。

 そして、バッグから長いマフラーを取り出した。


「どうかしたの……?」


 背中越しに桜彩が問いかけてくる。

 怜はその肩越しに、静かにマフラーを首元へとかけた。


「え……?」


「まだ動かないで」


 マフラーを巻いていくと、桜彩の肩が小さく震える。

 髪をそっと避けながら、丁寧にマフラーを桜彩へと巻き終える。


「えっ…………? 怜、これ……」


「メリークリスマス。桜彩へのプレゼント」


 桜彩は驚いたように振り返り、怜の顔を見上げた。

 至近距離で目が合い、光の反射で瞳が揺れる。


「これ、もしかして……、怜の手編み?」


「ああ。桜彩にバレないように少しずつな」


 少し照れくさそうに答える怜。

 自室では桜彩とほぼ一緒にいることもあり、その目を盗んで完成させるのは至難の業だった。

 家庭科部でマフラーの手編みの講師をしている時に集中して進め、部員や参加者の皆にも口止めしておいた(桜彩や陸翔、蕾華は家庭科部でのマフラー作り参加していない)。

 桜彩はマフラーの端を指でなぞり、愛しそうに頬を寄せる。


「……温かい。怜の手のぬくもり、ちゃんと残ってる」


「気に入ってくれて良かった」


「気に入るに決まってるって……。それにこれ、猫ちゃんだよね?」


 マフラーの片端には猫の頭と前足、逆側には尻尾と後ろ脚が形作られている猫マフラー。

 猫好きの桜彩なら気に入ってくれると思った工夫だが、大正解だったようで怜の顔もほころぶ。


「素敵……。このマフラー、絶対に大事にするよ」


「うん。ありがとな」


「ふふっ。お礼を言うのはこっちだって。……それにしても、このマフラー、結構長いね」


 桜彩がくすりと笑いながら、マフラーの端、猫の尻尾を軽く引っ張る。


「少し長めにしてみたんだ。二重に巻いても余裕あるくらいのほうが、寒くないだろ」


「ふふっ、優しいね。でも……だったら、こうしたほうがもっと温かいかも」


 そう言って桜彩はくるりと身体を回し、怜の正面へと立つ。

 その手には、マフラーの片端の尻尾側。


「怜、ちょっとしゃがんで」


「え? しゃがむ?」


「うん、いいから」


 言われるままに怜が少し腰を落とすと、桜彩は微笑んだまま、首に巻かれたマフラーを一巻解く。

 そして、そっとマフラーの端を怜の首元へ回とす。

 毛糸が頬をかすめ、温かさが伝わった。

 桜彩の手が動くたびに、指先が怜の喉元や頬にふれて、少しだけ鼓動が速くなる。


「……よしっ、これで一緒だね」


 柔らかな毛糸が二人の間を結び、距離が一気に縮まる。

 巻き終えた桜彩が顔を上げたとき、二人の距離はわずか十数センチ。

 その吐息がかすかに頬を撫で、マフラーの温もりと混ざって心臓が高鳴る。


「桜彩……それだと、ちょっと近いかも」


「いいじゃん、せっかくのクリスマスだし」


 桜彩はそう言いながら笑い、怜の胸のあたりに額を軽く寄せる。

 その瞬間、背後のツリーが一段と明るく輝いた。

 金と赤の光が髪を照らし、桜彩の瞳の中で無数の光の粒が跳ねる。

 周囲には写真を撮るカップルや家族連れの姿。

 賑わいの中で笑い声やカメラのシャッター音が響いているのに、怜と桜彩の間だけが静かに時を止めていた。

 そして――ひとひら、白い雪が舞い降りた。

 桜彩が小さく息をのむ。

 イルミネーションの光が雪片を照らし、まるで無数の星が降ってくるように、夜空が輝いていた。


「……雪、だ」


 桜彩の肩や髪に白が舞い降りる。

 怜は思わず笑みをこぼした。


「本当に、ホワイトクリスマスになったな」


「ね……。まるで映画みたい」


 桜彩は怜の肩に軽く身を寄せ、二人を繋ぐマフラーを握る。

 広場の向こうでは、小さな子供達が歓声を上げ、恋人達が手を取り合いながら雪空を見上げている。

 クリスマスツリーの頂点に輝く星が、二人の頬を淡く照らす。


「ねえ、怜。写真、撮ろ?」


「写真?」


「うん。せっかくだから、このツリーと一緒に」


「もちろん。一緒に撮ろう」


 桜彩がスマホを取り出し、画面をインカメラへと切り替える。

 そしてマフラーの端を軽く引いて怜を自分の方へと寄せる。

 ツリーを背に二人で肩を並べると、光の粒が頬を照らした。


「もう少し寄って」


「これ以上?」


「うん。ほら……ちゃんと映るように」


 笑いながら更に寄り添い、マフラーが二人を優しく結ぶ。

 桜彩がそっとシャッターボタンを押すと、画面の中には赤いマフラーと光のツリー、そして微笑む二人が映し出されていた。

 カシャッ。

 画面に映るのは、一本のマフラーで結ばれた二人と、その背後に輝くツリー。

 光の粒と白い雪が二人の間に降り注ぐように映り込み、まるでその瞬間だけ世界が静止したかのように美しかった。


「……いい写真、撮れたね」


「ああ。今日の思い出、ちゃんと残った」


 桜彩がスマホを見つめながら微笑む。

 怜もその横顔を見つめ、そっと手を重ねた。

 マフラーの毛糸が二人の手の間で触れ合い、優しく揺れる。

 寒空の下でも、二人の間にはもう冷たいものなど何もなかった。

 広場のざわめきも、雪の冷たさも、風の音も、ツリーの輝きさえも――

 今はただ、共有した一つのマフラーの温もりが全てだった。

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