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【最終章:アフターストーリー(社会人編)】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第十章前編 アフターストーリー(冬:クリスマス)

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第476話 広場での休憩

 リュミエールを出た怜と桜彩は、目的地への街路を歩き始めた。

 怜は歩きながら、時折桜彩の横顔をちらりと見る。

 そのたびに桜彩は怜の方を振り返り、お互いに笑みを浮かべ合う。


「それにしても、今日は人多かったね」


「忙しかったけど、楽しかった。あんなにケーキが売れるの見ると、ちょっと誇らしい気分になる」


「確かに……。私達が作った物が売れるって嬉しいね」


 桜彩はクスリと笑い、手に持っていたバッグを軽く揺らす。

 小さな商店街の角を曲がり、街路にはクリスマスのイルミネーションが並んでいる。

 カフェからはコーヒーの香りや焼き菓子の香ばしい匂いが漂い、鼻をくすぐった。

 雑貨屋のショーウィンドウにはクリスマスリースや雪の結晶型の飾りがあり、店内の灯りと相まって温かい光の層を作っていた。


「怜、見て。あのカフェの窓、雪の模様が光ってる」


「綺麗だな……。まさにクリスマスって感じで」


「ふふっ。こうやって一緒に歩くだけで、なんだか特別な気分になるね」


 桜彩はほんの少しだけ顔を赤く染めながら笑った。

 怜はその横顔を見つめ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 街の冷たい空気も二人で歩くと柔らかく、心地よくなるようだった。

 大通りを歩くとクリスマスソングがあちこちから流れている。

 とある店先ではサンタの帽子をかぶった店員が微笑みながら客を見送り、通りを行き交う人々の笑い声や談笑が響く。


「やっぱこれでこそクリスマスって感じがするよな」


「うん。リュミエールでは忙しすぎて、外の空気を感じる余裕がなかったもんね」


「それに、桜彩と一緒だし」


「えへへ~」


 言いかけて怜は少し照れくさそうに笑う。

 桜彩も笑顔を崩さず、怜の腕に抱きついてくる。

 街を抜け、少し郊外の緑道に入る。

 舗装された道の両脇には並木が並び、夕日が落ちていく空の色を映している。


「ねえ怜、ちょっと寄り道してみない?」


「寄り道?」


「ほら、あそこの小さな広場。イルミネーションが小道に沿って並んでるの」


 桜彩が空いている方の手で広場を指差すと、怜もすぐに頷いて広場へと向かう。


「うわあ~っ……」


「素敵だよな」


 広場に着くと、その光景に二人で目を丸くする。

 星型のライトや小さな雪だるまのイルミネーションが並び、風に揺れる光がキラキラと瞬いている。


「綺麗だね」


「ああ。それに桜彩と一緒に眺めると、余計に綺麗に見える」


「ふふっ、なにそれ」


 桜彩は顔を赤らめながら、それでも笑顔を隠さない。

 その頬に映るイルミネーションの光が、まるで星明りのように淡く滲んで見えた。

 肩を寄せ合って歩いていると、ほんの少し冷たい風が吹き抜ける。

 その風に揺れる髪を怜は自然と手で押さえ、組まれた腕を一度優しく解く。


「怜?」


「なあ、桜彩。ちょっとそこに立って」


「え?」


 言われた通りに立つ桜彩に、怜はスマホのカメラを向けて、その写真をパシャリと撮る。

 撮られた本人は不思議そうな顔で怜の方を見上げてくる。


「え? どうしたの、急に」


「ほら、これ見て」


 そう言って怜はスマホを差し出す。

 画面には、たった今撮影したばかりの桜彩の姿が映っていた。

 背後には淡く輝くイルミネーション、髪先には光の粒が散りばめられたように反射している。


「ほら。この景色に桜彩が溶け込んで、凄く素敵だなって」


「……もう、そんなこと言って」


 桜彩は呆れたように笑いながらも、耳まで真っ赤になっている。


「消さないでね、その写真」


「もちろん。今日のベストショットだから」


「フフッ、そんなこと言って良いの? もっと良い写真、撮れるかもよ?」


「そうだな。俺と桜彩、二人揃って撮りたい」


 そう言って怜は、そっと桜彩の手を握った。

 その手は冷えていたけれど、指先を絡めるうちに少しずつ温もりが戻ってくる。

 広場の中央では、小さな噴水の縁に何組かのカップルが腰を下ろしていて、柔らかな笑い声があちこちから聞こえてくる。


「ねえ、怜。せっかくだし、あそこの屋台でホットドリンク買ってみない?」


 桜彩が指差した先には小さな屋台。

 カップから立ち上る湯気が、冬の空気の中でゆらりと揺れている。


「いいな、それ。ちょうど寒いし」


 二人は手を繋ぎ直して屋台へ向かい、カップ入りのココアをそれぞれ受け取った。

 カップの温もりが手に伝わるたび、冷たかった指先がじんわりと温まる。

 カップを握ったまま広場のベンチに腰を下ろす。

 桜彩はゆっくりと息を吐き、湯気を指先で軽く払いながらカップに唇を寄せる。


「……あったかい」


「うん、ちょうどいい温度だ」


 怜もカップを両手で包み、熱を指先に伝える。

 ベンチの背もたれに寄りかかる桜彩の肩が、自然に怜の胸に触れる。

 空気こそ冷たいが、その温もりはココア以上にじんわりと心に染み渡った。


「……怜、こういうとこ、二人で来るの久しぶりだね」


「そうだな。バイトとか学校とかで、なかなかゆっくり歩けなかったもんな」


 星型のライトが揺れるたびに地面の上に淡い光の斑点が散り、まるで夜空の星が地上に降りてきたようだ。

 桜彩は目を細めてその光景を見つめ、怜の手を握り直す。


「怜……。私、こういう時間、好き」


「俺もだよ。桜彩と一緒だと、特に」


 桜彩は小さく笑いながらも、頬が赤く染まる。

 その仕草だけで怜の胸がきゅんと締め付けられ、自然とそっと肩を抱き寄せた。

 ベンチに座ったまま、二人は無言でこの光景を眺める。

 ふと風が吹き抜け、桜彩の髪が顔にかかる。

 怜はすぐに手でそっと払うと、桜彩は目を細めて微笑んだ。


「……怜、こういう時間、凄く幸せだね」


「俺もだよ。特に桜彩と一緒だと、どこでも特別になる」


 二人は小さく笑い合い、カップの温かさを指先で確かめながら、互いに空いた手を絡める。

 ベンチの前に広がる光の小道が揺れ、星型のライトが地面の上に淡く映る。

 桜彩はカップを抱えながら目を細め、その光景をじっと見つめる。


「怜……。あの噴水、見て」


 水面に映るイルミネーションの光が揺れ、まるで水の上に星が散らばっているように煌めく。

 その幻想的な光景に、胸の奥が安らぐ。


「……そろそろ行くか」


「うん」


 気付けばホットココアが入っていたカップは空になっていた。

 この後のことを考えれば、ここで長居をするわけにはいかない。

 二人で立ち上がり、カップを捨てて、再び腕を組む。


「ふふっ。今日の目的地はまだなんだけどね」


「ああ。でも予想外に良い感じに過ごせたな」


「だね」


 寄り道した先での出来事に、二人でクスリと笑い合う。

 広場の光が後ろに残り、二人の足元に長い影を落とす。

 余韻を胸に抱きながら、二人は次の目的地へと歩を進めた。

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