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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第十章 アフターストーリー(冬:クリスマス)

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第472話 クリスマスイブの朝

 文化祭を終えて、季節は冬。

 十二月に入ると街はクリスマス一色。

 ニュースでは都心のイルミネーションが大きく取り上げられ、カップルや家族連れで夜の街が賑わっている。

 一方でこの辺りでは、そこまで派手な混雑はなく、普段とほとんど変わらない。

 とはいえ全く変わらないわけでもない。

 駅前の商店街の店先には小さなクリスマスツリーやリースが並び、夕暮れの街灯の光と混ざり合っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 十二月中旬における学生の敵、後期中間試験を乗り越えれば一週間後に待ち受けているのは冬休み。

 怜、桜彩、陸翔、蕾華の四人はいつも通りに優秀な成績を収め、心置きなく冬休みを迎えることになる。

 そして十二月二十四日。

 世間でいうところのクリスマスイブ。

 街は煌めくイルミネーションに彩られ、カフェや商店の窓には色とりどりの飾り付けが施されている。

 恋人達にとって愛を確かめ合う絶好の機会であり、一日中一緒に過ごす者も少なくない。

 クリスマスソングが流れる中、は手を繋ぎ、笑顔を交わし、街角で立ち止まっては写真を撮ったり、プレゼントを見比べたり。

 寒さに頬を赤らめながら、温かい手袋越しに手を握り合い、心の中でそっと『ずっと一緒にいたい』と思う。

 街の雑踏の中にいるだけで、特別な幸福感が胸に広がる――そんな日。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 怜と桜彩というお互いに大切に想い合っている二人もそんな感じで、朝から晩までクリスマスデート――などと言うことはなかった。

 もちろん、喧嘩したとか別れたとか、縁起でもない事実は一切ない。

 怜も桜彩も毎日のようにお互いを大切にして過ごしている。

 それに、クリスマスイブを朝から晩まで一緒に過ごすという予定自体については間違いはない。

 問題は、二人がアルバイトをしている場所、つまりリュミエール。

 洋菓子店であるリュミエールに、クリスマスイブに休むなどという選択肢は絶対にあり得ない。

 何しろ一年で一番の掻き入れ時であり、最近はクリスマスに向けて空気が殺伐としてきている。

 いや、休むこと自体はできるかもしれない。

 だが、アルバイト先もそこで働く人達も二人にとってリュミエールはとても大切な場所であり、一年で最も忙しい日に休むことは同僚達に対しても申し訳ない気持ちが先立つ。

 ということで怜と桜彩、それに陸翔と蕾華はリュミエールにてアルバイトの予定が入っている。

 怜は厨房、陸翔と蕾華は会計や接客の担当。

 そして桜彩は、チョコレートのプレートにクリスマスの絵を描く役目である。

 桜彩の絵に惚れた望が試しにチョコレートに絵を描かせてみたところとても上手であり、ケーキに添えるチョコレートにサンタクロースやツリーの絵を描くことになった。

 望にそれを頼まれた桜彩が試しにチョコレートへと絵を描いてみたところ、その絵はいつも通りにとても素敵な出来だった。

 既に昨日のアルバイトで相当量を仕上げており、本日はその続きとなる。

 とはいえアルバイトで一日が潰れるというわけでもない。

 望や光が気を利かせてくれて、二十四日のアルバイトは十五時までで終了。

 その後は、心置きなくデートを楽しむ予定だ。

 もちろんリュミエールで忙しくも甘い香りに囲まれて過ごす短い時間も、二人にとっては特別なイブの一部だが。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 冬の寒さの中、怜の部屋のリビングは既に暖房により暖まっている。

 そこへ玄関の鍵が周り、ドアが開く音が聞こえてくる。

 数秒後、リビングに桜彩が静かに入って来た。


「ただいま。おはよう、怜」


「おかえり。おはよう、桜彩」


 いつもであればこの後は一緒にジョギング(当然ながらウェアも冬用)へと向かうのだが、今日に限ってはジョギングは中止。

 なにしろ今日はクリスマスイブ。

 朝の七時からリュミエールでのアルバイトが入っている。

 その為、朝はいつもに比べて時間が無い為にジョギングは中止となった。


「ちゅ……」


「ん……」


 とはいえ朝の日課は欠かさない。

 おはようのキスをして、二人で照れながら笑い合う。


「朝ご飯、もうそろそろ完成するぞ」


「うん。ありがとね」


 朝の時間が少ないということで、今日は怜が一人で朝食の支度をある程度進めている。

 桜彩もお礼を言いながらエプロンを肩にかけて怜の隣に立つ。


「それじゃあさ、サラダの方を頼むぞ」


「うんっ」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 テーブルの上に朝食が並ぶ。

 黄金色のフレンチトーストにはほんのり粉砂糖をふりかけ、ちょっとした雪化粧のように。

 オムレツには小さく人参とジャガイモを星型に抜いて飾り、ベーコンも軽く巻いてツリーのオーナメント風に並べる。

 温かいココアの上には少しだけホイップクリームを添え、マシュマロを浮かべた。

 派手ではないが、少しだけクリスマスの気分が味わえる朝食だ。


「はい、できたぞ」


 テーブルに並べられた料理を見て、桜彩は目を輝かせた。


「わあ……! 怜、今日の朝食、ちょっとクリスマス仕様だね」


「ああ。せっかくだからな。食べるときは普段通りでいいけど」


「うんっ! いただきまーす!」


「いただきます」


 桜彩は慎重にフォークを取り、フレンチトーストを口元に運ぶ。

 一口食べると、桜彩は美味しそうに表情を緩めた。


「……ふわふわで美味しい」


「ありがと。桜彩にそう言ってもらえるとやっぱり嬉しいな」


 怜が少し照れくさそうに言うと、桜彩は目を細めて笑った。


「朝からこんなに幸せで良いのかな?」


「良いに決まってるって」


 桜彩は恥ずかしそうに目を伏せたが、手元のフォークは止まらない。

 オムレツにフォークを入れると、スパイスの香ばしい香りが部屋に広がる。

 桜彩が一口食べると、自然と小さく息を漏らす。


「これも美味しい」


「ありがと」


 怜も同じようにオムレツを一口。

 スパイスとジャガイモ、ニンジンが卵と合わさって、口の中に幸せが広がる。


「うん。美味しい」


「ふふっ。やっぱり怜はすごいね。クリスマスチックな見た目でこんなに美味しいのを短時間で作っちゃうなんて」


「桜彩と一緒のクリスマスだからな。頑張りたくもなるって」


「ふふっ……。もぅ……」


 桜彩は照れたように微笑み、フォークでオムレツをもう一口口に運ぶ。

 桜彩が一口食べる度に、怜は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。


「ココア、ちょっと飲んでみるか?」


「うん」


 怜はそっとココアのカップを差し出すと、桜彩は嬉しそうに受け取り、温かい液体を口に含む。

 二人で交互にフレンチトースト、オムレツ、サラダ、ココアをゆっくり口に運び、時折目を合わせて笑い合う。

 粉砂糖が桜彩の口元に少し付着すると、怜は指でさりげなく拭ってその指をぺろりと舐める。


「ん……。美味しい」


「あっ……。ふふっ」


 やがて皿の上はほとんど空になり、ココアのカップも底を見せる。


「もう全部食べちゃったね」


「そうだな。でも、凄く幸せだった」


「うん。最高のクリスマスだよね」


 食後はコーヒーを飲んで気持ちを切り替える。

 すると怜は、桜彩がなんだか少し緊張しているのに気づいた。


「桜彩、どうした? 何か心配事か?」


「う、うん……ちょっと……。今日のチョコレートの絵……失敗しないか心配で」


 不安に満ちて震える声。

 怜はカップをテーブルに置き、桜彩の手をそっと取る。

 冷たさを少し感じる指先に、怜は自分の手の温かさを伝えるように握り返す。


「桜彩、大丈夫だって。昨日だって上手に描けたんだし。光さん達も褒めてただろ?」


「う、うん……」


 昨日仕上げたプレートは光や晴臣をはじめとするスタッフが確認しているが、上手に描けているとお墨付きだ。

 桜彩は視線を少し上げ、怜の目をじっと見つめる。

 緊張と不安が混じった瞳に、怜は優しく微笑みかける。


「ほら……深呼吸して。息を吸って、ゆっくり吐いて」


 桜彩は怜の手のひらに自分の手を重ね、目を閉じて、言われた通りに深呼吸。


「少し落ち着いたかも」


「良かった」


 怜が笑いかけると桜彩もにこりと笑い、小さく頷いた。


「うん、任せて……怜」


 怜は軽く頷き、コーヒーを一口飲む。

 桜彩も静かにカップを口に運ぶ。

 しばらく沈黙のまま、それぞれの時間を噛みしめる。

 やがて桜彩は小さく肩を伸ばして立ち上がる。


「そろそろ行こうか」


「ああ。頑張っていこう」


 怜も頷き、二人で手を繋ぎながらアパートを出る。

 外の冷たい空気に頬を刺されても、朝の静かな温もりを胸に感じながら。

 ここからアフターストーリーの冬編です

 クリスマスが長くなるかもしれませんが、よろしくお願いいたします

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