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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第九章後編 アフターストーリー(秋:文化祭)

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【第九章完結】第470話 キャンプファイヤー

 模擬店の片付けをざっくりと終えて、家庭科部とボランティア部の部員が家庭科室へと集合する。

 明日一日は文化祭の片付けということになってはいるが、さすがにこの家庭科室は綺麗な状態に戻しておきたい。

 売り上げをまとめたりする者を除き、全員で家庭科室の後片付けを実施。

 片付けを終えると外からは橙色の夕陽が差し込んでいた。


「いやー、今日も凄かったね。途中、材料足りなくなるかと思ったよー」


 会計担当からの報告を受けた奏が笑いながら、紙にまとめた売り上げ表を掲げる。

 それを見た部員達も目を丸くして『おおーっ』と驚いている。


「昨日よりも売り上げ、三割増し。ケバブも焼き菓子も完売!」


「うわ、凄い……!」


「やった! 大成功!」


 皆が目を輝かせて、この二日間の成功を声を上げて喜ぶ。

 怜も数字を見ながら感心したように息を漏らした。


「まさかここまで売れるとはな。昼前から行列できてたもんな」


「去年も凄かったけど、それを更に上回ったからね」


 奏の言葉に、部員達は一斉に頷いた。

 なんだかやり遂げたという充実感が湧いて来る。


「それにしても……ケバブ、あれは大正解だったね」


「だね! 調理も見栄えも良かったし、香りが漂うだけでお腹すくもん」


「あと、きょーかんとクーちゃんが入ってくれた時の回転の速さ、ほんとに助かったよ」


「そうそう! あれで一気にさばけたもんね」


 あちこちから同意の声が上がり、桜彩は照れくさそうに俯く。

 怜も照れくさそうに頬を掻いた。


「みんなの準備が良かったおかげですよ。俺らはその流れに乗っただけです」


「いやいや、野菜の炒め方とか、盛り付けのバランスとか、見てて勉強になったもん」


「ほんとに。クーちゃんもきょーかんと息ぴったり合ってたし」


「さっすが恋人同士ーっ!」


「……からかうなよ」


「うぅ………」


 顔を赤くする怜と桜彩。

 家庭科室内にあはは、と笑いが広がる。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あ、外見て!」


 その声にグラウンドの方を見ると、多くの生徒が集まって来ていた。

 この後は文化祭の締めとしてのキャンプファイヤー。

 火を囲って友達同士、先輩後輩、そして恋人同士で踊るのが定番だ。

 中央では既に木組みの薪が積まれ、点火の準備が始まっている。

 辺りが暗闇に包まれた中、どこか胸をくすぐるような熱気が漂い始めている。


「そうだ! もうすぐキャンプファイヤーだ!」


「えっ、もうそんな時間!?」


「あたしらも行こうよ」


 グラウンドの様子を見た皆が湧きたつ。

 蕾華がニヤリと笑い、いたずらっぽく声を低める。


「サーヤも行くでしょ?」


「そりゃそうでしょー!」


「ほらほら。二人で踊ったらどう? キャンプファイヤーだし、いい雰囲気じゃん」


「いやー、絶好のシャッターチャンスだね」


「そうだね、二人共、見せ場だぞー!」


 部員達のからかいに桜彩は顔を赤らめ、俯きながらも笑みをこぼす。


「で、ですが大勢の前では恥ずかしいですよ……」


「えーっ、でもサーヤ、カップルで踊るのって定番だよーっ!」


「そうだって。怜との良い思い出になるぞ」


「か、カップルで……?」


 蕾華と陸翔の言葉に桜彩が驚き、そしておずおずと怜の方を見る。

 怜はそんな桜彩を見て、そっと手を取った。


「桜彩。俺と踊ってくれますか?」


「……うんっ! 喜んで!」


 桜彩は少し照れながらも、怜の手を握り返す。

 そのさりげない手の温もりに、心の奥が温かくなる。


「まあ、みんなの前で恥ずかしいのは嫌だけどな……」


「ね。でも怜と一緒なら……ちょっとなら、良いかな」


 部員達はそんな二人の様子を見て、更にくすくすと笑う。


「ほら、それじゃあみんなで行こう!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 焚き火の周囲には学生の輪が広がり、柔らかなオレンジ色の光が校庭を照らしている。

 キャンプファイヤーの音楽が流れる中、怜と桜彩は少し緊張した面持ちで互いの手を握って踊り出す。


「ええと……こう、かな……?」


「桜彩、大丈夫。俺がリードするから、安心して」


「……うん、怜となら大丈夫」


 桜彩の小さな声に、怜は微笑みを返す。

 そっと手を引き桜彩を自分の前に立たせると、桜彩は少しよろけ、怜の腕にしがみつく。


「しっかり掴まっててくれ」


「うん……」


 怜の手が背中をそっと支え、もう片方の手で指を絡める。

 桜彩の体温が伝わるたびに、怜の胸もじんわりと熱くなる。

 隣では陸翔と蕾華が楽しそうに踊っていた。

 蕾華がくるくると回るたび、陸翔は優しく腰に手を回し、息を合わせてステップを踏む。

 踊っている最中に二人と目が合い、四人で笑い合う。


「蕾華さんと陸翔さんも凄く楽しそう」


「ああ。俺達も負けてられないな」


 怜は桜彩の手をぎゅっと握り少し前に一歩踏み出すと、桜彩も自然と足を動かした。

 まだ慣れないステップに戸惑う桜彩を、怜はゆっくりと導く。

 回る時も怜が腰に手を回して桜彩のバランスを支え、腕を絡める。


「はい。右、左、右、左……」


「こ、こう……?」


「ああ。そんな感じ」


「えへへ……。楽しいね」


「ああ。俺も凄く楽しい」


 怜の言葉に、桜彩は小さく笑みを浮かべる。

 その瞳が少し潤んでいるのを見て、怜も自然と笑みがこぼれた。

 音楽に合わせて足を踏み出すたび、二人の体が触れ合い、少しずつリズムが合ってくる。

 ぎこちなさが消え、二人で楽しく踊っていく。

 怜はそっと指先を絡めたまま、微かに体を寄せる。

 陸翔と蕾華もこちらの様子を見てくすりと笑う。

 蕾華が小さく手を振ると、桜彩も手を振り返す。

 自然な仕草に、二人だけの世界だったはずのキャンプファイヤーに、ほんの少しだけ周囲の温かい空気が混ざった。

 怜はゆっくりと桜彩を回し、桜彩の手を握ったまま顔を近づける。


「……怜、ちょっと近いよ?」


「大丈夫。ちょっとだから」


 怜のささやきに、桜彩は小さく笑って目を閉じる。

 手の温もり、体の距離、そして炎の柔らかな光。

 全てが甘く、とても幸せな時間だった。

 音楽がクライマックスに差し掛かり、最後に炎の周りでゆっくり一周する。

 音楽がゆっくりフェードアウトすると、生徒達の拍手や笑い声が静かに夜の校庭に溶け込んでいく。

 焚き火の光はまだ赤く揺れ、木々や校舎の影を柔らかく照らしている。

 怜と桜彩は最後のステップを踏み終えると、自然にお互いの手を握り合ったまま、炎の前で立ち止まる。

 ふと顔を見合わせた瞬間、互いに微笑みを交わし、抱きしめ合う。


「楽しかったな、桜彩」


「うん、怜……ありがとう」


 すると親友二人がこちらへとやって来る。


「見てたぞ! 二人とも上手に踊れてたじゃん!」


「ほらサーヤ、れーくんがちゃんとリードしてくれてるの分かるでしょ?」


 二人の言葉に、桜彩は顔を赤くしてはにかむ。


「えへへ、見られてたんだ……」


「まあ、でも恥ずかしがりながらも楽しそうだったな。そういう桜彩も可愛いぞ」


 怜の言葉に桜彩は少し頬を赤くして、だが嬉しそうに笑う。


「ふふ、ありがとね……、怜」


 小さな声が、夜風に溶けるように柔らかく響く。


「ねぇ、せっかくだから記念に写真撮ろうよ!」


 蕾華がスマホを取り出す。

 陸翔と二人、そして怜と桜彩も自然に近づき四人で笑顔を揃える。


「はい、チーズ!」


 そして移された写真が四人のグループメッセージへと送られた。


「いやー、今日は本当に楽しかったな。文化祭、最高の締めくくりだ」


 陸翔が言うと、蕾華も笑顔で頷く。


「うん。サーヤ、れーくん……二日間お疲れ様」


 蕾華の言葉に桜彩は小さく頷く。


「こっちこそ、二人が一緒で楽しかったよ。こうして四人で笑い合える時間があるって、凄く幸せだね」


「また来年もさ……、こうやって一緒に踊ろうぜ」


 怜の小さな呟きに、桜彩は優しく笑いながら頷いた。


「うん、絶対にね」


 隣で手を握り返す桜彩の指先に自分の指先を絡め、互いに視線を交わして微笑み合う。

 夜風に混ざる笑い声と焚き火の香り、そして二日間の思い出を感じながら、文化祭は幕を閉じた。

 以上で秋の物語は終了し、番外編を経て冬編となります。

 これまでのことを考えると、まず間違いなくクリスマス編が膨大な量になると思いますが、よろしくお願いいたします。


 ミスター、ミスコンテストについては怜達は参加を断りました。

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