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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章後編 アフターストーリー(秋:文化祭)

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第467話 模擬店の様子と昼食

「そろそろお昼かな。ケバブ屋さん、どうなってるか見に行こうよ」


「そうだな。売れ行きも気になるし」


 二人で家庭科部の模擬店がある校庭の一角へと向かう。

 校舎を出ると屋外の風に乗って、模擬店で作られている様々な食べ物の香りが漂ってくる。

 その中で一際目立つのが家庭科部の模擬店から漂うスパイシーなケバブの香りだ。

 香ばしさとケバブソースの甘辛い香りが混ざり合い、模擬店の前には長い行列ができている。

 ステージ上で行われているイベントよりも人を集めてしまっているのが少々申し訳ない。


「わあ、けっこう並んでるね」


「そうだな。作ってる様子も見たいな」


 驚く桜彩に怜も同意しながら、少し誇らしげに肩をすくめる。

 やはりケバブの強い香りと、その豪快なインパクトは人目を引く。

 近づいて確認するとエプロン姿の家庭科部員達が手際よく具材を調理して、パンに肉や野菜を挟んでいる。

 少しばかりたどたどしさはあるものの、練習した甲斐があって、それでも特にもたついたりすることはなく行列が捌けている。


「ふふっ。見てるだけでお腹空いちゃうね」


「だな。まあ問題ないようで良かったよ」


 二人で少し離れた場所から様子を眺める。

 皆忙しそうに動き回りつつも表情は笑顔のまま。

 文化祭らしい活気が伝わってくる。


「ケバブ、こんなに人気だとは思わなかったよ」


「みんな美味しそうに食べてるな。作って良かった」


 辺りを見れば、買ったばかりのケバブに息を吹きかけて冷ましつつ、美味しそうにかぶりついている者の姿もある。

 口周りにソースを付けながら笑う姿を見れば、味の感想は聞くまでもないだろう。


「とりあえず良い感じの滑り出しだな」


「だね。まずは一安心だよ」


 お互いにふふっ、と笑い合い、再び模擬店に視線を向ける。

 列には男女問わず様々な生徒や外来者が並び、楽しそうに待っている。

 小さな子供を連れた家族もいて、子供達は焙られている肉塊に目が釘付けだ。


「ねえ、あれ食べたい!」


 小学生の男の子の声に、母親と思われる女性が笑顔で『もうちょっと待とうね』と答える。

 そんな光景を見ながら、怜は桜彩の耳元にそっと囁く。


「俺達の頑張りがこうして現れると、やっぱ嬉しいよな」


「うん。こうやってたくさんの人に美味しいって言ってもらえると嬉しいよね」


 文化祭に向けて頑張ってきたことが、形として目の前に現れている。

 それを嬉しそうに眺めながら、二人で列に並ぶことにした。

 列の最後尾につくと香ばしい匂いがいっそう強く漂ってきて、桜彩は思わずお腹を押さえた。


「良い香りすぎて、待ってる間に余計お腹空いてきちゃうね」


「確かに。これ、並んだ後の一口は格別だろうな」


「あはは。もう我慢できなくなりそう」


 怜が軽口を叩くと、桜彩はくすりと笑って頷いた。

 少し先の行列の中からも、『早く食べたい』『あれ絶対美味しいやつ!』『去年食べたけど美味しかったよ』という声が聞こえてくる。

 皆が早く自分の番が来ないかというテンションで並んでいる。

 少しずつ列が進み、ようやく模擬店のテントが間近に見えてくる。

 鉄板の上では熱された野菜がじゅうじゅうと音を立て、白い煙が揺れていた。

 網の上で焙っているピタパンの香りも混ざり合って鼻腔を刺激する。

 怜は思わず喉を鳴らし、桜彩も目を輝かせた。


「いらっしゃーい!」


 威勢の良い声を掛けてきたのは家庭科部の前部長、立川。

 タオルを首に掛けて汗をぬぐい、手元では次々と野菜をひっくり返している。

 怜と桜彩に気が付くと、にやりと口角を上げた。


「おっ、二人で来たのか。……なるほど、デートの途中ってやつ?」


 桜彩が一瞬固まり、頬がみるみる赤く染まる。

 とはいえ図星なので否定もできない。


「ええ。昼食がてらちょっと様子を見に来ました。せっかくなんで自分達のとこ以外で食べようかとも思ったんですけどね」


「はい。ですがこちらのケバブ、とても美味しかったので」


 焼きそばやら焼き鳥やら、他にも飲食の模擬店はいくつか出ている。

 とはいえ、言っては何だがここのクオリティに勝る模擬店はないだろう。


「ふーん、幸せそうだねえ。こちとらデートする相手もいないで受験勉強に精を出してるってのにさぁ」


 自虐と共に笑いながら答える立川。

 なんだかんだでこうした掛け合いが楽しく感じる。


「ウチの顧問みたいなこと言わないで下さいよ」


「愛・即・斬だっけ? いいね。あんたら二人、この場で成敗してやろうかな」


 そう言いながらも動かしている手は止めない。

 隣の部員が差し出して来たピタパンに焼き上げた野菜をトングで詰めていく。


「それは勘弁して下さいよ。先生は反面教師にしてください」


「あはは、確かにああはなりたくないね。ほら、次のお客さん待ってるから、さっさと注文しな」


「トマトソースをお願いします」


「私はホワイトソースを」


「はい毎度。お会計おねがーい!」


 別の部員に会計を支払い横にずれる。


「はい、トマトとホワイトお待ちどう!」


 桜彩と怜の手に包み紙に丁寧に包まれたケバブが渡された。

 ずしりとした重みとともに、焼き立ての肉と香ばしいパンの香りがふわりと鼻をくすぐる。

 ソースの甘辛い香りまで重なり合って、もうそれだけで口の中にじわりと唾液が溢れてくる。


「……あったかいね」


 桜彩が小さな声でそう呟き、包みを大事そうに抱える。


「冷めないうちに食べたいな。中庭、行こう」


「うんっ」


 校庭から中庭へと向かうと、そこも生徒達で賑わっていた。

 普段はどちらかと言えば閑散としている中庭だが、今日に限っては模擬店で買った昼食を食べに来た生徒が大勢いる。

 出店はなく、とはいえ文化祭の活気がないわけでもなく、はしゃぐ声や遠くのブラスバンドの音が響いて来ている。

 そんな中で二人は木陰にあるベンチとテーブルを見つけ、並んで腰を下ろした。


「じゃあ、いただきます」


「うん。いただきます」


 さっそく一口。

 ぱりっと焼かれた生地の歯触りに続いて、スパイスの効いた肉汁が口いっぱいに溢れ、野菜と絡み合った。

 桜彩も両手でケバブを持ち、そっと大きめに齧る。


「ん……美味しいっ……!」


 うっとりとした表情に、怜も思わず笑みをこぼす。


「ほんとだな。部のみんな、頑張った甲斐があったな」


「そうだね。みんなで頑張ってたもんね」


「ああ。それに練習で食べた時より、今の方が美味しく感じる」


「だねっ!」


 そのまま二人で笑いながらケバブを食べていく。

 ふと桜彩の方を見ると、唇の端にソースがちょこんとついてしまっていた。

 練習の時もそうだったが、これはもう防ぎようがないだろう。

 そっとティッシュで口元を拭うと、桜彩が嬉しそうに笑う。


「ん……。ありがとね」


「桜彩、本当に美味しそうに食べるな」


「……そ、そんなこと言わないでよ。意識しちゃう」


「いや、意識しても無意識でも可愛いぞ」


 さらりと告げた言葉に、桜彩はぱっと顔を真っ赤にして視線を逸らしながらケバブを抱える。


「……もう。そういうこと平気で言うんだから」


 それでも口元は緩み、照れ笑いを隠せない。

 それを見て怜の口元も緩んでいく。


 パシャ


 唐突にシャッター音が響いた。

 驚いて顔を上げると、カメラを首から下げたクラスメイトの一ノ瀬――新聞部の男子、文化祭のカメラマン――が得意げに親指を立てている。


「ちょ、ちょっと!?」


「おい、今の……!」


「ばっちり撮ったぜ! ナイス!」


「一声掛けろっての」


「公共の場でやってる方が悪い。周り見てみろ」


 怜と桜彩の抗議をなんのその、そのまま手をひらひらと振って逃げていった。

 一ノ瀬の言葉に周囲を見ると、他の生徒達もこちらを見てくすくすと笑っていた。

 こちらに向ける視線や耳に届くからかいの声により、桜彩の耳まで真っ赤になっていく。


「……もう、恥ずかしい」


 両手で顔を覆う桜彩に、怜は肩を揺らして笑った。


「……まあ、記念にはなるだろ」


「れ、怜は平気なの?」


「まあ……。ってかさ、もう今更って感があるし」


「た、確かにそうだけど……」


 怜も桜彩も、既に同級生の間では恋人同士として有名であり、スキンシップを見られてからかわれたことも何度もある。


「それに、俺にとって桜彩はさ、堂々と自慢できるくらい可愛い彼女だし」


 小声で囁くと、桜彩は息を呑んで硬直する。

 次の瞬間、そっとケバブで口元を隠しながら、真っ赤な頬を隠すように俯いた。

 そんな姿もやはり可愛かった。

 賑やかな笑い声と、香ばしい食べ物の匂いに包まれる中庭。

 二人の昼下がりは、思わぬハプニングで更に甘く色づいていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後は陸翔と蕾華と合流し、四人でお化け屋敷や縁日風ゲームセンターなどの出し物を巡る。

 終了時刻を告げる放送が流れると、家庭科部の皆と一日目の反省点などを話し合い、文化祭の一日目が終了した。

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