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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章後編 アフターストーリー(秋:文化祭)

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第463話 文化祭の朝

 文化祭当日の朝。

 まだ朝早くにもかかわらず、すでに学園を訪れている生徒の数はいつもとは比較にならないくらいに多い。

 校舎の内も外も、文化祭の準備でせわしなく動く学生の姿でいっぱいだ。

 ボランティア部と家庭科部もその例に漏れず、家庭科室で仕込みをしている最中だ。

 家庭科部兼ボランティア部が販売を行うのは校庭のステージ近辺に設置されたスペース。

 しかし、そちらでやるのはあくまでも肉や野菜を焼いてピタパンに挟む工程のみ。

 下準備や焼き菓子をオーブンで焼くのは家庭科室で行うことになっている。

 前日の内に調味液に浸しておいた肉のボイル、そして焼き菓子の生地の作成。

 一応、焼き菓子の方は前日に大量に焼いておいた(これに関しては瑠華を通して衛生上問題ないことを保健所に確認している)為、すぐに無くなるといった心配がないので余裕がある。


「よし、昨日の漬け込み肉、ボイルしていこう」


「オッケー。取り出しちゃうね」


「全部取り出さないで良いからね」


 奏の言葉に、別の部員がすぐに冷蔵庫を開けて真空パックごと取り出す。


「もうボイルにかけちゃって大丈夫?」


「うん。昨日言った通りね」


 一年生達は大鍋を火にかけ、沸いたお湯の中に真空パックごと肉を沈めていく。

 一方で別の班は野菜の下準備。

 ケバブ用の野菜はある程度の量を最初に切っておく必要があり、野菜をカットする音が室内に響く。


「うわ、玉ねぎが目に染みるよ……」


「あはは。泣いてる顔もちゃんと可愛いよー」


「やめてよ、からかわないで!」


 そんな冗談まじりのやり取りを含め、忙しくも楽しく準備を進めていく。

 そして怜を中心としたボランティア部の四人は、焼き菓子の補充用に新たな生地作りを担当していた。

 焼き菓子を作るうえで一番大切なのは生地。

 それを一番手慣れている怜が作ることにより、後の負担を無くすという作戦だ。


「桜彩、バターそっちお願い」


「了解。えっと……室温に戻したやつ、これだよね?」


「オッケー、それで」


 ボウルの中身を丁寧に混ぜてダマを無くしていく。

 出来上がったそれを、ボウルごと陸翔の方へと手渡す。


「陸翔、蕾華。マドレーヌオッケー。アレンジの方頼む」


「任せろ!」


「トッピングはこっちね」


 二人は怜が渡した生地をまず小分けにする。

 そしてそれぞれにトッピングを加え、数種類の味を作っていく。

 その間も怜はクッキー生地の作成に取り掛かる。


「はい。準備できてるよ」


「ありがと」


 予め桜彩が量ってくれたホットケーキミックスを混ぜていく。

 基本的に怜達ボランティア部は校庭の方での調理や販売は行わず、家庭科室での下準備がメインだ。

 だからこそ、力を入れて準備していく。


「怜、こっち、ちゃんと混ざってるか確認してもらえる?」


「ん……うん、滑らか。問題なし」


「ふふっ、ありがと」


 こうして四人が作った生地は、チョコや抹茶、プレーンといったさまざまなフレーバーに仕上げられていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「かなり作ったよね……」


 出来上がった生地を冷蔵庫に入れながら桜彩が呟く。

 冷蔵庫の中には様々なフレーバーに仕上げられたマドレーヌやクッキーの生地。

 正直、売り切れるのかどうかの疑問も浮かんでしまう。


「まあ、予想より売れたら困るからな。余裕ある方が良い」


「ふふっ、確かにね。なんたって怜の作ったお菓子だもん。売れないわけがないよ」


 クスリと笑みを浮かべる桜彩。

 そんな顔でそんな言葉をさらりと投げられると、少し照れ臭くなって顔を隠す。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 家庭科室で作業を初めて一時間も経つと、家庭科室は熱気と香りに包まれていた。

 真空パックごとボイルされた肉にはじわりと火が入り、パックから取り出すと香辛料の香りが室内へと広がる。

 怜はそれを丁寧にケバブマシーン用の串に重ねて刺し、トレーへと並べる。

 切り揃えられた野菜はバットに山のように盛られ、後は家庭科部の出店場所へと運ぶだけだ。


「よし、これで下準備は完了だね」


 奏が腕を組んで言うと、皆も満足そうに頷く。


「ふーっ、やっと終わったーっ!」


「いや、まだ始まってもいないからね」


「そうそう。本番はこれからだし」


 やるべきことはやった。

 充分な下準備をして迎える本番を前に、確かな高揚感が湧き上がってくる。

 怜は調理器具を片付けながら、桜彩と視線を交わす。


「順調だな」


「……なんだか、ほんとに始まるんだなって感じ」


「ああ。ちゃんと準備してきたしな」


「うん。みんな頑張ったよね」


 桜彩の口元に浮かぶ笑みを見て、怜も自然と肩の力が抜ける。

 一方で陸翔と蕾華はカラフルに仕上げた生地の型を抜きながら大はしゃぎしていた。


「ねえりっくん、見て見て! このクッキー、ハート型にしてみた!」


「おー、映えるな! カップルに大人気間違いなし!」


「良いじゃんそれ!」


 部員達の間にも笑いが広がる。

 文化祭という特別な舞台に、皆の気持ちが自然と高揚していく。

 そしてざわめきが落ち着いたのを見計らって、奏が一歩前に出た。


「……よし。これで家庭科部の準備は完璧!」


 胸を張って頷く奏。。

 どこか誇らしげに笑いながら言葉を続ける。


「文化祭本番、絶対に成功させるよ! ウチらの作るケバブも焼き菓子も、きっとたくさん買ってくれる! 全員で力を合わせて、最高の文化祭にしようね!」


 一瞬の沈黙のあと、


「「「「おーっ!」」」」


 皆の声が重なり、家庭科室に響き渡った。

 怜も声を合わせながら、隣の桜彩と視線を交わす。

 桜彩はほんの少しだけ頬を赤らめながらも真剣に頷いた。


「じゃあ、一度クラスに戻って持ち場の確認をしよう。集合は開会の挨拶の後、模擬店のブースで全員で迎えてから、店番を残して解散ってことで!」


 家庭科部員達の各クラスでのシフトは、開会直後は完全にフリーだ。

 であれば、全員一緒に模擬店に集合ということになった。

 奏の言葉に部員達は返事をして、それぞれ荷物をまとめて教室へと向かう。


「それじゃーね!」


「うん! また後で!」


「シフト忘れないでよね」


 そんなことを話しながら、教室へと歩き出す部員達。

 廊下には既に他の生徒達の笑い声や掛け声が響いており、文化祭前の高揚感が満たしていた。

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