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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第九章後編 アフターストーリー(秋:文化祭)

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第462話 トリックアート準備

 文化祭の前々日の放課後。

 教室内の空気は独特の高揚感に包まれている。

 クラスでトリックアートを作ると決めてから、少人数毎のグループに分かれてそれぞれがトリックアート作りに取り組んできた。

 机の上にはマーカーや紙、段ボールの切れ端が散乱しており、壁際には絵を飾る為のパネルが並んでいる。

 絵だけではなく観光地にある顔抜きパネルのような簡単な作品もあれば、手の込んだ立体作品もある。

 正直トリックアートと呼べるか疑問だったり完成度は様々だが、とはいえ文化祭ということを考えれば充分だろう。

 クラスメイト達はそれぞれが手掛けたトリックアートの最後の追い込みをしたり、教室のどこに飾ったら良いか考えたりしながら教室内を文化祭モードへと変えていく(翌日は文化祭準備日で授業はなし)。


「ここはこんな感じでどう?」


「うん、もう少し色を明るくすると目立つかな」


「こっちの角度から見ると立体感が出るね」


 今も机も集まって互いに声を掛け合い、作品の最終調整を進めているグループがある。

 マーカーを手に真剣な表情で線を描き足す者、段ボールを切って形を整える者、粘土で細部を盛る者。


「ここ、ちょっと角度を変えた方が立体感が出るんじゃない?」


「じゃあちょっと試してみる?」


 スマホで写真を撮っては確認するグループ。


「ここ、遠目から見ても立体に見えるよ!」


「ほんとだ、光の当たり方で全然違うね」


 声が弾み、机や床の間を行き来しながら作業する。


「なあ、これどうだ?」


「おおっ、完璧だろこれ!」


 完成した顔抜きパネルに顔を当てて出来栄えを確認し、写真を撮る者達もいる。

 皆の声や室内の机を動かしたりする雑音が、文化祭前のテンションを更に高めていく。

 そんな中、怜達ボランティア部の四人は教室の隅で完成した絵を大型のパーテーションへと貼り付けていた。

 その大きさは、普通の扉の二枚分。

 当初はここまで大きなものを作るつもりはなかったのだが、桜彩の描いたラフを見たクラスメイト達が、もっと大きな物を作って目玉にしようと言い出した為にこのような大きさとなってしまった(桜彩が仕上げた絵を拡大した)。

 空中に描かれた大きなハート、テーブルにはグラスが置かれており、そこから二本のストローがハートを形作って伸びている。

 あくまでも紙の上の平面に過ぎない。

 しかし絵の前に立ってポーズをとると、まるでハートの上に乗ったカップルが一つのグラスからジュースを飲み合っているかのように見える仕掛けだ。


「よし、これで完成だな!」


 分割した絵をパネルへと貼り直して、ついに完成。

 四人の間に自然と笑みがこぼれる。


「だけどさあ、こうして見てみると、なんていうか、ホントに甘いよね」


 完成した絵を見ながら蕾華が呟く。

 正直、他のクラスメイトが作った作品とはクオリティが違うのももちろんだが、それとは別に作品の方向性が大きく違っている。

 まさにカップルの為に用意された作品だ。


「ねね、完成したの? …………うわーっ、すごっ!」


 パネルの裏から顔を出して覗き込んできた奏が、完成した作品を見て目を見開く。

 期待通りのリアクションだ。


「あ、そっちの方もできたの?」


「クーちゃん、見せて見せて―っ!」


 奏の声が耳に届いたのか、クラスメイト達からの期待の声が上がる。

 一時的に作業を中断して期待に満ちた目を桜彩へと向ける。


「え、えっと……はい、完成しました」


 少しばかりおどおどとしながら答える桜彩。


「それじゃあ、向きを変えるか」


「だな。それじゃあ、せーのっ!」


 怜と陸翔でパネルの向きを変えて、完成した作品をクラスの中央へと向ける。

 その瞬間、クラスメイトの視線が絵に集中し、そして一気に歓声が上がった。


「わわっ! 何これ!」


「本格的ーっ!」


「おーっ、すげぇ!」


「ちょっと待って、これ本当に平面? 影とかハイライトとか、めっちゃリアルじゃん!」


「やばい、ハート浮いてる! ほんとに宙にあるみたい!」


「え、これ、クーさんが描いたんだろ? マジ才能あるじゃん」


 皆の口から感嘆の声が次々に飛び出す。

 桜彩は少し頬を赤らめ、手を胸の前で軽く揃えた。


「いえ……皆で頑張ったから、ここまで形になったんです」


「いやいや、桜彩の絵がなかったら絶対ここまで立体的にならなかったって」


「怜の言う通りだぞ。さやっちがいてこそだ」


「そうだよサーヤ」


 そう言うと、桜彩は小さく、それでいて誇らし気に笑みを浮かべた。

 クラスメイト達は絵のそばまでやって来て、手を当てたり角度を変えて眺めたりしている。


「なあなあ、実際にやってみようぜ!」


「賛成! 誰がモデルやる?」


「おーい、誰か俺とやってくれねーか?」


「えーっ、武田とでしょ? 遠慮しとく」


 盛り上がる声に、教室中がどっと笑いに包まれる。


「これ、文化祭で盛り上がるだろ!」


「うちらのクラス、絶対勝ちだな」


「いや、勝負とかないし」


「SNS映えヤバそう。写真撮りに来る人、めっちゃいると思う」


 感想の嵐が飛び交い、クラス中の皆が集まって来る。

 そんな中、陸翔と蕾華が顔を見合わせてにやりと笑った。


「一番最初に撮るのは決まってんだろ!」


「うん。ほらサーヤ、れーくん! 絵の前に来て!」


 そう言いながら、親友二人が怜と桜彩の背を押して絵の前に立たせる。

 ニヤニヤと笑いながらそれを眺めるクラスメイト達。

 中にはスマホを取り出して、撮影準備をしている者までいる。

 当然陸翔と蕾華もその中に含まれているのだが。


「そ、それじゃあ、桜彩……」


「うん……」


 怜はゆっくりとハートの前まで行くと、そこに腰掛けるような体勢を取る。

 そして桜彩も同じように腰掛けるポーズのまま、絵の中のストローへと口を近づける。


「おーっ!」


「やっぱお似合いだわ」


「本当に飲んでるみたい!」


「キャー! クーちゃん、顔真っ赤!」


「おいおいおい! イチャイチャしすぎだろ!」


「いやこれ、文化祭で絶対行列できるやつ!」


 クラスメイト達からの大きな歓声。

 一方で怜としては恥ずかしさで顔から火が出そうだ。


「ほらほら。二人共、こんな感じ」


 蕾華が差し出して来たスマホを見ると、そこには本当に一緒にジュースを飲んでいるような写真が撮れていた。


「わぁ……」


 桜彩がぽつりと声をもらす。

 怜も思わずうなってしまう。


「……凄いな。思ってたよりずっと本物っぽい」


「う、うん……。ほんとに飲んでるみたいに見えるね……」


 写真を見てお互いに照れ合ってしまう。


「それじゃあ次はオレ達だな」


「うん! じゃありっくん」


 お次は陸翔と蕾華の番。

 同じようにハートに腰掛ける感じの体勢を取り、ストローへと口を近づける。


「おおー! 来た来た!」


「第二弾だー!」


 クラスメイトの歓声に背中を押され、堂々と絵の前でポーズをとる二人。

 しかし――


「うーん……。なんていうか、普通……?」


「うん。驚きがないんだよね」


「そうそう。光瀬君とクーちゃんみたいな恥じらいが欲しいよね」


 等と、堂々とした二人に対して苦笑しながらの意見が飛ぶ。

 怜から見れば、この二人も大分微笑ましいとは思うのだが、ある意味で自然過ぎるということだろう。


「それじゃあ次は――」


「おーい、みんなはかどってるーっ?」


 その時、教室の扉が開き、そこから瑠華が姿を現した。

 自然と視線が陸翔と蕾華の方を向き


「……な、なにこれぇぇぇえええ!!!」


 顔を真っ赤にし、持っていたファイルをバサッと落とした。


「え? 何やってるのって、トリックアートを実際に試してるところだよ」


 全く悪びれず(悪いことをしているわけでもないが)、むしろ挑発するような視線を向ける蕾華。


「だ、だって! このトリックアート! なんでそんなイチャイチャする内容に!?」


「えーっ、別に良いじゃん。お姉ちゃんもやれば? あ、相手がいないか」


「むううううううううーっ!!」


 声を張り上げて喚く瑠華に、クラス中が爆笑する。


「先生、落ち着いてください!」


「やばい! 嫉妬してる!」


「ちょっと蕾華、なんとかしなよーっ!」


 そんな瑠華に陸翔はなだめるように声をかける。


「まあまあ先生。文化祭に向けていい作品できたってことで」


「なんでこんなラブラブな作品作るのよーっ! もっと別のテーマでも良かったじゃないのーっ!」


 発狂する瑠華を尻目に、怜は桜彩と視線を交わす。


「……凄いことになっちゃったな」


「ふふっ。でも、楽しかったよ」


 二人で肩を寄せ合い、どたばたをよそに、ただ穏やかに笑い合う。

 こうしてクラスのトリックアートの展示準備は多少のトラブルがありながらも着々と進んで行った。

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