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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章後編 アフターストーリー(秋:文化祭)

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第459話 調理実習① ~ケバブを作ろう~

 家庭科部で文化祭の内容を決めてから数日後の土曜日の午前。

 領峰学園の家庭科室には、家庭科部とボランティア部の全員が集合していた。

 この日は文化祭で作るケバブと焼き菓子の調理実習。

 本番で失敗しない為に、一度練習を挟むこととなった。


 焼き菓子の方は既にオーブンへと入っており、これから作るのはケバブの方。

 数日前から怜が特製のタレに漬け込んでいた鶏肉の入った真空パックをいくつか冷蔵庫から取り出す。

 真空パックの中ではパウダーやクミンが肉全体に馴染み、このまま焼いても美味しそうだ。

 とはいえ本番を想定して湯を張った鍋へ真空パックごとそっと沈める。


「まずはボイル。ここでしっかり中まで熱を通しておけば、当日のグリルで生焼けの心配がなくなる。温度は大体八十度以上を絶対にキープ」


 これで完全に熱を通すことにより、食中毒の危険を無くす必要がある。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 時間が経過したので、怜はお湯から袋を取り出す。

 開封すると湯気と共に、家庭科室にスパイスの香りが一気に広がった。


「うわあ、いい香り!」


「うん。これだけでも美味しそう」


 部員達の間から感嘆の声が漏れる。

 怜は開封した袋からトレイへと鶏肉を移し、まだ熱いそれを調理用の手袋を着用して串へ重ねて刺していく。


「本番ではもっと何枚もの肉を刺すけど、今はこれだけ。そしてここからはグリル。表面を焼くことで香ばしさが出るし、見た目も美味しそうになる」


 串をグリルに立ててスイッチをオン。

 加熱が始まると、じゅうじゅうと脂が落ちて香りが弾ける。

 その音に、部員達の視線が自然と集中した。


「火加減は中火くらい。強すぎると焦げて苦くなるし、弱すぎると香ばしさが出ない」


 徐々に肉の表面がカリッと色づき、先ほどよりも強い香りが家庭科室を満たしていく。


「すごっ! さっきよりも更に美味しそう!」


「このタレが焦げる香りって良いよね!」


「やばっ! 待ちきれないんだけど!」


「ていうか、迫力あるよね」


 ケバブの機械で焼かれている鶏肉は、見た目も香りも食欲を誘ってくる。

 これがケバブの魅力だろう。


「これ、とっても美味しそうだね。前にキサラギパークで食べたのよりも、もっと!」


 怜の隣では桜彩も目を輝かせている。

 桜彩の言葉で怜も以前、キサラギパークでダブルデートした時にケバブを食べたことを思い出す。


「そう言ってくれるのは食べた後で頼むよ」


「うんっ!」


 桜彩の言葉を嬉しく思いながら、怜はナイフを手に取り表面から薄く削ぐように肉を落とした。


「切る時は厚すぎないように。薄く削いで重ねることで、食べた時に柔らかくてジューシーになる。厚いと噛み切れなくて食べにくいから注意」


 ナイフが肉を滑るたびに、削がれた肉がステンレスのトレーに積み重なっていく。

 香ばしく焼けた表面と内側のふっくらとした肉質のコントラストが美しい。


「さて。とりあえずこの時点で味見してみるか」


 そう言って爪楊枝を用意して、部員皆へと配っていく。

 皆、ウキウキとしながら肉を食べると、その顔が幸せそうに変化した。


「熱っ! けどやっぱり美味しっ!」


「凄いですね。香ばしくって、ジューシーで……」


「なんか本場のやつみたい」


 怜もそのうちの一かけらに爪楊枝を刺して、ふーっ、吐息を吹きかける。


「ほら、桜彩」


「うん。ありがと」


 それを桜彩は当たり前のようにパクリと食べる。

 そして皆に負けず劣らず幸せそうな表情を浮かべる。


「とっても美味しいよ! やっぱり怜の味付けは最高だよ」


「ありがと。そう言ってくれると安心するよ」


「ふふっ。それじゃあ怜もほら」


 そう言って桜彩が先ほどの怜と同じように爪楊枝で肉を取り、ふーっ、吐息を吹きかけて差し出してくれる。


「あむっ……。うん、いい感じだな」


「でしょ? 美味しいよね」


「…………おい、お前らな」


「何やってんの」


 その声に振り返れば陸翔と蕾華が呆れた顔をしてこちらを見ていた。


「いや、何って味見だけ……ど…………」


「そ、そうだ、よ……」


 そして二人の周囲には、呆れたににやけたり、様々な表情の家庭科部員達がこちらを眺めている。

 普段通りに相手に食べさせるのを、皆の前でやってしまったことに気付く。


「きょーかんもクーちゃんも目に毒だよー」


「ちょっと、仲良すぎじゃない?」


「あたし達の前で堂々とやるとか……」


「ごちそうさまです」


 次々と茶化す声が飛んで来る。

 顔が真っ赤になってしまい、隣の桜彩は顔を両手で覆って隠している。


「ねえねえ、もう一回やってー」


「……黙れ宮前」


 からかってくる奏に一言いった後、再び食材の方へと向き直る。


「次は野菜の番だな」


「あーっ、きょーかんごまかしたーっ!」


 後ろで騒ぐ声が聞こえるが、反論したところで相手を調子づかせるだけだと思い、無視を決め込む。

 机の上にはまな板や包丁、炒める為のフライパン(本番では鉄板だが)、ピタパンに挟む為のカットされた野菜類が並ぶ。

 そんな中、エプロンを付けた怜は皆の視線を集めて調理台の前に立つ。

 熱したフライパンに油らを注入、そして玉ねぎを投入し、軽く炒め始めた。


「野菜は炒めすぎない。シャキッとした歯ごたえを残すと、肉とのバランスが良くなる。焦げ目を少しつけるくらいがベストだ」


 油に包まれた野菜がぱちぱちと音を立てる。


「玉ねぎから炒めるのが基本。甘みを出したいから、焦がさないように中火でじっくりだ」


 フライパンの中の玉ねぎがじゅわっと音を立て、少しずつ透き通っていく。

 自然と部員達の目がフライパンに集中する。


「キャベツは水分が多いから、火を通しすぎるととべちゃっとなる」


 簡単に説明しながらパプリカを加える。

 赤と黄色の彩りがフライパンの中で鮮やかに混ざる。


「きょーかん先輩、炒める順番は絶対ですか?」


 すると横の一年生から質問が飛んできた。


「順番は大事だな。玉ねぎの甘みを引き出す為先に入れるし、キャベツは食感を残すために最後に。火の通りも均一にできる」


「なるほど。ありがとうございます」


「焦がさないで炒めるのって難しいですね……」


「中火を保って、底から返すのがコツだ。急いで返すと油が飛ぶし、焼きムラもできる。本番では鉄板だから、そこの違いはあるけど」


 そう言いながら、怜はゆっくりと野菜を返す手元を見せる。


「パプリカって、焼きすぎる風味が落ちますよね?」


 別の部員からの質問がくる。


「そうだな。鮮やかな色と歯ごたえを残すために、通し過ぎは良くない」


 赤と黄のパプリカを指して、色の変化も確認して説明を続ける。


「キャベツは水分が多いから、焦がさないようにさっと混ぜるんだ」


「はい!」


「わかりました!」


「味付けはどうするんの?」


「味付けは肉でしっかりしてあるから、野菜は塩コショウで調整するだけで充分。焦げないように気をつけながら混ぜる」


 フライパンを傾け、ヘラで野菜をさっと返す。


「こうやって混ぜると、火の通りムラも防げる」


 しばらくして玉ねぎ、パプリカ、キャベツの炒めたて野菜が並び、香ばしい香りが部室を包み込む。


「次は炒めた野菜を肉と合わせて、ピタパンに挟むんだが、その前に最後のチェック。熱は充分に通ってるか、味は均一か、焦げはないか」


 フライパンの野菜をざっと混ぜ、香りと色を確認。


「ってなわけで、これで野菜の方も完成。後はパンに挟んでソースをかけて終了」


「なるほど。結構注意点も多いんですね」


 出来上がった野菜を見て美都がふんふんと頷く。


「ああ。それじゃあ次は調理班で実際にやってみるか」


 出来上がった野菜を大皿へと移し、次は当日の調理班の番だ。

 調理班に割り当てられた部員達が、今の怜のアドバイスを受けてそれぞれ実際に野菜を炒めていく。

 その間も怜はアドバイスを与えながら、野菜の状態を確認する。

 しばらくして野菜を炒め終わると、それぞれの野菜から漂う香りと色がが視覚でも食欲をそそる。


「じゃあ、次はピタパンに挟む作業だな」


 ピタパンを網の上で軽く焙りながら、更に肉を切り落としていく。


「どのくらいの量を入れるんですか?」


「一人分でこのくらいだな」


 怜は野菜と肉をトングで掴み、大体の量を示して見せる。

 そして軽く焙ったピタパンの中に詰めて、上からソースをかけて完成だ。

 他の部員もピタパンを手に取り、楽しそうに詰めていく。

 その間に質問をしてコツを確認したり、ソースの量を調整したりと活気と集中に満ちていた。

 こうして、ケバブの練習は野菜炒めと肉の準備を終え、ピタパンに挟む作業も完了。

 残すは味見をするだけという状態で、家庭科室には香ばしい香りと部員達の期待に満ちた笑い声が漂っていた。

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