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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章後編 アフターストーリー(秋:文化祭)

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第458話 部活での出し物決め

 放課後、秋の柔らかい日差しが窓から差し込む家庭科室。

 机の上には昨年の文化祭で使ったレシピや部員達のノート、筆記用具。

 ペットボトルやカップなどが無造作に置かれ、更には何種類かの焼き菓子が摘まれている。

 そんな中、家庭科部の新部長である奏(前期が終わり、家庭科部の新部長は二年生の責任者である奏へと引き継がれることとなった)が両手をぱんと打ち鳴らすと、部員達は一斉に視線を集め、ざわざわしていた空気がすっと引き締まった。


「それじゃあ、文化祭の家庭科部の出し物についての話し合いを始めるよーっ」


 とはいえ部長が奏になったからと言って良くも悪くも何かが変わるわけでもない。

 普段の部活は緩い雰囲気で楽しく行われているし、講師が怜だよりというところも変わってはいない。

 そして本日の議題は文化祭において家庭科部及びボランティア部合同の活動内容決め。

 普段通りの調子で奏が会議を進めていく。

 他の者達もお茶を飲んだりお菓子を摘まんだりしながら、和気藹々と緩い空気で会議が始まった。


「昨年はケバブと焼き菓子だったよねー」


 前部長の立川がマドレーヌを手に持ちながら呟く。

 昨年は、メインステージのすぐそばでケバブの出店をやった。

 その際には立地条件とケバブを回して焼くというインパクト、そしてスパイスの香りなど、様々な要因から常に客足が途切れることはなかった。

 また、家庭科室の方でも何種類かの焼き菓子を配り、ケバブの横で売ったり、トレーに入れて売り歩いたりした。

 ちなみに三年生は既に引退しているが、元々の家庭科部の雰囲気もあって時々お菓子を食べに家庭科室を訪れることもある。

 文化祭においても、元家庭科部の三年生は皆、家庭科部としての出し物に参加することとなった。


「人気あったもんね。ケバブは凄い行列できてたし」


「だよねー。まあインパクトあったからさ」


「ステージのすぐそばで、一店だけ見栄えする感じで作ってたからねー」


 昨年のことを懐かしく話す二、三年生。

 一方で一年生はその様子を興味深く聞いている。


「ずいぶん本格的だったんだね」


 隣の桜彩が小さく話しかけてくる声に怜は苦笑する。


「いや、本格的なのは見た目だけな。回転式グリルがあった方が見栄えがするってだけ」


「そうなの?」


「ああ。そもそも絶対に食中毒を出すわけにはいかないからな。だから予め、真空パックに調味液と肉を漬け込んで、それをお湯でボイルして完全に熱を通す。そしてそれをグリルで焼くって方法を取ったんだ」


 素人に寄って一番怖いのは食中毒。

 よって生焼けによるリスクを最大限に回避する方法を取った。


「それを鉄板で焼いて調理するよりも、回転式グリルでやった方が本格的に見えて客も入るからな」


「なるほどね」


 実際に少し離れたところから見ても、回転式のグリルで肉を焼く様子は迫力があり見栄えも良かった。

 それが客足の一因になった面は間違いなくあるだろう。


「でも、ケバブ切るのムズかったよね」


「うん。お客さんを待たせることになったし」


「でもさ、準備段階でちゃんと熱通しといたから、焼けるの待ちってのはなかったよ」


「お菓子の方はどうだったんですか?」


 一年生の質問に、上級生は少し困ったような顔をする。


「午後になると焼き菓子は余っちゃったんだよね」


「うん。当初はケバブのとこで売るだけの予定だたのがさ、急遽トレーに載せて売り歩くことになったし」


 三年生の女子が付け加える。

 確かにケバブ屋で焼き菓子を一緒に売ったところで、人の目はケバブに向く。

 行列も一緒だった為に、焼き菓子だけを購入したいという客は並びにくかっただろう。


「もし可能なら……、去年とは違う新しいメニューも試してみたいです」


「新しいメニューか……面白い意見だね。例えば何かある?」


「うーん……。例えばクレープとか?」


「あ、それ良いかも! 見栄え良いし!」


「だね! 何種類かフルーツ入れればバリエーションも出るし」


「賛成賛成」


 一年生の意見に何人かが目を輝かせる。

 それを聞いた奏が怜の方に問いかける。


「だって。きょーかん、それどう思う?」


「うーん……。少なくともクレープは反対だな。衛生面から生の食材は基本的に認められていないんで、フルーツは使えない」


 学生の出す模擬店ということで、出店物には色々な制限が設けられている。

 特に食中毒に直結する食品の取り扱いについてはかなり制限が多い。


「まあ、ジャムとかで代用もできるけど、それじゃあ味気ないしな」


「そうなんですね」


 残念そうに何人かが呟く。

 確かにクレープ自体は見た目も良いし、怜としても好きな部類だ。

 稀に自分で作って食べることもある。


「それとな、焼き菓子自体の大きなメリットとして、材料が共通で作れてロスが発生しにくいってこともある。文化祭ってことでそこまで凝ったレシピじゃなく、ホットケーキミックス使うからな」


「あ、なるほどー。確かにウチでも何回か作ってますもんね」


 新入生に対する部活説明の際のマドレーヌをはじめとし、他にもクッキーやマフィンなど、この部活で何度かホットケーキミックスを使ったレシピを試している。

 他の部員も問題なく作ることができるので、手間もかかりにくい。


「焼き菓子って何を作ったんですか?」


「去年は確か、マドレーヌとクッキー、後はマフィンかな。それとちょっと値段高めのパウンドケーキ」


「味変なんかも簡単だしね。去年はノーマルとチョコチップ、ココア味作ったよ」


 うんうんと頷く上級生。


「現実問題として、作り易さってのは重要だと思う。ケバブの方が面倒な分、他に作るのはできるだけ簡単なのが良いな」


「だね。焦って手順を増やすと、失敗も増えるし」


 奏も現実的な観点から怜の意見に同意する。

 一年生は小さく肩を落とすが、理解を示すように頷いた。

 その後も話し合いは続いたがアイデアが出なかったので、奏が手をパン、と叩いて話を打ち切る。


「じゃあ、結論としては、今年もケバブと焼き菓子で行くってことで。改善点を踏まえて、去年よりスムーズに、より美味しく出す! これで意義はないかなー? ……ないってことで決定ね」


 そう言って奏は室内を見回すが、反論がなかった為にケバブと焼き菓子で決定になった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一度休憩を挟んで会議を再開する。


「じゃあ、ケバブと焼き菓子で行くことは決まったけど、次は具体的にどうするかだよね」


 奏が話を切り出すと、部員達の注意が自然と集まる。


「まずきょーかんの意見を聞きたいんだけどさ、基本的に去年と同じってことでオッケー?」


「ああ。ケバブは昨年と同様に、生焼けが出ると危ないから、事前に調味液に漬けてボイルしてからグリルする方法で行こうと思う」


「ん、オッケー」


「正直生焼けのリスクがないってのが大きいよねー」


「うん。焼き加減見るのってムズイし」


 他の皆も賛同の意を示してくれる。


「生野菜を使えない分、ケバブに入れる野菜は火を通す必要がある。去年はキャベツだったな」


 本来は生のキャベツを使いたいのだが、さすがに衛生面から断念し、焼きキャベツを挟むことになった。


「あの、彩り用に火を通したトマトや玉ねぎを挟むというのはどうでしょうか……?」


 手を挙げて、遠慮がちに問いかけてくる桜彩。

 奏を見ると、その目が『きょーかん、どうなの?』と言っているように見えたので、怜が答えることにする。


「うん。それは良いと思う。ケバブにも合うしな」


 そう答えると、桜彩は少し嬉しそうに微笑んだ。


「その場合は一緒に焼いちゃう? それとも分ける?」


「分けた方が良いかな。それぞれ苦手だって人もいるだろうし」


「あ、じゃあむしろさ、玉ねぎとトマトはオプションで追加料金にしちゃうってのはどう?」


「……それは一長一短だな。現状初めての試みだから売れ行きが分からないし、足りないこともあるし余り過ぎることもある」


「あ、そっか。確かにねー」


「まあ、希望すれば入れないってことで良いだろうな」


「そうだね」


 とりあえずケバブの方は昨年に加え、トマトと玉ねぎ、それにパプリカをトッピングで増やすということに決める。


「焼き菓子の方は?」


「そうだな。ホットケーキミックスで作れるというと、マドレーヌ、クッキー、マフィン、パウンドケーキ。他にはスコーンやドーナツか」


 ホットケーキミックスで作れそうな焼き菓子を列挙していく。

 ついでに今食べているクッキーもホットケーキミックスを使って作った物だ。


「焼き菓子の方は、注文を受けて作るんじゃなく、あらかじめ大量に作っておけばいいからな。売れ行きを読む必要はない」


「それじゃあ、今あげたの全部作る?」


「いや、作業の負担になることを考えると、それはやめた方が良い」


 いくらホットケーキミックスを流用できるとはいえ、それぞれ別の工程で作らなければならない。

 人員配置を考えれば、それは厳しいだろう。


「その変わり、味変の方ならそこまで難しくはない。さっきのに加えて抹茶味とか、きなことか」


 クッキーやマフィンの味変であれば、作る途中で材料を少し加えるだけ。

 それであれば手間も少ない。


「オッケー。それじゃあ焼き菓子の方は去年と同じでマドレーヌとクッキー、マフィン、パウンドケーキってことで。なんかアレンジしたい人いるー?」


「あ、私和風のパウンドケーキとか作ってみたいです。餡子とか入れて」


「チーズなんかも合いそうじゃない?」


 出たアイデアを、奏はホワイトボードへと書き出していく。


「ねえ、怜。クッキーの形はどうするの?」


「そうだな。去年はオーソドックスな丸とか四角とかだったな」


 それを聞いた桜彩は少し考えて、そしてぱあっ、と明るい表情で口を開く。


「ねえ、それだったら形もこだわっても良いんじゃない? 猫とか犬型とか、子供たちに人気でそう」


「それ良いな。金型は俺もいくつか持ってるし」


 怜もクッキーなどを焼くときに使う金型はストックしてあるし、なんなら桜彩と共に購入した猫の足型もある。

 そう言ったものを使えば形のバリエーションも出せるだろう。


「じゃあハート型はどう? 二人っぽくて可愛いじゃん!」


 すると蕾華がニヤニヤとしながら口を挟んで来た。

 思わず顔を見合わせる怜と桜彩。

 耳まで赤く染まり頬が熱くなる。


「それ良いかも! ハート型にしようよ、二人用に!」


「『食べると両想いになれるかも』ってキャッチフレーズで売るのは?」


「あ、それ賛成! 実例として、二人の写真も載せちゃう?」


 蕾華の発言を聞いた部員達も、怜と桜彩の方を見ながら色々と言ってくる。


「なんなら実際に食べさせ合う実演販売ってのはどうだ? ほら、怜がさやっちにハートのクッキーをあーんって食べさせるとこ見せちまえよ!」


「りっくんナイス! 実際に両想いのカップルがやってるんだからご利益あるよね!」


「できるかんなこと!」


「そ、そうですよ!」


 親友二人の提案に桜彩と共に大声で抗議する。

 まあ、皆も冗談で言っているのは分かるのだが。


「……でも、ハート型も悪くないかもな」


 怜が小声で返すと、桜彩は恥ずかしそうに目を伏てにこりと笑った。

 そんな感じでからかわれつつも会議は楽しく進んでいき、それぞれの役割を決めたところで第一回の会議は終了となった。

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