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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章前編 アフターストーリー(秋)

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第455話 ハロウィーン① ~猫とお菓子~

 十月末。

 世間はハロウィーン一色。

 ニュースでは都心の賑わいが大きく取り上げられて、仮装した人々が夜通しはしゃいでいるらしい。

 一方でこの辺りではそこまで派手な騒ぎはなく、普段とはほとんど変わらない。

 とはいえ全く変わらないかと言えばそうでもない。

 少し前の夕方に駅前の商店街を歩いた時は店先にジャック・オー・ランタンがちょこんと並び、夕暮れのオレンジ色と混ざり合っていた。

 リュミエールのショーケースにも、数日前からパンプキンプリンやパンプキンパイが並んでいる。

 本日は怜も家庭科部にて、ボランティア部と合同でパンプキンパイ作りを行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 家庭科部で作ったパンプキンパイを持ち、桜彩と共にアパートへと帰ってくる。

 一度桜彩は自室へと戻り、私服に着替えてから怜の部屋を訪れる。


「ただいま」


「おかえり」


 そして二人で抱き合って、そっと唇を合わせる。


「ちゅ…………」


「ちゅっ…………」


「……何度やっても幸せだな、本当に」


「……えへへ。私も。それじゃあお料理しちゃおっか」


 おかえりのキスを済ませた後は夕食作り。

 本日はハロウィーンということで、夕食の方もカボチャ尽くしだ。


「えへへ。またカボチャだね」


「ああ。まあハロウィーンだしな」


 先ほど家庭科部でもカボチャを使った為、桜彩は手際よくカボチャを調理していく。

 そして料理が完成。

 メインとなるパンプキンシチューは、鶏肉や季節のキノコも合わせてとても美味しかった。

 その後はいよいよお待ちかねのデザートタイム。

 家庭科部で作ったパンプキンパイと、怜が前日に作った人間の指そっくりのクッキー。

 通称、デッドフィンガークッキーである。

 細長く伸ばされたクッキー生地で、人間の指にそっくりの形。

 関節部分は包丁で小さな筋を刻み、先端にはアーモンドが爪の代わりとして押し込まれる。

 生地を紫色にすれば、まるでゾンビの指だ。

 仕上げに赤いジャムを滲ませておけば、まるで血のりをつけたかのように見えてしまう。

 完成品は一瞬ぎょっとするほどの不気味さだが、食べてみればただのサクサクとした甘いクッキー。

 クッキーの甘さが恐ろしげな見た目との落差を際立たせる。

 パンプキンスイーツほど有名ではないが、ハロウィーンの定番のスイーツでもある。

 それを用意しようとすると、桜彩が


「あ、ちょっと待っててもらえる?」


 と言って立ち上がる。


「どうかしたのか?」


「あ、うん。ちょっと一回自分の部屋に戻って用意するね」


「用意? 何の?」


 そう聞き返すと、桜彩は少し顔を赤くして慌てる。


「え、えっと……ひ、秘密っ! と、とにかく怜は待っててね! すぐにインターホン鳴らすから!」


「いや、鍵は開けとくから勝手に入ってくれていいぞ」


「い、いや、そ、そうじゃないから……! と、とにかくすぐにインターホン鳴らすからね! そしたら玄関に来てドアを開けて!」


 早口でそう言い切ると、桜彩は逃げるように玄関へと向かった。

 ドアが閉まる音が響き、部屋には怜がぽつりと残される。


「……一体何を用意してるんだ?」


 疑問に思いながらも、怜はソファーテーブルの方へお茶会の準備を再開する。

 温かいお茶を淹れ、カップを並べ、家庭科部で作ったパンプキンパイとデッドフィンガークッキーを皿へと盛りつける。

 少しすると、玄関のインターホンが鳴った。

 言われた通り玄関へと向かい、ドアを開ける。

 瞬間、目を疑った。

 目の前にいるのは間違いなく桜彩。

 しかし、その桜彩が先ほどとは違い、黒猫の格好をしていた。

 頭には小さな三角の猫耳カチューシャ、首には鈴のついたチョーカー。

 腰から伸びる尻尾は細く、桜彩が少し動くたびにぴょこりと揺れる。

 ワンピースは黒を基調としたシンプルなものだが、胸元と裾にあしらわれたレースが可愛らしい。

 手には短い手袋をはめ、指先には小さな肉球模様。


(やば…………!)


 大好きな桜彩がこのような格好をして現れたことにより、怜の心臓はもう爆発寸前。

 普段の猫耳パジャマを見ているとはいえ、それとは比べ物にならない破壊力だ。

 そんな怜に対し、桜彩は恥ずかしそうに顔を赤くしながら怜を見上げる。


「に……似合ってる、ニャ……?」


 桜彩が猫の手を作って上目遣いで問いかけてくる。

 怜は内心の動揺を押し殺しながらも、なんとか言葉を紡ぎ出す。


「も、もちろん……! マジで可愛い……!」


 そう答えると、桜彩は一瞬驚いた後、嬉しそうに、そして恥ずかしそうに身をよじる。

 瞬間、猫の尻尾がふわりと揺れた。


「あ、ありがとね……」


「似合ってる。可愛いよ、本当に」


「も、もう……やめてよ……、恥ずかしいんだから……!」


 可愛いと繰り返すと、桜彩は恥ずかしそうに両手で顔を半分覆った。

 小さく肩を揺らして震えるその様子は、まるで子猫のようで見ているだけで愛おしくなる。


「ま、まあとにかくリビングに行くか」


「う、うん」


 このアパートの共用通路にいつまでもこのような格好をして立っているわけにもいかない。

 よって一度リビングへと移動する。


「まさか、コスプレして来るとは思わなかったよ」


「うん。この前、蕾華さんと一緒に買ったんだ」


 ということは、今頃は蕾華もこのような格好をして、陸翔と過ごしているのかもしれない。


「えへへ……。可愛いって思ってくれて良かった……!」


「そりゃあ思うに決まってるって」


 怜の言葉に桜彩は顔を赤くして、尻尾をぴょこぴょこと揺らした。

 まるで本物の猫が喜んでいるようで、怜がつい頭を撫でると桜彩は嬉しそうに手に頭をこすりつけてくる。

 しばらく桜彩の頭を撫でた後、桜彩は怜の正面に立って、ハロウィーンの定番のセリフを口にした。


「そ、それじゃあ怜……。と、トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」


 小さく揺れる尻尾、耳を動かす仕草。

 猫のようにいたずらっぽく見せる桜彩に心を奪われそうになる。

 トリックオアトリート。

 日本語で言うところの、いたずらかお菓子か。

 ハロウィーンの夜、子供達は悪霊から身を守る為に霊の格好をして、各家庭を訪れてこの言葉を口にする。

 これは悪霊から身を守るためや、霊のふりをして家々を訪れ、死者の霊のためにパンを配る代わりに祈りを捧げてもらう風習を元にしたものだ。

 もっとも今では単純にコスプレをしてお菓子を貰えるイベント、として定着しているが。


「…………」


「えっと……、怜……?」


 返事がないことに不思議そうな顔をして桜彩が問いかけてくる。

 ちょっと困った猫の桜彩。

 その可愛さに、怜の中でイタズラ心が芽生える。


「……イタズラって、どんなのだ?」


「…………え?」


 この返答は予想していなかったのか、桜彩はきょとんとしてしまう。

 耳がピクリと動き、尻尾も大きく揺れる。


「残念だけど、お菓子はないんだ」


「ええっ……!?」


 桜彩が驚くのも無理はないだろう。

 何しろソファーテーブルの上にはデッドフィンガークッキーやパンプキンパイが並んでおり、お茶会の準備が完成している。

 甘い香りがリビングに漂い、温かなお茶の湯気も立ち上がっている。

 それでも怜はニヤリと笑って、困ったような猫の桜彩に再び同じセリフを口にする。


「お菓子はないんだ。さあどうする?」

美都には桜彩と恋人同士になったことを伝えています

その際には奏と同じように、二人の仲を祝福してくれました

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