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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第九章前編 アフターストーリー(秋)

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第453話 お月見② ~もしもかぐや姫だったら~

「あ、おーい!」


 出来上がった団子をタッパーに詰め、虹夢幼稚園を訪れる。

 すると準備をしていた蕾華がこちらを見つけ、大きく手を振ってくる。

 それを確認して、怜と桜彩は蕾華の元へと小走りで急ぐ。


「お待たせ」


「こんばんは、蕾華さん」


「うん! 待ってたよ! さ、こっちこっち!」


 テンション高い蕾華の後について幼稚園の中へ。

 普段は施錠されている屋上への扉を開けると、そこには既にお月見の準備が整っていた。


「待ってたぜ、二人共」


「バウッ!」


 屋上には既に陸翔とその飼い犬のバスカーが待っていた。

 小さなテーブルが置かれ、その上には団子を置く為の台座が用意されている。

 地面にはシートが引かれ、人数分のクッションと毛布が揃っていた。

 風は心地よく、夕暮れの光はもう残っていない。


「じゃあ、まずはお供えだね」


「うん、みんなで一緒に」


 持ってきたバッグの中からタッパーを取り出し、団子を丁寧に並べていく。


「よっしゃ。準備完了」


 四人の間に自然と笑顔が広がる。

 白木の台座に三段の団子が静かに積まれている。

 月を迎えるための供え物としてその均整は崩れることなく、凛とした気配を放っていた。


「バウッ」


 尻尾を振りながらバスカーが近づいてくる。

 その目は団子に釘付けで、陸翔の方を見て食べても良いかと聞いているようだ。


「ストップだ、バスカー」


「バウッ」


 陸翔が注意するとバスカーは小さく吠えてからその場に待機する。


「ごめんな、バスカー」


「バウゥッ!」


 代わりに怜が優しく撫でると、嬉しそうに尾を振った。


「バスカーもお月見参加だな」


「うん」


 怜が笑うと桜彩もくすくすと同意する。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 夜空が徐々に深く青く染まっていく。

 満月はまだ少し欠けているが、柔らかく輝き屋上を静かに照らす。

 怜と桜彩は肩を並べ、手を触れ合わせながら静かに座り空を見上げた。


「綺麗だね……」


「そうだな。星空ってのは飽きないな」


 桜彩は怜の腕に軽く寄り添い、怜も自然と手を添える。

 陸翔と蕾華も同じように並んで空を見上げる。

 バスカーもそっと四人の足元に座り、静かに夜空を見上げているかのようだった。

 時折お互いに視線を向けて微笑む。

 屋上には静かな月光と穏やかな風、そして四人と一匹の柔らかな気配が満ちていた。

 時折びゅう、と風が吹く。

 日中はまだ熱いとはいえ、夜となればさすがに気温が下がり肌寒い。

 怜はシートの上の毛布を二枚取って、そのうち一枚を


「はい、桜彩」


「あ……」


 片側を桜彩の肩にかけて、もう片側を自分の肩へと掛ける。

 そしてもう一枚の毛布は体の前面に載せて二人で使用する。


「えへへ。ありがとね」


「どういたしまして」


 二人でクスリと笑い合う。

 そして桜彩が肩に掛かっている毛布を軽く摘まんで


「でもさ、こうして二人で使うには少し小さいよね。だから……」


 そう言って、身体を密着させてきた。

 隣の桜彩の体温を感じ、心と体の両方が温かい。


「これで、もっと温かくなるね」


「ああ。桜彩を感じるよ」


「私も、怜を感じる。……こういう時間、幸せだね」


「そうだな。こういう何気ない時って幸せだよな」


 桜彩の頬がほんのり赤くなる。

 一方で陸翔と蕾華は怜と桜彩の方を見ながら、同じように毛布を掛けて身を寄せ合って笑っていた。


「バウッ!」


 バスカーが自分を忘れるな、とばかりに吠えて、二組のカップルの間に入ってくる。

 幸運にも今年の十五夜は満月。

 月はその姿を完全に見せていて、月光が四人と一匹の影を作る。


「月が凄く大きいね。それに綺麗……」


「うん……見てるだけで心が落ち着くな」


 怜も静かに頷き、そっと桜彩の手に触れる。


「こうしてみんなで見ると、月も更に綺麗に見えるね」


「やっぱり屋上は特別だな」


 陸翔と蕾華も月を見上げて穏やかな表情を浮かべている。


「こうして月の下で恋人と一緒にいると、なんだか時間がゆっくり流れてるみたいだな」


「うん……。ロマンチックだね」


「それ分かる。こういうのって良いよね」


「だなあ。たまにはこうして落ち着いて恋人同士で月を見るってのもな」


 四人でそんなことを呟いていると、バスカーが小さく鼻を鳴らし、カップル以外にもいるんだぞ、と言うように身を寄せてくる。

 怜は軽く頭を撫でて笑う。


「そうだな。バスカーもこの夜を楽しんでるな」


「バウッ!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく四人で星空を眺める。

 星を見たり、月を見たり、飛行機の明かりが横切るのを眺めたり。

 すると桜彩が小さな声で囁いてきた。


「怜……。かぐや姫の話、知ってるよね?」


「もちろん。竹から生まれて、たくさんの求婚者に囲まれたけど、最後は月に帰っちゃう話だろ?」


「うん……。でも、地上で過ごす時間、あんなに楽しそうなのに……やっぱり寂しかったのかな……?」


 桜彩の声には、ほんの少しの切なさと、それに混ざった優しい響きがあった。


「地上での時間が楽しかったからこそ、月に帰るのも辛かったんだろうな」


 怜はそう言いながら、桜彩の手を軽く握った。


「ねえ、怜。もしもさ、怜が帝で、私がかぐや姫だったら……どうする?」


 笑いながらも真剣な目で問いかけてくる桜彩。

 その問いに怜は少し考えて口を開く。


「もし……か。もし、俺達がかぐや姫の話の中にいたら……俺は絶対、ずっと一緒にいるぞ」


 怜は少し笑いながらも真剣な目で桜彩を見る。


「俺は帝として、かぐや姫である桜彩を絶対に離さないだろうな。地上での時間も、月に帰る日も……ずっと一緒に過ごさせるぞ」


 桜彩は腕を組みながら、少し考えるふりをしてから、ふっと笑った。


「ふふっ。もし私がかぐや姫だったら……私はきっと、地球にずっと残っちゃうと思うな」


 怜は少し驚きながらも、微笑む。

 桜彩ならばきっとそう言うだろうと思ったから。


「残る、か……。それは嬉しいけど、ずるいな。月に帰る姫を引き留めるのが俺の役目じゃなかったのか?」


 桜彩は小さく首を傾げ、怜の肩に頭を軽くもたせかける。


「だってさ、怜と一緒にいたら楽しいんだもん。地球の時間も、怜と一緒なら、ずっと特別だよ」


 怜は胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。

 肩に置かれている桜彩の頭をそっと撫でる。


「……そうか。なら、俺は帝として、かぐや姫を絶対守る。どんなに月が呼んでも、俺のそばにいてくれって」


 桜彩の頬が赤く染まり、繋がれた指先に力を込めて握り返してくる。


「うん……私も、怜のそばにいるよ。どんなに遠くに行けって言われても、ずっとここにいる」


 二人で笑い合い、唇の端で微かに囁く。


「じゃあ……、私がかぐや姫でもずっと地球に、怜の隣にいるね」


「もちろんだぞ。俺のそばから、絶対に離れさせない」


 怜と桜彩は互いの手を握りながら、かぐや姫と帝の物語を自分たちの現実に重ね、これからも続く特別な夜を胸に刻んでいた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……あいつら、すっかりラブラブだな」


 陸翔は肩をすくめ、微笑みながら蕾華に小声で囁く。


「うん、でも見てて微笑ましいよね。れーくんもサーヤも照れちゃって」


 蕾華もにっこり笑い、怜と桜彩の姿に目を細める。

 バスカーがくるりと体を丸め、二人の側を行き来する様子を見て、陸翔が小さく笑う。


「バスカー、二人の間に割り込もうとしてるみたいだな」


 蕾華も笑いをこらえ、手で口元を押さえる。


「ほんと、みんな自然に寄り添ってて、見てるだけで幸せになるよね」

すみません

明日私用の為、次回投稿は木曜日を予定しています

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