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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章前編 アフターストーリー(秋)

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第450話 前期期末試験終了① ~クラスの公認カップル~

「終わったーっ!」


 九月末、前期期末テストが全て終わり、教室内は解放感に包まれる。

 放課後の教室には、テストを終えたクラスメイトの声が大きく響いていた。

 ノートをまとめる音、鉛筆を片付ける音、時折笑い声が混じる教室。

 そんな中、怜も両腕を上げて伸びをしながらテスト終了の解放感に身を任せる。


「やっと終わったな……」


 小さく息をつく。

 胸の奥に、ずっと張り詰めていた緊張がほぐれる感覚があった。


「ほんと、終わったって感じだね。テスト前はずっと気が張ってたし」


 桜彩も隣で筆記用具を片付けて、深く伸びをした。

 髪の先が肩に触れるたびに、どこか柔らかい香りが漂う。


「二人共、手応えはどうだ?」


 前の席から陸翔が振り返って尋ねてくる。


「まあ、ぼちぼちかな。いつも通り」


「私は充分だよ。勉強したところ、完璧だった」


 嬉しそうにそう告げる桜彩。

 どうやら手ごたえは充分ということだ。


「ふふっ。怜の対策集のおかげだよ。ありがとうね」


「お礼はまだいいって。結果も出てないんだし」


 笑いながら言うが、この様子なら結果も上々だろう。

 前回に引き続き、対策集が役に立ってくれたようで何よりだ。


「アタシもいつも通りかなー」


「オレは調子良かったぞ。苦手科目でも詰まるとこそんなになかったし」


 この分だと蕾華と陸翔も手ごたえはあるということだろう。

 四人揃って手ごたえを感じる。


「お疲れーみんなー」


「おーい、今回どうだった?」


 他にも何名かのクラスメイトを交えてテスト後の感想を言い合う。

 特に前期のみの科目は今回の出来が赤点に直結する為に、戦々恐々としている者もいる。

 すると女子グループの中の一人が桜彩を見て楽しそうに口にする。


「ねえクーちゃん。手応えあるんだったら、今回はトップ獲れるんじゃない?」


「前回の差も僅差だったし、いけるんじゃない?」


「うんうん。光瀬君の連続記録、ストップできるんじゃない?」


 数人の女子が口々に言いながら、桜彩に寄ってくる。

 桜彩は少し照れたように笑いながら、顔を赤らめる。


「そ、そうかな……?」


 小さく首をかしげながら答える桜彩。

 そして怜の方をちらりと見つめてくる。

 その仕草や表情が妙に心に刺さる。


「だからなんで俺よりも桜彩がトップ獲ることを望んでるんだよ」


 口を窄めて、クラスメイトの女子達を軽く睨む。


「えーっ、だってさー、いつも光瀬君がトップでもう見飽きたって言うかー」


「だよね。たまには他の人がトップ獲った方が面白いじゃん!」


 笑いながらそう口にされる。

 見飽きたとか面白いとか言う理由でトップから落ちることを期待されるのは釈然としない。

 まあ、冗談だということは理解しているが。


「まあまあ。アタシやりっくんは二人共応援してるからね」


「そうそう。怜もさやっちもどっちが一位でも褒めてやるから安心しろっての」


「そりゃあありがと。……ってか俺と桜彩以外の人がトップ獲る可能性だってあるからな」


 そう呟く怜だが、目の前の親友は笑って掌を横に振り否定する。


「あはは、確かに理屈の上ではそうだろうけどさ、でも二人のうちどっちかだと思うよー」


「そうだっての。これまでお前が圧倒してたんだから、よほどのことが無いと怜の牙城は崩れねえよ。そのよほどのことが起きるとしたら、それこそさやっちくらいだろうしな」


 怜としても二人の言うことも分かっている。

 何しろ一年生の時から二位に平均点で三点差をつけていたのだ。

 そんな怜より上の点数を取ることなど、それこそ二年生になって転入してきて、前回の試験で一点差未満の差に収まった桜彩くらいだろう。


「ふふっ。怜のことは私が応援してるからね。今回も良く頑張ったよ」


 そう言いながら、桜彩が手を伸ばして頭を撫でてくる。

 その手の感触が気持ち良くて、つい頬が緩んでしまう。


「ありがと。でも桜彩も頑張ったからさ」


 そう言って、怜も桜彩の頭へと手を伸ばして撫でる。

 桜彩は一瞬驚いたような表情をするが、すぐに手を受け入れてくれる。


「うん。やっぱり怜の手、気持ち良いなあ」


 頭を撫でると至福の表情で桜彩が呟く。

 こうして見ると、本当によく懐く猫のようだ。

 そんなことをしていると、教室内のあちこちから笑い声が飛ぶ。


「ちょっとちょっと、あの二人、頭撫で合ってるんだけど!」


「見て見て! クーちゃんホント幸せそーっ!」


「ここだけ見れば全然クールなイメージないよねー」


「光瀬も自然に頭撫でに行ったよな」


「もう周り何てお構いなしかよ!」


 周囲のクラスメイトが次々に声を上げ、茶化してくる。

 その声に桜彩と共に慌てて手を離したが、既に後の祭りだ。


「いやー、もう完全にクラス公認のカップルだな」


 陸翔までもがからかいに同調する。

 ニヤニヤという視線を浴びて、怜は耳まで真っ赤になり頭をかく。


「…………うっさい」


「うぅ…………」


 桜彩も顔を真っ赤にして視線を机に落とす。


「あははっ! 別にいーじゃん。今更なんだしさ」


 背後からの声に振り向けば、後ろに回った奏が両手を怜と桜彩の肩に当てながらニヤニヤと笑っていた。


「今更って何だ」


「だから、二人がイチャイチャしてるのなんていつもの事なんだから、別に恥ずかしがる必要もないってこと!」


「いつもイチャイチャしてるわけじゃねーだろ」


「そ、そうですよ……! ふ、普段はもっと、その、普通じゃないですか……」


 その言葉に奏をはじめとするクラスメイトは呆れた顔で見てくる。


「いやいや、それ、普通じゃないからね」


「奏の言う通りだって! 先週だって、二人で席並べてノート見てたでしょ?」


「そうそう。光瀬君がクーちゃんのノートを覗き込んだ瞬間、二人とも顔赤くしてたよね」


「シャーペンがぶつかりそうになって、互いにちょっと手を引いたじゃん」


「お昼の時なんかもうラブラブすぎだし!」


 言葉を聞くたびに胸がぎゅうと締め付けられる。

 桜彩も頬を真っ赤にして、手で顔を覆ってしまう。


「いや、あれは偶然だし……!」


 怜は必死に否定するが、皆のニヤニヤは止まらない。

 助けを求めるように前の席の親友へと視線を向ける。


「偶然って毎回だろ」


「ほんと、二人とも無自覚にいちゃつきすぎだよ」


 即座に裏切られた。

 陸翔と蕾華も一緒になって笑いながら追い打ちをかけてくる。


「ぐ…………」


「うぅ…………」


 怜は思わず頭をかき、視線を逸らす。

 心臓はドキドキして止まらず、胸の奥は熱さでいっぱいだ。

 桜彩も小さく息を吐き、そして顔を覆った両手の隙間からちらりと怜の方を見てくる。

 瞬間、目が合って二人の間には甘くて恥ずかしい空気がふわりと漂う。


「あーっ、きょーかんとクーちゃん、見つめ合ってるーっ!」


「ほらほらほら! それだってそれ!」


「言ったそばから二人の空気作るとかーっ!」


「竜崎先生に見られたら発狂しちゃうよーっ!」


 等と即座にからかいが再開された。


「もう……やめてくれよ、ほんとに……」


 怜は小さく呟き、机に突っ伏した。

 桜彩も同じように、顔を手で押さえたまま机へと倒れてしまう。


「ほらほら! 二人共倒れてないで、打ち上げいくよっ!」


「ほら早く! 置いてっちゃうからね」


 この後はクラスメイト共にテスト終了後の打ち上げが待っている。

 その為、恥ずかしさを抱えながら顔を上げて席を立つ。


「それじゃー、レッツゴー!」


 奏を先頭に打ち上げへと向かう。


「桜彩」


「うん」


 そして怜と桜彩は手を繋いで皆の後を追いかけて――


「あーっ、きょーかんとクーちゃん、手、繋いでる!」


 即座に奏にバレた。

 皆の視線が再度自分達に集中する。

 しかし、どれだけ恥ずかしくとも、繋いだ手は離さない。


「別にいいだろ。早く行こうぜ」


「そ、そうですよ……」


 恥ずかしさを隠すように早歩きになって昇降口へと向かう。


「これはこれは。打ち上げの時にもっと聞かせてもらう必要がありそうだねー」


「だよねー。皆の前でこれだから、二人きりの時はもっとすごそーっ!」


「答えるまで帰さないようにしようね!」


 周囲から不穏な声が聞こえてくるが、とりあえず聞こえなかったことにする。

 恥ずかしさを感じつつも、こうして恋人と手を繋いで歩くことに、心の奥ではほんのり幸せな気持ちが膨らんでいた。

 なお、陸翔と蕾華も手を繋いでいたのだが、こちらは今更過ぎて誰もツッコむことはしなかった。

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