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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章前編 アフターストーリー(秋)

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第445話 再びの女子会① ~追及されるクールさん~

 土曜日、女子が何人か集まってカラオケをすることになった。

 前日に発起人である奏に誘われた桜彩も怜にその旨を伝えたので食事についての心配はない。

 カラオケが一時間ほど経過したところで、自然と小休止。

 熱気に包まれていたカラオケルームの空気が少し落ち着いた。


「歌い過ぎてちょっと喉乾いた。アタシ、ドリンク取りに行ってくるね」


 ちょうど歌い終えた蕾華がマイクを置いて立ち上がり部屋を出ていく。


「みんなは? ついでに持ってこよっか?」


「ううん、大丈夫。まだあるから……ありがとう」


「うん。だいじょーぶだよーっ」


 蕾華が飲み物を取りに出ていったのを見届けた瞬間。

 まるでその時を待っていたかのように、田島がごく自然な仕草で桜彩の隣に滑り込むように座った。


「でさ、クーちゃん」


「……え?」


 ジュースのストローに口をつけたまま振り返ると、田島の笑顔がどこかいたずらっぽく見えた。

 嫌な予感がした、というより嫌な予感しかしなかった。


「光瀬君と、どうなの!?」


「……っ!?」


 予想通り嫌な予感が当たった。

 桜彩の手からジュースの紙コップが落ちそうになる。

 慌てて押さえたが手元がじわりと汗ばんでいく。


「ど、どうって……な、なにがですか……?」


「え〜? だって、彼氏でしょ? クーちゃんの」


「うんうん。夏休み前からずっと聞きたかったんだけど、二人とも隠してたみたいだし。でもまあ、もうバレたから色々と質問しても良いかなって」


 皆が口々にそう言って笑いながら、にじり寄ってくる。

 囲まれる形になって、桜彩はたじたじとソファの背に寄りかかった。

 助けを求めてドアの方をちらりと見るが、蕾華が戻って来る様子はない。


「で? どんな感じなの?」


「どんな感じとは……?」


「付き合ってから、ちゃんとデートとかした?」


「えっ……え、あ……あの……はい……す、少しだけ……」


「どこ行ったの?」


 肯定すると更に目を輝かせて聞いてくる。


「えっと、えっと……、その、ショッピングモールで雑貨屋さんとか……画材屋さん……あと、お茶に……」


 恥ずかしながらもデートの内容を伝える桜彩。


「可愛すぎん!? なんか真面目なデート!!」


「ねぇねぇ、クーちゃんってさ、彼氏と二人きりの時にどんな話してるの?」


「えっ!? えっと、えっと、それは……え、な、なんでもないこととか……、ふ、普通の、えっと、学校のこととかを……」


「なんかめっちゃ動揺してるー!」


「そーいうの聞きたいんだよね〜」


 目を輝かせながら皆が聞いてくる。

 矢継ぎ早に飛んで来る数々の質問に桜彩は考える余裕もなく、もういっぱいいっぱいだ。


「雑貨屋って、やっぱりペアの何か買ったんじゃないの〜?」


「いや、雑貨屋以外でも色々と買ってると見た!」


「そ、それは……」


 恋人になる前にお互いに贈り合ったキーホルダー、初めて雑貨屋を訪れた時に買ったお揃いのカップ。

 そして初めてのデートで贈り合ったネックレスに恋結びの神社での恋のお守り。

 曖昧に濁そうとするが、反応が鈍った瞬間、相手の顔にニヤリとした笑みが浮かぶ。


「買ったな、これ!」


「えー? 何買ったの?」


 とすかさず追及や笑い声が飛んでくる。

 もう顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。


「恋人になってからどう? やっぱ前よりドキドキする?」


「そ、それはもちろんそう、ですけど……」


「どんなとこがドキドキするの?」


「こ、こういう話って……あんまり……」


 しどろもどろに答えると、すぐさま横から奏が


「ね、告白の言葉は? どっちから?」


「それは、二人同時で――」


 しまった――と思い口を閉じる桜彩。

 両手で口を押えるがもう遅い。

 その言葉が皆の耳に届いたことは、相手の表情を見れば明らかだ。


「えーっ、何それ!」


「ね、ね、クーちゃん! そこのところもっと詳しく!」


「二人同時ってどういうこと!?」


「え、えっと……」


 興味津々の眼差しが一斉に注がれる。

 桜彩はテーブルの上のストローをいじりながら、声を更に小さくする。


「花火大会が終わって、二人で波打ち際で星を見てたら、流れ星が流れて……」


「キャー! ロマンチックじゃん!」


「やばい、聞いてるこっちが照れる!」


 黄色い声と笑い声が一気に弾け、桜彩が耳まで真っ赤になる。

 だが、これまでの質問がまだ序章であったことを桜彩はすぐに知ることになった。


「……でさ、キスはもうしたの?」


 その瞬間、桜彩の肩がビクリと跳ねた。

 顔から湯気が出そうなくらいに熱くなり、目を見開いたまま固まる。

 思考が真っ白になり、今自分が何を考えているのか分からない。


「――――ッ!」


 声にならない悲鳴を心の中で上げ、紙コップを持つ手に思わず力がこもる。

 視線はさまよい、答えにならない断片的な言葉が唇から零れる。


「えっ、その…そ、そういうのは……あの……」


 どうにか言葉を繋げようとするが、皆の期待と好奇心の入り混じった笑みが、それをことごとくかき消していく。


(やめて……! そんな顔で見ないで……!)


 胸の鼓動が速くなり、顔は熱くて今にも湯気が立ちそう。

 足元のカーペットの模様を必死に見つめるが、逃げ道はどこにもない。


「やっぱ、もうキスとかしたんだ!?」


「そ……そ……それは……その…………」


 言葉にならない声が漏れ、口元を手で覆う。

 そんな桜彩の反応を見てクラスメイト達が更に沸き立つ。


「ほら見て、図星じゃん」


「クーちゃん、耳まで真っ赤!」


 必死に否定しようとしても、舌がうまく回らない。

 焦れば焦るほど、声は裏返り、語尾が小さくなる。


「ち、ちが……っ、あの……えっと……! ひ、秘密です…………!」


 思わず口から零れた声、しかしそれは肯定したも同じだった。

 それを理解したクラスメイト達は目を輝かせてすり寄って来る。


「ほらーっ、やっぱりやったんだ!」


「ね、ね、どうだったの!?」


「キスはどっちから!?」


「いやいや、そこは男子からっしょ!」


「でも、クーちゃんって結構積極的なところもあるしー」


「――――ッ!!」


 その瞬間、部屋の扉が開き、ドリンクバーから戻って蕾華が姿を現した。


「ら……蕾華さんっ! た、助けて下さい!」


 すがるような思いで部屋へと入って来た蕾華に助けを求める桜彩。

 蕾華は訳が分かっていないのか、一瞬きょとんとした様子で皆を見回し


「――なに? サーヤ、いじめられてる?」


 さすがに本気でそんなことは思ってはいないだろうが、とはいえ訝し気な視線で奏の方を軽く睨む。

 しかし奏はどこ吹く風、といった感じで蕾華の視線を受け流す。


「いじめてなんてないってー。ただきょーかんとクーちゃん、どんな感じか聞いてるだけ」


「聞いてるって、どうせ尋問みたいに皆で質問攻めしたんじゃないの?」


「うぅ……。蕾華さあん……」


「ほら、だから言ったじゃん。今日来るってことはこういう話されるって」


 何しろ今、クラスで一番の話題は桜彩と怜が付き合い始めた(ことを公表した)というニュースだ。

 その片割れがこうしているのだから、聞かれないわけはない。

 蕾華は苦笑しながら、隣に座ってカップを差し出してくれる。


「ほら、サーヤ。冷たいの飲んで落ち着きなって」


「うぅ……うぅぅぅ……」


 ジュースを受け取り一口すすると、炭酸の刺激が喉にしみた。

 頭の中はまだ真っ白。

 しかし、蕾華の隣はやはり安心できる。

 そして蕾華は席に座ったまま再び皆の方を見回して


「サーヤをからかうのはアタシの専売特許なんだから、勝手にやっちゃ駄目!」


 親友の口からまさかの裏切りの言葉が聞こえて来た。


「ら……蕾華さんっ!?」


「ってわけで、ほらサーヤ! アタシにだけは話してくれるよね!?」


 ニヤニヤとした目で問いかけて来る。

 皆の好奇心は、しばらく止まる気配がなかった。

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