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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章前編 アフターストーリー(秋)

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第442話 いつもの朝食作り+二人分のお弁当作り

 朝、ジョギングを終えた怜はシャワーを浴びて私服へと着替えエプロンを着用。

 しばらくすると玄関のチャイムの音が――鳴らずに鍵の開く音が聞こえてくる。

 数秒後、合鍵を使って入って来た桜彩がリビングへと到着。

 その頃には、キッチンにはもう温かな湯気と香ばしい香りが広がっていた。


「お待たせ、怜。すぐに手を洗ってくるから。それと、いつもありがとね」


「気にするなって」


 女性である桜彩は怜よりも、シャワーやその後のケアに掛ける時間が長くかかるのは仕方がない。

 むしろそれで今日も素敵な桜彩を拝めることができる方が嬉しい。

 いや、いつも桜彩は素敵なのだが。


「お待たせ。すぐに私も取り掛かるね」


 手洗いを終えた桜彩が、怜が誕生日にプレゼントしたエプロンを着用してキッチンに入って来る。

 シャンプーやボディーソープの香りがふっと鼻へと届き、それだけで幸せな気分になる。


「それじゃあ今日も作っていくか」


「うんっ! でもその前に……」


 そう言って桜彩は目をつぶり、顎を少しだけクイッと上げる。

 いつもの朝の恒例行事。


「ちゅ…………」


「ん…………」


 唇を触れ合わせ、お互いを感じ合う。

 名残惜しいが唇を離し、二人で笑い合う。


「それじゃあ料理していこう」


「うんっ!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 卵、ベーコン、野菜、パン。

 お揃いで買ったばかりの弁当箱も、きちんと並んでいる。

 昨日、ついにバレてしまった二人の関係。

 まあバレる以前に既に大半のクラスメイトには公然の秘密であったようだが。

 ともあれこうして恋人同士ということが公になった為、今日からは桜彩も怜と同じく弁当食に変更となる。

 フライパンに卵液を流し込み、じゅっと弾ける音が響く。

 しばらくすると、桜彩は真剣な顔で卵焼きを巻いていく。

 これまでに何度も怜の部屋で練習してきたおかげで今では動きもずいぶんと板についている。

 とはいえ初めて学校へ持っていくお弁当を作るとなると、心なしか手元が少し震えていた。


「怜、卵焼き、巻けたと思うんだけど」


 エプロン姿の桜彩が、フライパンを怜に向ける。

 少し形は不格好だが、表面はこんがりと色づき、中はふわりと柔らかそうだ。


「お、いい感じじゃん。ちょっと味見してみるか?」


「……うん。それじゃあ、ふーっ……あーん」


 端の方を切り分けて差し出された卵焼きが、怜の口へと運ばれる。

 ふわりと甘さが広がり、出汁の香りが後から追いかけてきた。


「美味しい」


「ほんと? えへへ……」


 感想を伝えると、桜彩は思わず笑顔を浮かべる。

 表情が言葉以上に素直な喜びを物語っているようで、怜もつられて笑顔になる。

 ただ『美味しい』と言っただけで、こんなに嬉しそうな顔を見せてくれる。

 そんなことをしながらも、怜は手を止めずにベーコンを焼きながらスープを仕上げていく。


「ふふっ。なんか不思議だよね」


「何が?」


「前はこうやって一緒に料理するなんて考えられなかったのに。今は、自然に隣に立ってて」


「それは、俺も同じだな」


「この会話、何度もやってるよね」


「そうだな。でも、こうして二人の関係が変わってきたんだよな」


 怜は小さく笑い、隣の桜彩の手にふと視線を落とす。

 卵を皿へと移し替えている指先までが、どうしようもなく愛おしく感じられた。


「それにね」


 桜彩は弁当箱にプチトマトを詰めながら、ぽつりと続ける。


「今日からは私もお昼はお弁当だしね」


「まぁ、そういうことになるな」


「ふふ……。すっごく楽しみ。……学校でお昼の時間が待ち遠しくなっちゃう」


 食うル、という単語が頭に思い浮かんだが、口には出さずにおいておく。

 弁当箱を両手で大事そうに抱える桜彩の顔は、子どものように嬉しそうだった。

 怜はその姿に、胸の奥がじんと温かくなるのを感じる。


「これからは毎日弁当だからな」


「うん。ほんとに毎日、怜のお弁当が食べられるんだよね」


「もちろん。俺のっていうよりも二人で作った弁当だけどな」


「ふふっ、そうだね。でもやっぱり怜の味付けがあってこそだよ。それにさ、怜と一緒に作るお弁当なら、きっと何倍も美味しいんだと思う」


「そうだな。二人で作って、二人で持っていく。これから毎日、一緒だ」


 その言葉に桜彩の頬が一層赤く染まり、目を細めて嬉しそうに小さく笑った。


「……なんか夢みたい。怜とお揃いだなんて……本当に、幸せ」


 そのまま桜彩は弁当箱を胸に抱き、まるで宝物のように大事そうに見つめる。

 その姿があまりに愛おしくて、怜は思わず視線を逸らす。


「本当に大げさだな」


「大げさじゃないよ。怜と一緒ってだけで、全部特別なんだから」


 照れながらも真っ直ぐにそう言われ、怜は思わず手を止めてしまう。

 気づけば顔が熱くなっていて、慌てて視線を逸らす。


「……ったく、そういうこと、さらっと言うなって」


「え、なに? 照れてるの?」


「照れてない」


「ふふ……照れてる顔してる。怜、可愛い」


「だから……!」


「ふふっ。良い子良い子」


 手の空いた桜彩が頭を撫でてくる。

 頭を撫でることが楽しいのか、ニコニコとしながら優しく撫でられる手に、少しくすぐったさを覚えてしまう。

 子供扱いされているようで少し癪に障るが、とはいえそれも心地良い。


「ありがと。それじゃあお返し」


「えへへ~」


 桜彩の頭を撫で返すと、へにゃりと桜彩の表情が緩む。

 そのまましばらく、二人でお互いの頭を撫で合う。

 二人でそんなやり取りを交わしながら、完成した朝食と弁当をテーブルに並べた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 焼き立てのトーストに、ふわふわの卵焼き、サラダにベーコン。

 スープからは湯気が立ち、食卓を温かく包んでいる。

 そして横には、色鮮やかに詰められた二つのお揃いの弁当箱。


「じゃあ、まずは朝ご飯からね」


「おう……いただきます」


「いただきます」


 二人の声が重なり、食卓に響く。

 一口食べれば、ふと視線が重なる。

 慌てて逸らして、笑い合って、そしてまた見てしまう。

 そんな繰り返しに、どちらからともなく小さな笑みがこぼれる。

 今日からは、一緒に作ったお揃いのお弁当を、学校で食べる。

 そのささやかな約束が二人にとっては何よりも特別で、大切なものに思えた。

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