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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第九章前編 アフターストーリー(秋)

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第441話 フードコートにて

 買い物を終え、四人で再びフードコートへと戻ってきた。

 先ほどまでは人で溢れていたフードスペースも、昼時を過ぎたからか先ほどよりは空きが目立ち始めている。

 今も一組が片付けを終え、ちょど四人掛けのテーブルが開いたところだった。


「それじゃあアタシ達で席取っておくねー」


「メニューはどうする?」


「フィッシュバーガーのセットでおねがーいっ!」


 そう言って、他の者に奪われないように速足で席へと向かう蕾華。

 手慣れた様子でバッグを椅子の上に置き、場所を確保する。


「オレも蕾華と一緒に待ってるわ。テリヤキのセットで。あとは適当になんか頼む」


「オッケー」


 陸翔もダスターを手にしてそれに続いた。

 怜と桜彩は注文の為にハンバーガーショップの列に並ぶ。

 スマホに表示したメニュー表を、桜彩はじっと真剣な表情で眺める。


「チーズバーガーのセット……でも、ドリンクが悩ましいよね。オレンジジュースか、アイスティーか……」


 真剣に悩むその様子が可愛くて、怜は思わず口元を緩める。


「……凄い真剣に悩んでるな」


「うん、大事だよ。今日の食後の満足度が決まるからね」


「まあ確かに。じゃあ……」


 怜は少しだけ桜彩の方へと身を寄せて、メニューの写真を指差した。


「このレモンソーダとか、どうだ? 夏だしさっぱりしてて合いそうだけど」


「……あ、それ、良いかも。うん、そうする」


 嬉しそうに頷いた桜彩は、くるりと視線を怜に向けて微笑んだ。

 その柔らかな笑みが怜の心にじんわりと染みる。


「怜は?」


「俺? 陸翔と同じでテリヤキバーガーのセットで……アイスコーヒーかな。ちょっとカフェイン欲しい」


「ふふっ。怜らしいね。蕾華さんと陸翔さんの分の飲み物はどうするの?」


「そうだなあ。まあ無難にコーラで良いんじゃないか?」


 陸翔も蕾華も普通にコーラを飲むために、それで問題ないだろう。


「後はなんか追加で買っとくか。もうちょっと食べたいし」


「じゃあナゲットでも頼む?」


「賛成。それとアップルパイも」


「良いね! もちろん四人分!」


 嬉しそうに頷く桜彩。

 やはりこういうところがクールさんだと思ったが、口には出さないでおく。

 そんなことを話していると順番が回ってきた。

 二人で注文を済ませ、陸翔と蕾華の分のトレイを手にすると、自然と歩調を合わせて席の方へと向かう。

 その際にほんの少し触れた桜彩の肩が、なんだか嬉しかった。


「お待たせ―。買ってきたよー」


「ありがとーっ!」


「サンキュー」


 トレイをテーブルに置き、二人と向かい合う形で桜彩と並んで席に着く。


「ね、サーヤ、それレモンソーダ? いいな〜、後でちょっと飲ませて」


「うん」


「あっ、でも一緒に飲むのはれーくんの方が良いかな~?」


「ら、蕾華さんっ!」


 隙あればからかってくる蕾華に、桜彩は慌てて声を大にする。

 そんな桜彩にあはは、と笑ってごまかす蕾華。

 陸翔は何も言わずにニヤニヤとこちらを見て来るが、何か言うと倍になって返ってきそうだったので、怜はスルーすることにした。


「「「「いただきまーす」」」」


 早速蕾華はバーガーの包みを大雑把に外してかぶりつく。

 一方で桜彩は紙ナプキンを丁寧に膝に置き、ストローの包装を外してゆっくりと差し込む。

 その後で丁寧に包み紙を開け、チーズバーガーにかぶりついた。


「ん-っ、美味しい!」


「うん。美味しいね」


「たまにはこういうジャンクなのも良いよねっ!」


「うん」


 一つ一つの所作がいちいち違う二人だが、本当に仲が良く、それがなんだか面白い。

 隣の陸翔も同じことを考えているのか、クスリと笑い合う。

 そして二人でポテトへと手を伸ばす。


「ポテトもちゃんと揚げたてっぽいな。熱そうだ」


「混んでたから作り置きじゃなく揚げたてになったな。ある意味ラッキーかも」


「違いない。桜彩、あーん」


「あっ……。あーん」


 ポテトを一本摘まんで桜彩の方へと差し出すと、桜彩はチーズバーガーを持つ手を下ろして口を開ける。


「あーん。ふふっ、怜に食べさせてもらうと何でも美味しいな」


「じゃあ次は俺の番。桜彩、俺にも食べさせてくれるか?」


「うん、もちろん。はい、あーん」


「あーん……うん。桜彩に食べさせてもらうと、ただのポテトが最高に美味しい」


「えへへ、ありがと」


「あっ……」


 ふと怜はそれに気付く。

 桜彩の口元にはチーズバーガーのソースが付着していた。


「どうかしたの?」


 口元のソースに気が付かず、きょとんとした顔で桜彩が問いかけてくる。

 そんな桜彩に怜は優しく笑いながら自らの口元を指差す。


「ほら、ここにソースが付いてる」


「えっ、どこ?」


 教えた通りに桜彩が頬をなぞろうとすると、怜は軽く首を横に振った。


「じっとしてろって」


 そう言って、自分のナプキンでソースを拭き取ろうと手を伸ばす。

 きょとんとした桜彩は、すぐにその意図を理解したのか微笑んでくれる。


「…………」


「怜、どうしたの?」


 桜彩の微笑を目にした怜の手が止まってしまい、桜彩が不思議そうに首を傾げた。


「……いや、こうして口元にソースが付いてても、桜彩は可愛いなって」


「えっ……」


 つい思ったことを口にしてすると、桜彩が真顔で固まってしまう。


「そ、そんなこと言われたら……恥ずかしいよ……」


「悪い、つい本音が……。でも本当にそう思ったから」


「……もう。怜は、そういうこと不意に言うんだから……。でも……えへへ、ありがとね」


「あ、ああ……。ま、まあお礼を言われることじゃないけど……」


「そ、そうかもね……」


「…………」


「…………」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……なあ、蕾華。どう思う?」


「……どうだろ。付き合う前からこんな感じだったけどさ」


「……なんにせよ、そろそろ再起動してもらうか」


「……そだね」


 それぞれポテトを摘まみながら、この夫婦漫才を特等席で見物していた二人。

 とはいえこのままでは食事が進まないことに加え、多少なりとも周囲の注目を集めて締まっている。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おい、怜。早いとこ拭いてやれって」


「え……? あ、ああ、そうだな」


 陸翔の言葉で我に返り、再び桜彩の口元へと手を伸ばす。


「ん…………」


 ほんの少しの接触すると桜彩の目が瞬き、ふいに伏せられる。


「……ありがとう」


「いや、どういたしまして。……さすがに前みたいな取り方はできないけど」


「うん……、さすがにね」


 小さく付け足すと、桜彩も苦笑して頷く。

 その耳元がほんのり赤く染まっているのは気のせいではないだろう。

 この人込みの中、さすがに以前のようにキスで拭きとることはできなかった。

 一方で親友二人はテーブルの中央に置かれていたナゲットへと手を伸ばしていた。

 マスタードを付けて口へと運んでいる。


「うん! 揚げたてで熱々っ! ほら、サーヤとれーくんも食べなって」


「おう、ありがと」


 怜もナゲットをケチャップにつけて口に運ぶ。

 衣の中からじゅわりと溢れ出す熱々のチキンと肉汁が口いっぱいに広がる。


「うん。これ、セットよりこっちがメインでもいいくらいだな」


 桜彩もナゲットへと手を伸ばし、一つ摘まむ。


「ん……あったかい」


 そのままマスタードを付けてナゲットを食べる桜彩。


「美味しい……」


 ぽそりと呟きながら、嬉しそうにもう一つ手を伸ばす桜彩。

 そんな桜彩を怜はちらりと見て、軽く肩を揺らすように笑った。


「おいおい、食べすぎるなよ? ナゲットはみんなのだからな」


 からかうように言うと、桜彩の手がぴたりと止まった。

 頬をぷくりと膨らませて軽く睨むようにこちらを見上げてくる。


「……別に、そんなに食べてないもん」


 本気で怒ってるわけではない。

 だが、少しだけむっとしている。

 あまりに可愛くて、怜は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。

 それが気に障ったのか、桜彩は眉を吊り上げて先ほどよりも強く睨んでくる。


「怜? 何がおかしいの?」


「いや、怒るなって。桜彩がナゲット食べてるの、可愛いなって思っただけで――」


「……もう」


 そう言った桜彩はもう一つナゲットを取って、今度はちょっとだけ噛みつくようにかじった。


「そんな意地悪言うんだったら、怜のぶん、私が食べちゃおうかな」


「…………食うル」


「怜っ!?」


 怜がぽそりと呟くと、それを聞き逃すことのなかった桜彩がもの凄い形相で睨んでくる。


「今、食うルって言ったよね!?」


「桜彩が俺の分まで食べるって言ったからだろ?」


 そんなやりとりをしていると、向かいの二人がクスクスと笑いを漏らしていた。


「ラブラブなのはいいけど、オレらの分まで減らすなよなー?」


「そうそう」


 からかわれて二人で顔を赤くしてしまう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 食べて、飲んで、そして笑って。

 いつもの二人で作る料理でも、高級料亭で出て来る料理でも、リュミエールで作られたスイーツでもない、ただのファーストフード。

 それでも、テーブルの上に流れる温かな空気がその味を押し上げていた。

 こうして大切な人達と一緒に食べるのであれば、それは何倍にも美味しくなる。

 そして、まだ手付かずのアップルパイが、ふわりと甘い香りを漂わせながら、次の一時を静かに待っていた。

次回投稿は月曜日を予定しています

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