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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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【番外編】第432話 初めてのアルバイト③

 店内の時計が十六時を指し示し、アルバイトは終わりの時間だ。

 代わりの者とレジを変わり、二人で休憩室へと戻って行く。

 タイムカードを切って、小さく息を吐きながら椅子に腰を下ろす桜彩。


「ふぅ……。疲れたなあ……」


「うん……。でも、意外と楽しかったよ」


 桜彩は少し微笑みながらも、まだ緊張の名残からか手を少し握りしめるようにしていた。


「大丈夫か? 無理してない?」


 怜は微笑みながら、桜彩へと水の入ったコップを差し出す。

 桜彩はそれを受け取り一口飲んで、リラックスした表情で口を開く。


「うん……、ちょっと疲れたかも。でもさ、怜がいてくれたからね」


 小さく頷き髪を耳の後ろにかけながら、ほんの少し照れたように微笑む。

 そんな仕草が一々可愛らしい。

 怜は椅子に座ることなく、桜彩の後ろへと回り、優しく肩に手を置いて指先で軽く揉む。


「ここ、ちょっと凝ってるな」


「え……あ……」


 桜彩が思わず小さく声を漏らす。

 怜が指先を肩や首の辺りに動かすと、桜彩の緊張が少しずつ解けていくのを感じる。


「疲れたよな、立ちっぱなしで。ずっと笑顔で……。頑張ったぞ」


「怜……」


 桜彩の頬が赤く染まり、視線が少し下を向く。

 だが、その声には安心と嬉しさが滲んでいた。

 怜は更に手を下ろし、肩甲骨あたりを軽くほぐす。


「こんな感じでどうだ?」


「気持ち良いよぉ……」


 桜彩の声は小さいが、確かな気持ち良さが含まれている。

 そのままマッサージを続けていくと、怜の手が動くたびに気持ち良さそうな声を上げる。


「ありがとう。今日、結構頑張れたのかな?」


「もちろん。ちゃんとできてたし、お客さんも喜んでたぞ」


 労いとちょっとした誇らしさを感じながらそう告げる。

 桜彩は目を細め、肩越しに怜の顔を見上げて小さく微笑む。

 言葉少なでも互いの気持ちは自然に伝わり、手を離すのが惜しくなるような温かい時間がゆっくりと流れる。


「……あ、でも私、まだ緊張しちゃうかも……次、接客する時」


「心配するな。俺がそばにいるだろ?」


 怜は肩越しに軽く笑いながら伝える。

 その言葉に桜彩は少し照れくさそうに顔を背けたが、すぐに嬉しそうな表情で振り向く。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく桜彩の肩を揉んでいると休憩室の扉が開き、何人かの同僚が笑顔で入ってきた。


「お疲れ様! 初日なのに落ち着いてたね」


「笑顔も自然で、接客も丁寧だったよ。見てて安心した」


「あ、ありがとうございます」


 桜彩は頬を赤くしながら、怜をちらりと見上げる。

 怜は小さく頷き、桜彩の手をそっと握った。


「ほら、言った通りだぞ。ちゃんとできたって」


「うん……。怜がいてくれたから、大丈夫だった」


 そんな二人を見ながら同僚の一人が更に続ける。


「本当に初日とは思えないくらい落ち着いてた。お客さんへの気配りも完璧だったし」


「これからもっとお店に馴染むのが楽しみだね」


 桜彩は怜を見上げながら嬉しそうにほほ笑む。

 怜も自然に桜彩の頭を軽く撫でて、柔らかく微笑む。


「怜がそばにいてくれたから、落ち着けたんだよ」


「そう言ってくれると嬉しいな」


 言葉は少なくても、手を握ったり、肩を軽く寄せたりするだけで互いの気持ちが伝わる。

 すると同僚のもう一人が、少しからかうような笑顔で言った。


「でも……、休憩中の二人のやり取り、ちょっと聞いちゃったんだけどね」


 その言葉に怜と桜彩は顔を見合わせ、同時に目を丸くする。


「は、はぁ……」


「え、えっと……」


 ニヤニヤとしながら覗き込んでくる。


「と、とりあえずもう終わりなんで着替えますね! そ、それじゃあ……!」


「し、失礼します……!」


 これ以上からかわれては仕方ないと、桜彩と二人で顔を真っ赤にして席を立つ。

 そんな二人を、同僚達は微笑ましそうに眺めていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 最後に皆に挨拶して、リュミエールを後にする。

 手を繋いでの帰り道、今日の反省やこの後についての話になる。


「この後は夕食の買い物だよね?」


「ああ。それで帰ってからシャワーで汗を流せばいい時間になるだろ」


「うん。そうだね」


 夕食のことを考えながら、楽しそうにスーパーへと向かう。


「じゃあ今日は桜彩の初出勤ってことで、ご褒美だな」


 怜の言葉に、桜彩は目をきょとんとさせる。

 そんな桜彩も可愛くて、怜の心は自然と柔らかくなる。


「ご褒美?」


「そう、初めてのアルバイト記念。夕食はちょっと特別にしよう」


 以前桜彩がリュミエールで絵を描いて、望からお小遣い扱いで給料をもらったことがあったが、あれは別枠で良いだろう。

 正式にアルバイトとして働いたのは今日が初めてだ。

 桜彩は少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに頷く。


「うん、初日だもんね。少しだけ特別にしよっか」


「何食べたい?」


「うーん……怜と一緒に食べるなら、なんでも美味しいかな。でもやっぱり肉巻きっ!」


 嬉しそうに予想通りの答えがくる。

 怜もその言葉に微かに頬を緩め、ゆっくりと頷く。


「やっぱりな。じゃあ、他には何を作るかな?」


「あ、それじゃあさ、あれも食べたい! ミネストローネ! 始めて肉巻きを食べた時のやつ!」


「オッケー。それじゃあ肉巻きとミネストローネな」


「楽しみだなあ」


 ふと風が吹き、桜彩の髪が揺れて怜の頬にかかる。

 そんなこそばゆさを感じながら、そっと桜彩の髪に手を伸ばすと、桜彩も照れながらそれを受け入れてくれる。


「そういえば、サラダはどうする?」


「うーん……、彩りも大事だよね。トマトとアボカドとか、あとレタス」


「なるほどな。スーパーに行ってから決めるか」


「ふふっ……。期待してるよ、怜」


 言葉通り、期待に満ちた目で見つめられて、怜は少し照れくさくなる。

 だが胸の奥は温かく、自然と微笑みがこぼれる。


「デザートは既に用意されてるからな」


「うんっ。リュミエールのケーキも楽しみ~っ!」


「初アルバイト記念に光さんと晴臣さんの試作品、持って帰ってくれって言ってくれたからな」


「うんっ! しっかりと味わって、明日感想を伝えようね」


 手をしっかりと恋人繋ぎしたまま、更に桜彩が体を寄せてくる。

 日常の延長の中の、ささやかな幸福。

 しかしこう言ったものが何よりも愛おしい。


「ふふっ。こうやって二人でメニュー考えるの、楽しいね」


「俺も。桜彩と一緒だと、なんでも楽しい」


 二人揃ってクスリと笑い合う。

 次の角を曲がればスーパーが見えてくる。


「スーパー、もうすぐだね。材料、全部揃えられるかな?」


「少なくとも肉巻きの分は大丈夫だろ。後は売ってる食材に合わせてアレンジするし」


「ふふっ、頼もしいね」


 二人で手を繋いだままスーパーへと足を速める。

 これから二人で過ごす夕食への期待が、心の奥でふんわりと膨らんでいった。

 アルバイト編はこれで終了となります。

 明日カレンダーを投稿し、第九章は月曜日から再開予定となります。

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